書評:『米中もし戦わば』(ピーター ナヴァロ)

(私が中古本を買うとkindle版が出るの法則がまた実現した)

この本も邦題が良く無い。原題に戻ると"Crouching Tiger-What China's Militarism Means for the world"であり、『伏せている虎ー中国の軍国主義は世界に何を意味するのか?』となる。伏せている虎は、google検索するとわかるが、今にも獲物に飛びかかろうと準備万端な虎である。

著者のピーターナヴァロは、異端の経済学者と呼ばれているらしいが、私はこの著書を見る限り、至極真っ当な論理的思考の持ち主であるように感じた。その主張を見ていこう。

・中国というのは軍国主義で領土を広げようと他国を侵略してきたし、今もそうしている(チベット・インド・南シナ海)。昔の栄光を目指し、失地回復をしている。資源の確保にも躍起になっている
・中国の経済発展は国民の豊かさではなく軍事費の拡大に費やされ、中国の軍事力は高まっている。中国は経済が豊かになっても民主主義国にはならず、他国の侵略と他国の地下資源の確保に向けて国土を拡大するだけだ。それは歴史が証明している
・弾道ミサイル、巡航ミサイル、宇宙戦争、サイバー戦争の戦力を高め、米国の軍事技術や欧米企業の技術機密を盗んで軍事に利用している。ステレス戦闘機などは作れるようになった。特に、沿岸に配備された巡航ミサイルや空母打撃群を狙えるマッハ10の弾道ミサイルは結構脅威だ。フランスをはじめ米国の軍事同盟国の民間企業から技術を導入し、もはや潜水艦などの技術もすごく向上していて、軍事的に脅威である
・台湾、北朝鮮、地下の石油や天然ガスを狙っている尖閣諸島と南シナ海、水不足を引き起こすインドとの争いなど、米中戦争のきっかけとなる火種は尽きることがない
・米中戦争が起きるとすると、米国の基地は弱い。中国のミサイル飽和攻撃には短期的には対抗できず、今の米軍基地(日本のものを含む)は多大なる攻撃を受け、多大なる被害を受けるだろう。米国からの核兵器による報復攻撃は可能だが、中国も核爆弾を持っているから核戦争になると世界が滅びる
・中国は海上封鎖には弱い。潜水艦で海上封鎖すればすぐ干上がるが、その前に核ミサイルを米軍基地に打ち込んでくるだろう。
・中国は外交交渉をしても約束を守ったことがないので、交渉しても無駄である。力を持って、知らしめるしか方法がなく、取引はできない相手だ
・ちなみに中国の経済政策はめちゃくちゃで、外国企業の知的財産はカツアゲするし、よくわからん規制で外国企業には開かれていないし、軍事品を含めリバースエンジニアリングで技術は盗み放題だし(最大の被害者はロシア)、サイバー犯罪しまくるし、商売の相手にならない
・中国を力で屈服させるのは容易ではない。中国製品を買うことで中国の経済は発展を遂げ、そのお金は中国の軍事力強化に使われる。民主主義が蔓延して平和になることは中国ではない。中国は、太平洋の平和に対する大きな脅威であり、勇気を持って経済もろとも葬り去るしかない

詳しく統計を見たわけではないので正確な論評は控えるが、本を読んだ限りは、よくまとまった対中国論、中国脅威論である。そもそもピルズベリーの著作にある通りなので、なんら新しいこともなく、すっと私の頭には入ってきた論旨である。

こう見て見ると、中国が経済発展して、米国のニュースメディアを広告で買収してフェイクニュースを流して、自らの軍事力を高めて、周辺国の資源をカツアゲしている様子がよくわかる。また、トランプ大統領の政策は、このナヴァロの基本戦略に則っていると思う。著者のナヴァロは、Assistant to the President, Director of Trade and Industrial Policy, Director of the White House National Trade Council、ということで、トランプ大統領の元で貿易の戦略を担う公職についているのである。そして、大まかには、トランプはこの対中国への対抗戦略をとっているように私には思える。つまり、トランプ大統領の戦略は、

・米国にとって、中国は脅威なので、中国を潰す
・中国発展の源泉は経済で、中国の経済成長は中国軍の強化を招くだけなので、中国の経済を破壊することが必要
・そもそも中国経済は不均衡である。自らの市場を規制で守って外国からは参入させないくせに、米国にはたくさんの品物を輸出している。米中貿易の赤字が悪の源泉なので、貿易戦争で中国の息の根をとめる。
・中国からの輸入が増えると、生産が中国にいく。生産力は、戦争における国力にもなるので、中国からの輸入は極力抑えるべきである
・中国の通貨も弱くして、中国の外国からの援助も弱くする
・中国に軍事的に手を出すと勝てないことはないが、大きな被害を受けるし、核戦争のリスクもあるので、貿易戦争で相手を弱らせるのが先決

ちなみに、この本に書いてあったことで、レーガン大統領の対ソ連戦略が良く分かった。レーガン大統領は米国の赤字を作っただけの大統領のように言われているが、それは違う。

レーガン大統領は、
・ソ連との軍拡競走になるように仕向けた
・軍拡競走でソ連に軍事支出を増やさせる
・結果、それでソ連は経済が破綻して、国家が崩壊した
・軍拡競走は経済力がどっちが先に尽きるかの勝負になる。米国は経済の勝負に持ち込んで、ソ連に勝った

レーガンの対ソ連戦略は、優れた戦略だったとナヴァロは評価する。

安全保障と経済は国家が存在する二つの目的である。どうも平和が続くと

経済 > 安全保障 

という考えに陥りがちだが、そんなことはない。命あってのお金であって、命がないところにお金があっても意味がないわけで、

安全保障 > 経済

が絶対的に正しい。経済だけでは、誰も暴力には勝てないのである。それは、ギリシアであれ、ローマ帝国であれ、明確であった。ローマ帝国の末期に北の蛮族の襲撃を受け、豊かなローマ帝国が廃れていった事例が、軍事力なき経済繁栄の末路をよく示している。


そういった意味では、第二次世界大戦後、パクス・アメリカーナにより70年以上の平和を享受した日本であるが、これが中国によって壊されつつある。現在、米国の平和の敵も、日本の平和の敵も中国であるのは疑いようがない。そして、この相手は、話して交渉できる相手ではない。なぜなら、相手のことを考えることをしない自分勝手な国だからである。

そのような状況を踏まえた時、果たして、我々は狂気じみたように見えるトランプ大統領の政策だが、実は冷静な対中国戦略である。米国が中国に貿易戦争を仕掛けるということは、本当に悪いことなのか、馬鹿げたことなのかを、我々日本人は、考えるべきであろう。

中国への貿易戦争の落ち着く先は明らかである。
米国が絶対に勝てる戦争である。なぜなら、

中国の対米輸出 >> 米国の対中輸出

であるから、関税をかけあえば、米国の勝ちは決まっている。中国は世界の工場だが、米国企業は中国の工場をベトナムやインドネシアやインドといった国に移転することができる。米国向けの輸出に使えない中国に工場を構える理由などなくなるから、多国籍企業の工場は、中国から流出し、中国の生産力は落ちる。残るのは、一人っ子政策の成れの果て、老人社会である。

このような国際関係に関する認識をする時、私は中国国内にしか売れていないchina techに対して、興味を持つことができない。関税の圧力に屈して市場を開放した時に、百度の検索はgoogleに勝つことができるのだろうか。

この一冊は、トランプ大統領と安倍晋三首相の評価に関わる本である。
この本に間違いがないとしたら、この二人は、名宰相であると思う。

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