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エゴに対する考察

感覚と概念 

 感覚的に外界の事物・事象を観察すると、全てのものは違う。「川」と一言で言っても、それは多くの水分子の絶え間ない流れであって、本来は今見ている「川」と10秒後に見ている「川」は違う水である。「りんご」を2つ用意して並べて、「これは同じりんごです」と言っても、感覚的(物理的)によく観察すれば、色・大きさ・形状・味・糖度など厳密には違うものである。
 しかし我々は、感覚的にみれば本来違うものである事物・事象に共通事項を見出し、言語を用いて抽象化・普遍化して概念を形成してく。

 例えば、見た目の少し違う傘のような植物を、まずは視覚的な違いで弁別し、次いで「食べられるもの」という括りで捉え、更にそれに「キノコ」という枠組み(意味性)を与えることで概念化してく。こうすれば、いちいち他者に説明する際に「この様な見た目をしていて云々…味がこんなで云々…」と言わなくても、一言「きのこ」と言えば伝わり、コミュニケーションが円滑かつ効率的になるのである。つまり、概念化(抽象化)することで、我々は厳密には違うものを「同じ」と捉えるように脳を発達させてきたのである。

 意味性を与えることは、言い換えると「対象に意味を見出し、枠組みを形成してくこと」である。この枠組みは、対象からの身体感覚入力が繰り返されることで形成されていく。専門用語を使えば「意味記憶」として刻み込まれていく。(例えば、リンゴを繰り返し見たり聞いたり食べたりすることで「リンゴと言われるものは○○なものなんだ」という意味記憶が形成されていく)

違う世界・同じ世界

 我々人間が世界を捉えるときには上記のように、感覚で捉えて厳密に対象を弁別する「全てが違う世界」と、その感覚の世界に支えられ形成された概念により大きく分類した「同じ世界」に分類することができる。「違う世界」には言語を使用しない動物が居る。「同じ世界」には言語を使用する人間が居る。
 しかし、人間の中にも「違う世界」に住んでいる者がいる。仏教僧である。彼らは、「無常」という概念のもと「この世の一切のものは時事刻々と変化し、一定して同じものは無い」という。「悟り」と呼ばれる境地や老荘思想でいうところの「道」という概念は、名前こそついているものの「その本質は言語化することは出来ない」と常々言われている。本当に悟った者は「私は悟った」とは言わないのである。言語化することは、本質の一部分を切り取ったものに過ぎない

 「リンゴ」などといった、五感で確認することができるもの、感覚ベースに落とし込めるものは他者と共通認識を得やすい。しかし、より高次な抽象概念になると他者と同じ話題について話しているつもりでも、実は異なるものをイメージしている可能性が高くなる。これは人間の争いの根源とも言える。例えば、「正義」「悪」「恋愛」「浮気」「社会」などである。

同じ自己

 我々は、「変化しない一貫した同じ自己」があると思い込んでいる。しかし、APAs(予測的姿勢制御)に代表される通り、我々は「こうしよう」と頭で考えて意思決定する前に、既に脳はその課題を遂行する運動の準備を整えている。また、人間の身体は約10年でほとんどの細胞は入れ替わっている。
 自己の一貫性を支えている「過去の記憶」でさえも、記憶された際に構築されたニューロンネットワークにより生成されるのであり、それは昔から一切変化していないわけではなく、絶えず脚色・更新されている。さらに、記憶=過去の事象というのは間違いであると私は考える。なぜなら、思い出しているのは「今」だからである。過去の記憶を想起したその時(今)、再度その記憶に関連するニューロンネットワークを再構築して電流を流し、ニューロンを興奮させて記憶を脳内に発現させているのである。更にご存知のように、人間の記憶はお粗末なもので正確性にかけるのは言うまでもない。よって、過去も未来もなく、我々が認識できるのは「今、この瞬間のみ」ということになる。
 とどのつまり何が言いたいかというと、我々も含めた全ての世界は常々変化しており、全く同じであることは一時たりともない。これを仏教では「無常」「無我」という。
 エゴに拘ることが如何に馬鹿らしいかということがわかるだろう。

我々は「思う」という事を止めることも出来なければ、その元を絶って「思わないようにする」ということも出来ない。つまり、俗にいう「自由意志」というものは我々にはなく、それは自由にならないものなのである。人に言えない様なことをふと思ってしまった経験は誰しもあるだろう。我々にできるのは、その「思ったこと」を「実行するか・実行しないか」という続行か禁止かの選択のみである。
海外の原始的な生活をしている民族の中には、「全てを今と認識する」という考え方が根付いている民族もあるという。非常にマインドフルである。

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