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なんーにもできない人

「あの人、ここで『だけ』教授だからな」。

私はかつて中高の教員でした。徹底的なダメ教員で、11年、教員をやったのち教員をやめさせられて事務員になり、事務員はもっと向いていなくて、苦しみぬいた末、今年の2月で職を失いました。私の通う教会に、校長でも頭が上がらないと言われるほど権力を持ったその学校のOBがいました。私は職場で徹底的にダメ教員、ダメ事務員でしたが、教会ではそうでもありません。むしろ「賢い」ほうでした。彼は珍しく、その私の両面を知っている人物でした。彼がだれかに私のことを言っているのが聞こえて来たのが冒頭の言葉であるわけです。

私は大学院生時代、文字通り、「将来の日本を背負って立つ研究者の卵」でした。いま考えると莫大な奨学金が出ていました。今後の私が将来もらうことになるはずの障害年金なり生活保護なりよりもはるかに多い額です。しかも研究者になれば返さなくていい奨学金でしたので、実質的にもらっていたのです(実際、ほとんどの人が研究者になっています。当時の思い出す名前で検索すると、たいがい名門大の教授か准教授です)。それが、発達障害の二次障害である精神障害(その原因は幼少期の両親の容赦ない叱責)で研究者の道を断たれ、30歳のときに新卒でその中高の教諭になったら、まったく向いていない仕事だったのです。それはなったその日から気づいていました。

ときどき、ダメ教員はいます。皆さん、いろいろな道を探っています。ある名門大の数学科を出たと思われる元ダメ教員は、情報科教諭などをへて、ある時期から事務員になって大成功。その人はコンピュータに強く、しかも私と違って空気の読める普通の人であったこともあり、「コンピュータに強い事務員」として確固たる地位を築いていっていました。私が退職するころにはだいぶ地位が上がっていました。結婚もして豪邸に住んでいるらしい。彼は、もともと自分が「ダメ人間」であることを忘れたかのようでした。

私は、最近、どうもうまくいっているみたいです。特技を活かしてさまざまな活動を繰り広げています。たったいま、最も稼げているのが「採譜」という「音楽を聴いて楽譜に起こす仕事」です。6月中旬くらいから検索で上位に来るようになったらしく、ひんぱんにお客様が来られます。お客様の質も上がって来ています。「こんなに稼げていたら、生活保護レヴェルではないか」というほどです。これは肯定的な意味です。生活保護を申請しても通らないのではないかというほど稼げた週が先々週くらいにあったのです。あわてて「税金」だの「著作権」だのを調べて、本格的な採譜者になってきました(いままでの私は確かに著作権侵害をして稼いできてしまいましたが、気づいたその日から悔い改めればそれでいいことは友人の弁護士から聞き、実際、JASRACさんに正直にそう述べて「認識を改めていただいてありがとうございます」と言われました。その代わり今後は法的にもクリーンにやります)。

こう見て来ると、私はあたかも「とてもできる人」みたいです。私のレビューを見てみると、皆さん極めて高評価で、とくに「迅速かつ正確」というのが私の特徴であることがうかがえます。しかし、私は同時期に、障害者手帳を手にしました。考え得る限り最も重い級が来ました。これは、私がこの地で就職してから17年間、ひたすら私の「ダメぶり」を見て来た医師が、「この人はなんーにもできない人です」という診断書を書いたからです。その医師とは人生観がまったく合いませんが、診断書の腕前が超一流なので頼っているのです。こう書くと「そのお医者さんはウソを書くの?」と思われたかもしれませんが、彼はいっさいウソを書いていません。盛ってもいません。たんたんと事実を書いただけですが、それくらい私は本当に「なんーにもできない人」なのです。仮に私は、自分がどれだけ「できる人」になろうとも、自分が実は「なんーにもできない人」であることを忘れたくないと思います。

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