北野日奈子 1st写真集『空気の色』

結論から先に書いてしまうと、悪くない。
乃木坂46のメンバー個人の写真集は、企画した出版社が何処になるかで出来が大きく左右される。
メンバーの個性を引き出すことすら出来ず、上っ面だけ舐めてお仕舞いになる事も屡々。
北野日奈子は、大ハズレは出さない出版社を引き当てた。

良くも悪くも幻冬舎の写真集ではある。
生駒、深川、齋藤の写真集を並べて読み返してみたが、造りは似通っている。
水着や下着の部分に或る程度の紙幅を割き、劣情を催せしむる写真さえ載せておけば、それ以外のページは勝手にやって構わず、予算も日程も与えて貰える。
見城徹と言う教養も審美眼もない似而非文化人が一代で築いた出版社ならではの、大らかさと、話の速さと、品の無さ。

先に下世話な話から。
水着と下着に関しては、無から有を作り出すような錬金術的な無茶はしていないが、資源を活用するためには手段を選ばないと言うか、秘術を尽くして寄せて上げたと言うか、ワイヤーのガッチリ入った補整に掛ける執念すら感じるような物だけが選ばれており、色は変われど形は似通ったもの。
強調した部分に視点を誘導して幻惑し、体型の粗を感じさせないようにしているのかとも思ったが、細くは無いにしても弛緩しきっている訳でもなく、北野も北野なりに、力を入れれば腹筋に影が出るくらいの鍛え方はしている。
凹凸は強調して見せているものの、布地も厚手であり、面積として過少と言う事も無く、扇情的なポーズを強いたりもしていない。
強調はしているようでも鎧で固めてあるとも解釈できる訳であり、そう考えると、さらけ出しているようでいて、実のところ守って貰っているのかも知れない。

10月の終わりから11月の始め、初冬のスウェーデン。 首都であるストックホルムと、北極圏にある最北の都市キルナ。
ストックホルムには雪がなく、キルナには雪が積もる。
曇りがちな空、白夜でも極夜でもなく、時折陽は差すが弱く、夜の街や屋内の方が明るいくらい。

北野日奈子がページの右側から駆け込んで来る、コンタクトプリントのような齣の流れから表題ページへ。
写真集本編は自ら髪を切るカットから。 過去との決別、を暗示。

一冊の写真集の中で本人としての役の人生 "だけ" を生きさせるような縛りはなく、商売用の北野日奈子と、そこからはみ出た部分とが、時間軸の中で連なって出て来て、移ろう。
笑顔の続きが寂しげな表情だったり、憂いを湛えていた表情がほころんだり。
感情の揺らぎは見られ、目を潤ませはするが、涙は零さない。
程の良い生々しさ。

藤本和典が、待てるカメラマンだったから撮れた。

巻末のインタビューページは、冒頭のシーンの続き。
ページの左側へ駆け抜けていく。
北野日奈子の復活と再生を象徴する写真集として、良く出来ている。
宝物に成り得る一冊。

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