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早川りさこさんの思い出

 早川りさこさんというハーピスト(ハープ奏者)がいます。(いきなりの余談ですが、日本語では「ハープ奏者」は「ハーピスト」と言いますが、RSVという英語の聖書の「ヨハネの黙示録」には「ハーパー」というふうに載っていました。ハーパーとも言うのですね。)私が学生時代は、ソリストとしてご活躍でした。とくに印象に残っているのは、私の学生時代のオーケストラに、しばしばハープの賛助出演として乗ってくださったことでした。(私の学生時代のオーケストラは、全員が演奏会に出演できるように慎重にプログラムを組んでいました。そして、演奏会は年に4回、夏と冬の大きな演奏会、春と秋の学園祭、なのです。仲間の学生オーケストラでは、ハープの団員も置いていましたが、じつは、オーケストラの曲でハープを要する曲は、少ないのです。たとえばベートーヴェンの交響曲、ブラームスの交響曲で、ハープを要する曲は1曲もありません。つまり、ハープの団員がいると、嫌でもハープのある曲を選曲せねばならなくなります。そのため、私たちのオーケストラでは、ハープの団員を置かず、必要なときには早川りさこさんのようなプロの先生に賛助出演をお願いしていたのです。)

 さて、私はストコフスキーという往年の指揮者のファンです。ストコフスキーは、バッハのオルガン曲をはじめ、いろいろな作品をオーケストラ用に編曲しましたが、そのうち、「トッカータとフーガ」と「パッサカリアとフーガ」は、ストコフスキーは、どのオーケストラに行っても持っていくのではないかというほど、定番の客演レパートリーでした。1965年に来日して、日本フィルと読響(読売日本交響楽団)を指揮したときも、持ってきました。「トッカータとフーガ」については、日フィルの録音が残されています。私は、「トッカータとフーガ」については、生で2回、聴いています。外山雄三・日フィル(お、考えてみるとかつてストコフスキー自身がそれを指揮したオーケストラですね!ちなみにそれは「外山雄三のおしゃべりコンサート」みたいな日で、外山雄三が、いろいろなオーケストレーションの話をしながらトークと演奏が続きました。この「トッカータ」も、オリジナルのオルガン版との比較で、オルガン版を弾いたのは、水野均さんという、私の通う教会でオルガンを弾いている人でした(もちろんプロです)。また、その日は、近衛秀麿の編曲のムソルグスキーの「展覧会の絵」の冒頭も演奏されました。外山さんも言っていましたが、「君が代」みたいだと。たしかに。「君が代」のオーケストレーションをしたのは近衛秀麿でしたね)と、デュトワN響(NHK交響楽団)です。吹奏楽版なら、私自身もやったこともあります。しかし、なかなか「パッサカリアとフーガ」を生で聴く機会はない。それが、大学の先輩が、あるアマオケで、パッサカリアとフーガをやるというので、これは滅多にない機会だと思い、聴きに行きました。もうかすかな記憶ですが、池袋の芸術劇場だったこと、森口真司さんの指揮だったことを覚えています。とてもいい演奏でした。装飾音がストコフスキーの書いた通りでなかったりしたことも覚えていますが(上にトリルが、下にトリルだったりして)、全体的に、非常に満足のいく出来で、まるでストコフスキーが「降りてきた」みたいでした。ちなみに、プログラムには、そのオーケストラの人の書いた解説が載っており、そのオケのコンマスのかたは、このバッハ=ストコフスキーの「パッサカリアとフーガ」を、「最も好きなオーケストラ曲」と言っている、とのことでした。たのもしい!

 さて、じつはこのコンサートは、早川りさこさんがソリストだったのです(ようやく早川りさこさんの話に戻った)。ドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」を聴きました。いまのところ、この曲を生で聴いた唯一の機会です。また、ヒンデミットの「木管とハープのための協奏曲」を聴きました。(ほかにもこの演奏会で演奏された曲はあるはずですが、記憶にありません。検索しても出ません。申し訳ございません。)この曲は、そのときが日本初演でした。ハープはもちろんりさこ先生、木管はおもに新日フィル(新日本フィルハーモニー交響楽団)のソリストの先生がただったと思います(フルートは白尾先生だった気がします)。

 のちに、ある別のアマオケで、早川りさこさんのソロ、早川正昭氏の指揮(りさこさんの父上。すなわち親子共演。私も早川正昭さんの指揮で演奏した経験あり)で、ロドリーゴの「アランホエス協奏曲」のハープ版を聴いたりもしました(その日のプログラムは、ほかに思い出せません。すみません)。

 それからだいぶたって、いつのまにか、りさこさんは、ソリストではなく、N響に団員として入団なさいました。かしこい生き方だと思います。若いころは、「美人のソリスト」として売って、ある年齢に達したら、オーケストラに入る。これは、これもいずれ項目を立てて書こうと思っている菅沼ゆづきさんについても言えることです。ゆづきさんは、ある私の親友の友だちだったのですが、若いころは「美人のソリスト」としてご活躍。ホルンのバボラクとの共演で、ブラームスの「ホルン・トリオ」(ヴァイオリンとホルンとピアノのための室内楽曲。名曲!)を聴いたりしました。(その親友とのつながりで、招待券がもらえたのでした。バボラクが、まだほとんどCDなど出すようになる前です。でも評判は世界中に響き渡っており、そのリサイタルも、「東京中のホルン関係者が集まった」という感じのリサイタルでした。いつかこの日のことも書きたいです。)そして、ゆづきさんも、ある年齢に達したら、都響(東京都交響楽団)にご入団。現在もご活躍のご様子です。

 さて、あるとき、テレビを見ていたら、N響の演奏会をやっていて、タン・ドゥン(作曲家)が自分の新作を指揮していました。最近、買って読んだ『交響録 N響で出会った名指揮者たち』(茂木大輔さんという元N響オーボエ奏者のかたが書いた本です)を読み、思い出しました。その本によると、2013年のことで、「女書」(にょしょ)という、ハープをソロとした曲です。早川りさこさんがソリストでした。すばらしかったです。曲も、演奏も。

 そして、これはまったく知らなかった話ですが、同じ本に出て来ます。ヤノフスキ指揮N響で、2017年に、さきのヒンデミットの木管とハープの協奏曲をやったというのです!ソリストは5人ともN響で、ハープはまたりさこさん、オーボエは著者である茂木さんだったそうです。そのときの演奏は聴いていませんが、早川りさこさんは、私が学生時代に、あるアマオケで、この曲を日本初演し、また、2017年にはN響の団員として、N響とこの曲を演奏なさったことになります。

 ちなみに、この本には、一貫して「早川りさ子」と書いてあるので、ソリスト時代から名前を改めたのかな、と思っていましたが、さきほど、ナクソス・ミュージック・ライブラリで、イベールの「2つの間奏曲」を聴いたとき、かなり新しいアルバムであるにも関わらず、「早川りさこ」となっていたので、やはり「こ」はひらがなだ、と思った私は、さきほど音楽之友社に電話して、担当のかたにお伝えいたしました。

 最後に、いくつか、曲を紹介して終わります。りさこ先生の賛助出演で、ご一緒に演奏した記憶のある曲として、レスピーギの「ローマの松」があります。これは、ストコフスキー指揮シンフォニー・オヴ・ジ・エアの演奏がなかなか頼もしい演奏で、このほかにもストコフスキーのいくつかのライヴ録音があります。しかし、いかにストコフスキーびいきの私にしても、同じオケ(NBC交響楽団=シンフォニー・オヴ・ジ・エア)を指揮したトスカニーニの演奏にはかなわない気がしています。レスピーギの「ローマの松」は、基本的に、どの演奏で聴いても、たいがい名演奏で、20分くらいでストレス解消したいときにもってこいの音楽です。姉妹作の「ローマの噴水」「ローマの祭り」もおすすめです。

 バッハ=ストコフスキーの「パッサカリアとフーガ」は、ストコフスキー壮年期のニューヨークフィルのライヴなどが、鬼気迫るような出来栄えで、すごいと思うのですが、手に入りやすい録音としては、デッカに録音したチェコフィル盤があると思います。ストコフスキー90歳のときの録音で、すこし縦の線がそろっていなかったりしますが、「ストコフスキー健在」という感じの名演奏です。YouTubeで映像が見られるのは、ザールブリュッケン放送交響楽団に客演したときの演奏があります。リハーサル風景もあります。ストコフスキーはイギリス出身のアメリカの指揮者で、ふだんは英語でリハーサルをしますが、このときは、ドイツ語でリハーサル(プローベ?)をしています。オリジナルのオルガン版としては、コープマンの東京ライヴがよい(YouTubeで見られます)。

 ドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」は、ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団がいいですが、これは個人的な好みですので、お好きな演奏をお聴きください。

 ヒンデミットの協奏曲は、私も普段、よく聴かない曲ですので、おすすめの演奏があるわけではありません。でも、ヒンデミットらしい、いい曲ですので、興味のあるかたはお聴きくださいね。

 ロドリーゴの「アランホエス(アランフエス)協奏曲」は、本来、ギター協奏曲で、りさこさんには悪いですけど、オリジナルのギターでお聴きになるのがよいと思います。これも、とても有名な曲で、美しい曲で、そしてほとんどのクラシック・ギターの演奏家はレパートリーにしています。どんな演奏でもいいですので、お聴きいただければ、と思います。

 ブラームスの「ホルン・トリオ」は、世の名高いホルニストは、たいがい録音しており、しかも、高名なヴァイオリニスト、高名なピアニストと共演しているので、どれをお聴きになっても間違いないのではないかと思います。とくによく出来たアルバムとしては、タックウェルのホルン、パールマンのヴァイオリン、アシュケナージのピアノによるアルバムで、このブラームスを中心にすえて、ヴァイオリンとピアノの曲としてフランクのヴァイオリンソナタ(この曲については、かつて、このnoteの記事で語りましたね。リンクがはれなくて申し訳ございません)、ホルンとピアノの曲として2曲、シューマンの「アダージョとアレグロ」、サンサーンスの「(難しいほうの)ロマンス」が含まれていて理想的でしたが、いま、ナクソス・ミュージック・ライブラリを見てみると、なぜか、ホルンの曲であるシューマンとサンサーンスが削除されていて、ブラームスとフランクだけになってしまっている!なんということをするのですか!とにかく、このブラームスの曲にかんしましては、お好きなホルニスト、お好きなヴァイオリニストでお聴きください。

 以上です!

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