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清塚信也さんの思い出

私は、昨年の今頃(2022年2月)、失業しました。さまざまな試行錯誤をしたものです。そのうち、フリーランスで行こうと思うようになりました。親友が「きみは勤めること自体が向いていない」と言ったことが直接のきっかけです。さまざまなことにチャレンジしましたが、最初に回り始めた仕事が「採譜」でした。音楽を耳で聴いて楽譜に起こす仕事です。

いまでこそ、算数・数学の個人指導が回っておりますが、昨年の6月ごろは、算数はまったく回っていませんでした。その代わり、昨年の6月くらいから、採譜が検索で上位に来るようになったらしく、ちょくちょくご依頼をいただくようになりました。本日のお話は、はじめて完コピ(完全な採譜)が定価で売れて嬉しかった思い出です。

清塚信也さん編曲・演奏による、マンシーニの「ひまわり」の完コピのご依頼をいただいたのです。かなり本格的にピアノがお弾きになれるかたのようで、既存の楽譜に飽き足らず、清塚さんの編曲している通りの楽譜をお望みでした。清塚さんの弾いておられるYouTubeのリンクをはってくださいました。3分1秒の動画です。記事の最後にリンクをはりますね。

それまで、清塚信也さんというピアニストを知りませんでした。非常に売れているピアニストだということが分かりました。とくに、今回のような、編曲などにも優れた才能を発揮するピアニストであるようでした。トークも得意だそうで、リサイタルでもピアノを弾く以上にトークのほうが長いくらいではないか、というネット記事も読みました(手品界でのマギー審司みたいな感じかしら)。とにかくその3分のピアノ曲の完コピをお望みでした。

完コピは神経をすり減らします。その代わり、私はほんとうに完全に採譜することができます。その動画を聴いても、耳だけで1音も間違わずに楽譜に起こせる自信がありました。その代わり、私は完コピの定価を「バカ高」にしていました。3分以内の音源で11,000円。それを超えたら21,000円。「完コピは神経をすり減らすのだから安易に頼むなよ」という意思表示のつもりでした。この動画は、3分1秒かかります。厳密には21,000円となるのです。しかし、動画をご覧になればお分かりのとおり、前後の空き時間を考慮すれば、11,000円が妥当でした。そして、そのお客様は、ほんとうに11,000円を払ってくださったのでした。私の完コピが定価で売れた最初の瞬間でした。とても嬉しかったです。

私は、さっそく楽譜入力ソフトで、楽譜を作成し始まりました。だいたい3分のピアノ曲の完コピがまる一日を要するので、そこから考えた定価でした。私はまる一日とちょっとで仕上げました。1音も間違わずに、清塚さんの弾いている通りに楽譜を作成しました。

ただし、少し気になるところがありました。動画の0分32秒くらいから、清塚さんは、B♭m/G のつぎに C7(だいたい)と弾いておられます。しかし、たまたま原曲を知っていた私は、マンシーニの弾いている和音は、B♭m/GのつぎにC7と行ってFmであると知っていたのです。これについて、ご依頼者様におたずねしました。あくまで清塚さんの弾いておられるようにお採りするべきものか、それともマンシーニの自作自演の和音にすべきか。ご依頼者様は、あくまで清塚さんらしさを保ったままで、マンシーニのオリジナルの和音に戻すようにとおっしゃいました。そこはそのようにいたしました。そして、ご依頼の翌日には仕上げ、楽譜を納品いたしました。非常に満足していただけました。先ほどの和音の件もポイントが高かったようです。

さて、ここまで読まれて気になったかたもおいでかもしれません。著作権のことです。だいたい9月くらいまでに、かなりの採譜のご依頼をこなすようになった私は、友人の弁護士のアドバイスで、JASRAC(日本音楽著作権協会)に問い合わせて、きちんと著作物使用料を納める、クリーンな採譜者となることにしたのです。そして、JASRACさんというのは「いままでは著作権についてズボラにやってきてしまってごめんなさい。きょうからちゃんとやります」というのは通るのでした。したがって、この清塚さんの採譜は、それ以前の、著作権を考慮に入れていない時代のご依頼なのですが、ゆるされています。

では、実際にはどれくらいの著作物使用料を支払わねばならなかったか。いま検索しました。JASRAC国外作品です。JASRACには、国内作品と国外作品の区別があります。邦楽と洋楽の違いですね。そして、洋楽のほうが、邦楽よりはるかに著作物使用料が高く、また、手続きも煩瑣なのでした。これはちょっと、正規の手続きでは無理だったと思われるご依頼です。(こういうときは、編曲者の清塚さんではなく、作曲者のマンシーニの著作権を考えるのが基本となります。)しかし、とにかく、定価で私の完コピをご依頼になり、私は迅速かつ正確に仕上げ、ご満足いただけたうえで、謝礼を受け取ったのです。実際にはココナラさんに22%の仲介手数料を取られますので、この仕事で私が手にしたお金は8,580円でしたが、とにかく自分で稼いだお金です。ほんとうにうれしかったです。

清塚さんは、このように、ご自身で編曲したピアノ曲の楽譜を出回らせていないようです。それで、ときどき清塚さんの編曲のピアノ曲の採譜のご依頼がありました。清塚さまさまなのですが、マッチしたご依頼は、このときだけだと思います。このときご依頼くださったかたは、半年以上あとに、もう一度、採譜をご依頼くださいました。ご満足いただけている証拠です。そのときも、清塚さんの編曲なさったピアノ曲のご依頼でした。しかし、この2回目は、最終的にマッチしませんでした。ご予算をオーバーしていたのです。ひとつには、8月ごろにココナラさんが最低料金の値上げを行い、ほぼ5割増しとなったのです。私もそのときにすべてのサービスを見直し、私の住む土地の最低賃金である時給1,000円から、仲介手数料や税を逆算して、1分の音楽(メロディ、コードネーム、ベースラインのみ)を1,500円、今回のような完コピは1分の音楽で6,000円と定めたのです。ですから、たとえば3分の音楽であれば、18,000円となります。さらに、これに著作物使用料が加算されます。そのときは、確か久石譲さんの作曲した映画音楽でしたので「邦楽」でした。この場合は、定価の10%を私はJASRACさんに納めねばなりません。これも逆算すると、定価の15%増しの値段を付けねばなりません。つまり、もしも18,000円という値段であれば、20,700円とせねばならないことになります。これはミスマッチとなりました。それでも、算数・数学教室が軌道に乗る前は、なんだかんだで割引をしていたのですが、数学で忙しくなってからは、体はひとつですので、採譜は定価でしか受けない方針にしました。そのお客様には事情をわかっていただくことができ、円満にお別れすることができました。

これが、私の、清塚信也さんの思い出です。自分の手でお金を稼ぐ、大事なポイントでした。

さて、その楽譜はいまだにPDFファイルで持っています。格安でおゆずりすることはできるのですが、ところが、これは今なら著作物使用料を払わねばならないことと、洋楽なのでそれは高く、また手続きも煩瑣です。それでもこの曲の楽譜が欲しいというかたには、なるべく格安でおゆずりしたいと思いますので、星くず算数・数学教室のサイトのお問い合わせから「清塚信也氏の編曲のマンシーニのひまわりの楽譜が欲しい」とメッセージをくださいませ。以上です。

最後に、その動画をはります。この音源の完コピです。


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