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はじめまして、ルート・ブリュック


窓をあけたままねむって 朝ぼんやり目ざめたときに 
部屋じゅうに雨の匂いや気配が充満していると、とてもとても幸せなきもちになる。
(ただ、だいたい窓際の床は湿っている)

友だちと、東京駅でやっているルート・ブリュック展を見に、家を出る。
ふたりともおそろしいほど方向音痴なので、いつも集合時間から10〜15分後ぐらいに再会できる。わたしよりずっと背の低い小柄な彼女を人ごみの中で見つけられると ほっとする。

ルート・ブリュック展は想像していたよりも さらに素敵だった。
とくに「子羊の扉」という作品がすばらしく、目にした瞬間どくんどくんと心臓の音がして脳内で すごい、すごいよ、と自分の声が響くあれを、ひさしぶりに体験した。
青が綺麗だったなあ、透明なうすい青を何回も塗り重ねたような、独特な深みのある青。
青より蒼にちかい。

余韻につつまれたまま、いってみたいねといっていたウエスト青山ガーデンへ。
ふっかふかのホットケーキに、メープルシロップをざぶざぶかけて バターを溶かしてゆっくりたべる。甘いぽわんとした香りにすっぽりつつまれた。しあわせの味がした。

彼女との思い出で一番印象に残っているのが、専門学校での最初の授業で順番に自己紹介をすることになったとき、みんなそれぞれ「映画が好きです」「バスケが好きです」などと好きなものを言っていたんだけど、
彼女はちいさな声で「…小説の、あとがきを読むのがすきです」と言ったこと。
わたしはそれに衝撃をうけて「あの子いいなあ。あの子と友だちになる」と強く思ったのだった。

そんな彼女とは、オルゴールやちいさな羊のぬいぐるみ、絵本や静かな映画、とにかくどうしても心惹きつけられてしまうもの(でもたぶん、大人は買わない)の種類が共通していて、定期的に会ってそれらのことを、ぼそぼそ話す。大人になっても、わたしこのあいだすばらしいぬいぐるみと目があっちゃってさ、なんて正直にはなせる相手がいるのはしあわせだ。

彼女とわかれて、恋人の仕事が終わるのを近くの本屋さんで待って、いっしょに帰った。
どうして恋人の手はいつもあったかいんだろう?ふしぎだな。



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