見出し画像

ミュージカル「聲の形」観劇記

10.6 夜公演(配信)観劇
(画像は現地で観劇した方からお借りしました)

「聲の形」原作は漫画、過去にアニメ映画となる。
今回は山﨑玲奈・島太星W主演にてミュージカル化された。

原作は読んでいないが、だいたいのあらすじは押さえた。


ガキ大将気質の石田将也。通っている小学校の同じクラスに耳が不自由な西宮硝子が転校してくる。
クラスメイトと筆談で話すことを希望し、学校生活に何かとサポートが必要な硝子を、クラスメイトは疎ましく感じるようになる。
将也は、初めて会った「耳の聞こえない子」に純粋な興味を抱き近づくが、手荒なちょっかいのかけ方をしてしまい、それが硝子へのいじめとしてクラス全体に広がってしまう。
やがて硝子は転校。将也はいじめの主犯として一人で非難を浴びせられることとなり、硝子が去った後にはクラスで孤立する。
高校生になった将也は、小学生の頃のことを謝りたいと手話を覚え、手話サークルにて硝子と再会するが…。


大まかなテーマを書き出してみる。
・いじめをしてしまった者が、改心して誠意を見せれば友達になることができるか?
・お互いに本音をさらけだせば仲良くなれるというのは本当?
・他者への思いやりと、自分を護ることは両立するだろうか?

とにかく人間模様がリアル寄りのリアルで、「きれいごと」はできるだけ排除されてキリキリするストーリーだった。
最後も希望はあれど何もかもスッキリ解決ということではなく。
これは観ていて辛いと言う人はいるかもしれない…。
テーマへの答えも人それぞれで、正解は無いと思う。

ただ、時間の制約があるなかで登場人物を深く描き、背景事情も分かりやすくなっていて観やすい印象だった。


西宮硝子役の山﨑玲奈さん。

経歴は「アニー」に「ピーター・パン」と華やかで、実力派であることがうかがえる。
聴覚障害を持ち、発声も上手くできない役なので、歌は「硝子の心の声」として演出されている。

まず1曲目でグッと世界観に引き込む説得力がある歌声に圧倒された。アンサンブルの合唱にも全く負けない芯の強い歌は、主演女優としてふさわしいと思った。
劇中はほぼ台詞がなく、お顔の表情や仕草で心情を表現しなくてはならない。
手話も、優しい気持ちの場面ではゆっくりと、感情がたかぶるような場面では激しくなるなど工夫されていたのが見えた。

とにかく歌が本当に魅力的だったので、別の作品で沢山歌っているところも観てみたいなぁと思った。
ラストシーンの振袖が可愛かった。


島太星くんはミュージカル三作目。主演は二作目。そろそろ慣れてきたかな。
歌いながら踊るのと、歌いながらの手話は微妙にリズムが異なって苦戦したということだったが、かなり集中して取り組んだのだろう。見ていて綺麗だなと思った。

島くんの歌い方の特徴のひとつが大胆なブレス。ミュージカルだと、それが感情表現として効果的に聞こえてくる。
それから、そっと語りかけるように歌う時のビブラートが心の揺れを表しているようで、グッときた。

将也の歌で印象的なフレーズは「小六のあの時 互いの声が聞こえていたら…」というもの。
これは「声で会話できていたら」という意味ではなくて「心の声」という意味で、お互いの気持ちがちゃんとわかるコミュニケーションが出来ていたらよかったのに(友達になれたのに)という意味だろう。

小学生時代、コミュニケーション能力が未熟で自分の気持ちしか考えていなかった将也。
5年の時を経て他人の心の痛みを知り、寄り添うことを覚え、硝子と再会した後に起こる事件でもう一度自分の未熟さと向き合う。

このような成長と葛藤を歌に乗せるのが上手で、観ているほうもスッと感情移入することができた。もっと沢山聴いていたかった。


正直に言えば、観る前はこのテーマをミュージカル化することに違和感はあった。
けれど、音楽は人の気持ちを乗せる効果がある。
特に、繊細なピアノの伴奏はコミカルにもシリアスにも寄り添い、会場全体に感情のうねりを起こしていたと思う。

特に良いと思った演出は、将也が手話で話す後ろでアンサンブルの合唱が入るところ。歌いながらの手話は、実際の会話ではありえないことなのでどうしても違和感は出てしまうが、この演出なら手話が分からなくても内容が理解できるし、手話で会話している様子がリアルに浮かび上がるのが良かった。

他者への理解が足りず、寛容さに欠ける生きづらい現代において、手話を単なるブームとせずに障害者理解へのきっかけになればいいなと思った。
みんな自分が一番大切なのは当たり前だけれど、ほんの少しずつでも思いやりを持ち寄れば結果として生きやすい社会になるのに。
踏み込みすぎないことも大切だけれど…


ミュージカル「聲の形」上演の情報が出た時、観に行けないことに悔しさはあった。
チケットも日によっては余裕があったとも聞こえてきて、なおさら悔しくはなったのだが、配信のおかげで自宅で楽しむことができた。
配信を決めてくださったことに感謝。
アーカイブ期間が10月末とのことで、あまりに手厚くて更に感謝。好きな歌の部分をリピートして楽しんでいる。

心を揺さぶる作品に出会わせてくれて、ありがとうございました。
次の舞台も何らかの形で観られることを祈って…

(終)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?