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ポートフォリオレビュー/アワード 2023 ― 受賞者4名の写真展を開催 ―

富士フイルムフォトサロンの、若手写真家応援プロジェクト。
今年の受賞者については、こちらが詳しい。

3月23日のトークショーの後にざっと見たが、トークショー帰りの人々でごった返していたので再訪して見直し。

松永 誠「I surrender」

街を歩いて目に引っ掛かったものを直感的に撮影し、モノクロームで切り取られた、人の写らないストリートスナップ。

応募作はデジタル出力だったが、写真展までの準備期間に暗室でプリントした作品と取り混ぜての展示。
推薦写真家である中藤毅彦の指導の下で行われた暗室作業で仕上げられたプリントは、撮影意図をより確かなものとして表出出来ているように感じられた。

視覚に引っ掛かった街角の何か棘のようなものに反応して切られたシャッター。
バライタ紙にプリントされると、黒と灰色の間の微妙な諧調で、棘のようなものの背後にある、シャッターを切らせたものの気配が立ち上る。
自分の色、自分のプリントを見つける為の暗室作業。
フィルムに記録された情報から、整理し、抽出された情報を紙に定着させることで、写真に奥行きが出ている。
この経験は、デジタルに移行しても生きて来ると思う。

左がデジタル出力、右が銀塩プリント

しかし、松永 誠の撮る人としての生きざまを表すには、やはりウェットダークルームでのプリントが合っているように感じられた。

加藤 卓「土と太陽」

神奈川県の、海に近い農村の何気ない風景。
大伸ばしにしたものと、小品をコラージュのように集めたものと取り混ぜての展示。
農産物を納める倉庫の庇の下の空間。
奥に山積みにされたパレット。
よくよく見ると、下の地面に小鳥。
ピントはここに合わされている。
大きな画面に目で分け入ると、別の絵が現れる。

その見方で別の大作を見直すと、見え方が変わって来る。

茂木智行「Scratched Moments」

トラムを撮りに行って、トラムを取り巻く街そのものに魅入られて撮らされた写真。
何を撮りたいのか、何度も篩に掛けて精査した結果、当初考えていた者とは別の選択になったようだ。

街を行き交う公共交通機関。
バジャージのオートリキシャ、ヒンドスタンのタクシー、タタのバス、そしてトラム。
これらは黄色や水色、白などの原色と二次色に塗られており、それが街の色になっている。
建物や看板もそうした色彩。
インドの陰陽五行的な思想に基づく色なのだと思うが、現代的な工業製品はそこから外れた色になっており、目だったり埋没したり。

カラーで撮る意味のある、色で語る写真。

minachom「短パン男」

特に目を惹くところも無い「おにいさんとは呼ばれなくなる年頃」の男性を撮った連作。
特に目を惹く顔立ちでもないのだけれど、何をしても、寧ろ何もしない方が絵になる。
何をやっているのかよく分からない親戚のおじさんのような、怪しげな面白さ。

面白くて、一寸苛々するが、憎めない。
近すぎると鬱陶しいが、近くで観察していたくはなる。
そんな相反する感情の洪水。

伏龍は放っておいても雨が降れば天に上るが、鳳雛は手を掛けて育てる必要がある。
ポートフォリオレビュー/アワードは、後者に特化した事業。
巣立ちまでにはまだ時間はかかると思うが、すくすくと育っている。
その労苦を考えると、推薦者が入れ替わるのも頷ける。
写真に関わる企業として、フジフイルムには長く続けて欲しい。

(2024.04.07 記)

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