あの日、 夕明かりの中で ただ見ていた背中は 瞬く間に夕闇に攫われてしまった 僕には何ができたのだろう あの日、 夕明かりに紛れて ただ引き結んでいた唇は 瞬く間に夕闇に包まれてしまった 僕は無力だった 今ならばきっと、 この手を伸ばせばきっと、 文字あそび 夕明かり~ゆうあかり~ 陽が沈んだあとに残っている明るさ。
神の訪れを告げる花にございます じきに時鳥も鳴きましょう 鍬を持ち種を蒔き、大地に祈りを 眩い光と豊かな雨への、尽きなき願いを 命を紡ぐ時告げの神の白き花にございます その御手にて高らかに歌うは時鳥にございます 時知らぬ民へ時を告げる薫香の風にございます 文字あそび 橘月~たちばなづき~ 旧暦五月の異称。 橘の花の咲く季節であることから。
輝くような太陽もいいけれど こんなふうな空も僕は好きだよ 雲に守られている、って感じがするんだ 太陽がまぶしすぎるときは雲に頼ればいい 雲が厚すぎるときは雨を願えばいい 雨に凍えてしまうなら太陽を呼べばいい 全てが君を包んでいるんだよ 文字あそび 若葉曇り~わかばぐもり~ 若葉のころの曇りがちな空模様。
雨が降っていますね 花の雨、香り立つ雨です あの方がいらしたのでしょう 妾に知らせるための香りの雨でしょう 君の目は何も映さず 君の心は面影のみを追い求める 君の耳はなき音を集め 君の頬は幻に笑む あぁ、世は春ですのね 春の花の香りの雨ですね 文字あそび 雨香~うこう~ 雨が香ること。つまり、花の香りを含んで降る雨。
じゃあ、なに? 別れがイヤだから、出合いを避けるってこと? ばっかじゃないの? 別れちゃったら、また出会えばいいじゃんか 何度でも! 何回でも! おれはね、あんたを見つけるよ どこでも! いつでも! だからもう、降参しておれと出会いなよ 文字あそび 会者定離~えしゃじょうり~ 出会った者は、いつか必ず別れる運命にあるということ。 世の無常をいった言葉。 会うは別れの始め。
誰も見えぬと言うのです そんなものなどないと そんな花などないと ならば、ならば、 あれはわたしだけのものだと 信じても良いのでしょうか わたしだけに贈られた花だと いつか、いつか、 わたしもあの花の一つになれるのだと 文字あそび 幻桜~げんおう~ むにさん自らのキャプションよりの言葉。 そのままの景色ですよね。 ●写真:むにさん https://twitter.com/160muni911
ごめんね、 意気地なしの僕に付き合わせてしまって 君だって暗くて狭いポケットなんかじゃなく 明るく暖かなお日さまの下で咲いていたいよね あの人は僕のお日さまなんだ 暗くて狭い僕の世界を照らしてくれたんだ だから、ごめんね、 我儘な僕のために閉じ込めてしまって 文字あそび 雛菊~ひなぎく~ キク科の多年草。 西ヨーロッパ原産で明治期に伝来。 花期が長いので「延命菊」「長寿菊」の異名がある。 ポケットに入れて意中の人に会い、花が枯れなければ恋が実るとされている。 春の季語。
なりませんよ あれはここから眺めるだけのもの 手を伸ばしてはなりません 声をかけてもなりません で、あれば、 いま、このまま足を進めて この手を伸ばして指先を触れ合せ 「どうか」と声に出して願えば… と、そう思ってしまうのは罪でしょうか 文字あそび 春宵~しゅんしょう~ 春の宵。春の夕方。
わたくし、美しゅうございましょ 冬の眠りはこの身を育て 春の陽射しはこの身を磨き 春のそよ風に揺れて煙るの 川辺に揺れて靄を醸して ゆらゆらとゆるゆると やさしく嫋やかに揺れるの ほぉら、緑に誘われてまたひとり だって、 わたくし、美しゅうございますもの 文字あそび 柳煙~りゅうえん~ 柳を煙らせるように立ち込める靄。また、芽吹いた柳を遠くから見ると、靄がかかったように煙って見えること。
あめやさめ 果てることなき頬の雨 あめやさめ 枯れることなき眼の雫 あめやさめ 干上がるこの胸この骸 あめやさめ 慟哭の力も尽きて昏き空 あめやさめ 呼べども呼べども声はなし あめやさめ この身を裂いて血を絞り あめやさめ その身に捧げん我が祈り 雨や雨~あめやさめ~ 「あめ」も「さめ」もともに雨。雨を強調することから転じて、涙を滂沱と流して泣く様子の形容。
花はございませぬか 花はおられませぬか 花の行脚はただただ歩き続けます 花は何なのかは誰も知りません 柔らかく美しい若人なのか 国を託す賢人なのか 花はございませぬか 花はおられませぬか その心に刻まれた花を求めて ただただ歩くのが花行脚なのです 文字あそび 花行脚~はなあんぎゃ~ 桜の花をたずねて諸方をめぐること。 春の季語。
名残の梅も落ちてしまいました せっかくこらえていたものを いくら柔らかな春の風とはいえ 時を過ぎてしまった花には酷なこと わたくしもそろそろ暇を頂戴しとうございます 約束の時はとうに過ぎ 今はもう、思い出の中で微睡むのみ 春の風に吹かれぬうちに、どうか 文字あそび 落梅風~らくばいふう~ 梅の花を散らす春風。
雲煙過眼といえば聞こえもいいが あの人の場合は なんでもいい、どうでもいいってやつだな あんたもあのえびす顔にヤラレたクチだろ でもな、あんたのことなんざこれっぽっちも おぼえてやしないぜ おれの名前だってさ …今わの際くれえには呼んでくれるかねぇ 文字あそび 雲煙過眼~うんえんかがん~ 雲や煙がたちまち目の前よぎっていくように、長く心に留めないこと。 物事に深く執着しない気持ちや態度。 無欲の境地。 「煙雲過眼」とも。
陽溜まり夢見て夢溜まり 夢に獲られて行き止まり 行き場探して霧溜まり 霧に紛れて木霊の溜まり 木霊返して足止まり 止まる足元抜け殻溜まり 溜まる抜け殻渦巻く溜まり 八方止まって夢溜めて 溜まり溜まって御霊の溜まり 文字あそび 陽溜まり~ひだまり~ 日当たりが良い場所のこと。 ●写真:むにさん https://twitter.com/160muni911
犂把の雨でございますね 民を潤す雨でございます 民が潤えば、お上の御心も潤いましょう お上の御心が潤えば、民も国も整いましょう さすれば、御代は安寧安泰 となれば、わたくしの役目も終わりでございます あと、三度の犂把の雨 それが刻限となりましょう お覚悟を 文字あそび 犂把雨~りはう~ 農地を耕し始める春に降る雨。春雨。 「犂」は、牛に引かせて土を耕す唐鋤。 「把」は、握る。
春方にございますね この花も、あの方も どの花にも等しく春は訪れましょうが それが人となりますれば とうてい「等しく」と参らぬもの けれど、 あの方には訪れたのでございますよ さて、 その春を運んだのはどこのどなたやら 知らぬ存ぜぬでは通りませぬよ 文字あそび 春方~はるべ~ 春のころ。春。