芒川線香

「つかの間の生」

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ノスタルジーの言い分では——鹿島田真希「冥土めぐり」感想——

「だから」にみちびかれて 鹿島田真希「冥土めぐり」は2012年に河出書房新社『文藝』に掲載された短編小説である。後に芥川賞受賞作となる。上のシーンはこの作品のハイライトの一つといって差し支えない。  主人公の奈津子は区の保養所として零落したかつての高級ホテルへと訪れる。在りし日の祖父を中心に財を気付いた一族の、すでに失われた栄華を象徴する場所として、奈津子の中でそのホテルは位置を占めている。障害を負った夫・太一を伴う一泊二日の道行では、たびたび娘を抑圧してくる母親と、他人

    ノスタルジーの言い分では——鹿島田真希「冥土めぐり」感想——