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人質商法に未来はあるのか

アイドルを長く見ていると屡々目にするのが、集客が芳しくない場合に行われる、所謂「人質商法」である。

「○○人集まらないと解散」
「××枚売れないと引退」

アイドルの進退を人質にして、客に無理を強いる。

こうした施策を使うところは、その前の「売る努力」を怠っていることが多く、一旦はハードルを超えられたとしても、大成することは少なく、その前に長続きしない。
送り手が頭も躰も使っていないからである。 メンバーと客が疲弊して、終わる。

畏友 わんこ☆そば が提唱した「首都圏アイドルファン300人説」と言うのがあった。
各イベントの集客は延べ人数であり、掛け持ちをしているが客多いので、実数としては少ないと言う話。
実際はもっと多いのだと思うが、延べ人数と実数の差に開きがあるのは確からしく思われる。

アイドルの客は階層の中で回遊する。
メジャー志向の客はメジャーアイドルの現場を、インディーズアイドルを好む層はインディーズアイドルの現場を掛け持ちする。
回遊は主に横方向で、縦方向の移動はあまり起こらない。
これが活動を続けても客層に拡がりを持ちにくい要因であり、壁を破り崩すのは容易ではないが、試みなければ縮小再生産を続ける他無い。

同じ階層から一時的に客を集めても、それは所詮一時的なものに過ぎない。
中長期的に活動を続けるためには、別の階層からの客を取り込む営為を、地道に続ける他無い。

人質商法が身近なところで降って湧いたので、備忘録的にまとめてみる。

そのグループは、同じ事務所で先行して活動していたグループの追加メンバーオーディションから始まった。
既に色の付いた先行グループとは明らかに毛色の違うメンツが揃っており、追加メンバーとしてその中から引き抜くのではなく、別のグループとして立ち上がることになったのだけれど、メンバーからの「そうしたい」と言う強い意志が反映されたと聞いている。

歌って踊る姿からは、レッスンが行われ整えられているのは感じられたし、振り付けの独自解釈の枝分かれ具合からは、それぞれが個人で突き詰めていっていることも見て取れた。
やる気は有ったし、努力もしていた。
十代女子と言う一種の謎であり、且つアイドルを目指す、アイドルで在ろうとする、野心と自負心が人一倍ある者が集まれば、軋轢の一つくらい有りそうなものだが、それを感じさせず、仲良く纏まっても居た。 現場マネージャーも慣れないなり、知らないなりに献身的ではあった。
ここまでは、良かった。

手抜きではないオリジナル曲も用意されていたが、耳に引っ掛からない。 悪くはないのだけれど、誰にどう売りたいのかが見えてこない。
手持ち楽曲で間が持たないところは借り物で済ます、これは仕方がないのだけれど、ここで短絡的に「人口に膾炙した盛り上がる曲」を選んでしまう。
その場は盛り上がるかも知れないが、そこで喜んで盛り上がる客は「nerve」や「トライアングル・ドリーマー」に反応しているだけであって、歌っているのは誰でも良い。
誰でも良い人は居着いてはくれないし、誰でも良い人に向けて発信されたものに、誰でも良くない人は食いつかない。
自らの価値を高める為の選曲がなされるべきだったが、そうはならなかった。

もう一つ、「これはダメだ」と思ったのは、主催ライブの終演後物販の仕切り。
トリをゲストのグループに任せ、終演後に特典会と言う流れは悪くない。
しかし、特典会の準備がトリの出番が終わる前に始まり、客が群がってワイワイガヤガヤと始まってしまう。
並行物販に慣れきった客層ならではの無作法。

これはゲストにもゲストの客にも礼を失している。
他者を尊重しないものは、他者からも尊重されない。

成功している同業他社を模倣しても成功するとは限らないが、失敗している同業他社を模倣しても、成功することは先ず無い。

広く売るためになされるべき事がなされずに月日は流れ、自らの怠惰を棚に上げて人質商法に手を染める。

或ることをなしたために不正である場合のみならず、
或ることをなさないために不正である場合も少なくない。
(Marcus Aurelius 「自省録」)

運命の日、4月29日まで一と月を切ってしまっているが、まだ一と月近くあると捉えることも出来る。
賽は投げられてしまったので、あとは前に進むしか無い。
前を向いて欲しい。

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