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元教授の Apple コンピューター歴(その2):定年退職10日目

前回の記事で、「Appleの話がないじゃないか、タイトルと違う!」というApple好きの方からのお叱りの声が聞こえてきそうですが、いよいよ今回からAppleの世界に入ります。


最初の大学に奉職して5年後、「海外で少し修行してきたら」とのありがたいお言葉を受け、喜んで海外渡航の準備を始めました。どうせ行くならアメリカに、そしてアメリカならAppleをということで(ちょっと偏見があったかもしれませんが)、当時話題のMacBookを購入しました。結構高額な買い物になりましたが、前回同様にボーナスで何とかまかないました(日本は超円高で、ラッキーでした)。


実はその頃、学会の講演などにおいてChemDrawで作成したOHPをチラホラ見かけるようになり、かなり羨ましく思っていました。当時は化学式を美しく書けるのはMacだけで、やはり従来とは表現力が違いました。ただ使用できるのは裕福な研究室のみで、OSは英語でした。その研究室を訪れると、かわいらしいMacPlusやMacClassicが並んでおり、横にはとても手が出ない高価なレーザープリンターが鎮座していました。


Visiting Scientistとして1年間受け入れてくれた大学は、アイビーリーグに所属するニューヨーク州の有名私立大学だったのですが、町に行くと大学しかないただの田舎町でした(ファストフードのTaco Bellが出来ただけで町中話題になった)。しかしアパートに到着すると、驚いたことに、何と・・・

目の前がAppleの販売店でした(小さな店でしたが)

しばらくするとその店に入り浸るようになり、最終的には帰国前に新しいMacを買うことになりますが、その話はもう少し後で。まずは、新しい研究室にMacBookを持って到着の報告をしに行きました。しかし、そこで衝撃の事実が・・・

研究室で使われていたのはAppleではなく、IBMのコンピューターでした(タイトル写真)

理由は、研究室の教授がIBMと共同研究をしているからということで、仕方ないとは思いましたが、なぜ日本で高いMacBookを買ったのかと少しがっかりしました(Appleは、研究の世界ではまだマイナーな存在でした)。ただ学生からは、Appleはお洒落だねと、こっそり慰めてもらいました(さすがコミュニケーションのプロ、アメリカ人)。


1年間はとても刺激的でしたが、大きなトラブルもなく、そろそろ帰国の準備を始める頃、先程のApple販売店で新しいMacを入荷したと聞きました。しかもそれは Quadra 840AV という機種で、「日本では販売されるかどうかわからない」との魅惑の言葉。すぐに購入手続きをしてしまいました。AVというのは、いわゆる「大人のビデオ」の略ではなく、「音声認識が出来る」機種とのことでした。


音声入力に関しては、私の1年間の成果が発揮できると意気込んでいましたが、残念ながらうまくいきませんでした。声をかけると、何をどう聞き間違えるのか、コンピューターを終了しますか?と聞き返してきたりしました。日本人への嫌がらせか(怒、怒、怒)。初期不良で交換しようかとも思いましたが、近くに住む子供が遊びにきて音声入力をすると、問題なく動き出し、単に私の発音が悪かったことが判明しました(北米向けの仕様だったのです)。


音声入力はうまくいかなかったものの、スペック的には大満足でしたので、日本に持ち帰り、それ以降長らく使い続けました(ちなみにそのQuadraは、大学を移る際に隣の研究室の院生に格安でゆずりましたが、20年後にその元学生がある会社の共同研究責任者として大学に訪れてきて、感激の再会を果たしました。世の中狭いものです。今でも良いお付き合いが続いています)。


次回の記事では、「手がかかる子ほど可愛い」Appleの話をお届けします。その3 をお楽しみに!


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