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8.はじめての肉体労働

サイトでのやり取りしかしていない自分に
なんの迷いなく大手企業の会社の名刺を渡してきたことに
驚きが抑えきれず、私は複雑な表情をしていた。

それに気づいた相手が
「初めてだって言ってたから、安心させたくって」
と言ってくれた。

相手の本心かどうかわからなかったが
私の相手に対する好感度は上がっていた。
この人の言葉を真に受けて騙されてみようと思った。

緊張もほぐれ、食事も終盤に差し掛かったころ
「この後も大丈夫?」
と聞かれ、私は静かにうなずいた。


手を触れたこともない、キスもしたことがない相手と
その先のことをいきなりできるのか不安だった。

適度な距離を保ちつつ、ホテルに向かった。
何度も帰りたいと思ったが、空気を読んで言えなかった。

部屋に入り、相手は部屋を暗くした。
『緊張するでしょ?』
一つ一つの所作に優しさと、場数をこなしているのが
垣間見られ、変に安心した。

相手に委ねよう。投げやりになった。
諦めた。

シャワーを浴び終わった後、
私は相手のリードに体を委ねた。


気づいたときは
変な達成感と少しの罪悪感、そして右手に銀行の封筒を持ったまま
帰りの電車の壁に寄りかかっていた。

3時間で3万円。

思ったよりも苦痛はなく
体を売るということは、こんなものか
というのが正直な感想だった。

もしかしたら体を売るデメリットは
これに気づいてしまうことが
一番のデメリットなのかもしれない。

愛がないとできないと思っていたことが
愛がなくてもできるということ。

それは普通に生活していたら気づかなかった事実なのかもしれない。

わたしはパンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。


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