僕をパトカーで連行した警察官たちは一斉に謝罪した。


1.経緯
深夜2時頃。僕は友人宅から自転車を漕いで30分ほどの道を走っていた。
友人たち8人と東京西部の山の方までドライブをし、川辺でBBQとシーシャ、その後に滝行体験をし、友人宅で夕食。充実した1日に嬉しい疲れを覚えていた。
あとは帰って風呂入って寝るだけ。今日は気持ちよく眠れそうだ。ちなみに乗っている自転車は、昨日友人が貸してくれたものだ。
「すみません、この自転車はあなたのものでしょうか?」
交番の前で、旭日章キラリと輝く制服を着た男性が僕に話しかけてきた。
童顔ゆえか小柄ゆえか、それとも悪人のオーラがないのか?僕は今まで職質を受けたことがない。
今日の自分は大きめのイヤリングに革ジャン。おまけに荷物どっさりときた。普段よりは不審かもしれない。
「いえ、この自転車は〇〇という人物から昨日の夜に借りたものです。彼はXXに住んでいて、自分と彼の関係は…」
「自転車の防犯登録番号を照合したところ、この自転車の持ち主と名前が一致しませんね。何か心当たりはありませんか?」
おいおいマジかよ。面倒なことになったな。
自転車を借りた経緯、自分の住まいと身分、借りてから今までの自分の行動、詳しく説明しているうちに1人また1人と警察官が増える。気づけば7人くらいになっていた。
「失礼ですが、これは本当に借りたものなんですかね?貸してくれた〇〇さんに連絡を取ることって可能です?」とリーダー格っぽいベテランの警察官。
いやー、深夜2時だぞ今。その上彼は早寝だ。仕方ないのでかけてみるが、案の定電話はつながらない。
「〇〇さんのご自宅は知っているんですよね?そこまで案内して頂けますか?」
直接深夜に友人宅をピンポンすることに。
パトカーに乗せられ移動。到着。降りる。
1回目のピンポン。一切物音がしない。警察官は、もう一度、と促す。2回目。彼の同居人が出る。うわ、申し訳ない。同居人が〇〇を呼んできた。
彼は眠そうに答えた。「あー、これね、△△さんのやつね。△△さんは僕の上司なんだけど、彼が僕にくれたのよ」
「はい、△△さんですね。番号の照合取れました。ご協力ありがとうございました。」
〇〇とその同居人は災難だったなという顔でニヤニヤしている。あまり気にすんなということなのだろうが、これが気にせずにいられるわけがない。
苦々しく思いながら、僕はパトカーに再び乗せられ、交番へと戻った。
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2.最後の自分と警察のやりとり
「お手間をかけさせてしまい、申し訳ありませんでした。」
交番の時計は気づけば3時手前を指している。
僕の友人の〇〇からすれば、僕に自転車を貸したばっかりに休日の深夜に起こされてしまったのだ。モヤモヤするし、僕自身疲れ切っている。
僕は警察官たちに言った。「防犯のために必要な活動であるということ、理解しております。むしろこんな深夜にお疲れ様ですという気持ちさえあります。しかし一方で、自分の友人とその同居人の方を深夜に起こしてしまって迷惑をかけましたし、今後物の貸し借りをする上で気分がよくないというこちら側の立場もご理解頂きたいです。つきましては改めて明日、交番か警察署の方から、〇〇とその同居人の方に申し訳なかったと一言ご連絡して頂くことは可能でしょうか?」
「本当に借りたものですか?」と先ほど聞いてきたベテランの警察官はしおらしくしている。別の物腰柔らかくて気さくな警察官は「空気だいぶ抜けちゃってるねえ。ちょっとこれ使ったらどう?」と空気入れを出してくれた。
また別の警察官が答えた。「わかりました。私の名刺をお渡しするんで、こちらに連絡ください。」
見送られて、交番を後にする。革ジャン着て自転車を漕いでいても暑くならないひんやりとした風。車一台として通らない307号線。1等星くらいは見える星空。ひとり進みながら、悲しくなってきた。
もしかしたら家に家族がいたりするのかもしれない。そんな彼らは、この寒くなってきた真夜中、ただ忠実に任務にあたっていただけなのだ。社会の治安を守るために。盗まれた人のことを救うこともあるし、職質という行動が抑止にもなっている。立派な貢献だ。でもその人たちが直接目ににするのは、いつも誰かの不愉快な顔。
もっと露骨に嫌な顔をされることだってあるのだろう。慣れている様子も見受けられた。
それでも。僕の言葉を受けた彼らはどんな気持ちになっただろうか。まるで彼らのため息が聞こえてくるような気がした。これでよかったのだろうかという後悔が膨らむ。
もちろん、僕に落ち度はない。にも関わらず友人は多少不愉快な気持ちになり、自分も疲れている中時間を拘束された。
だからそのマイナスに対して、合理的な範囲で埋め合わせをしてもらう権利を主張することに間違いはないと思う。権利は周囲のためにも主張すべきものだ。
でも僕はその権利主張のために、警察官という任務の一部に不満の気持ちを示すことになってしまった。多分言葉掛けとして最善ではなかった。
今回の反省を胸に刻み、次同じようなことが起こるまでに、「この仕事をしていてよかった」と出来る限り相手に思ってもらえるような言葉がけを自分の中で用意しておこう。こう決意した。
いや、職質なんてそもそも受けたくないんだけどね。笑

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