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鉄道の計画運休についておさらい

※以下、わたくし個人の見解です。鉄道事業者に勤務する、ひとりの気象予報士の立場で書いていますが、組織を代表するものではありません。

鉄道の計画運休について、おさらいします。防災に関心がある方に読んでいただき、知識を習得したり理解を深めたり、災害が予想されるときの行動変容(リスク回避行動)の参考にしていただければ幸いです。

「計画運休」・・・流行語大賞では2018年ノミネート入り、2019年トップテン入りとなりました。首都圏で大規模に行われるようになると、注目度が一気に高まりました。

「人の動きを止めたい」とはちょっと異なります

防災の有識者から鉄道の「計画運休」は「人の動きを止めるためにやっている」趣旨のコメントをよく目にするようになりました。結果的には人の動きを強制的に止めることにはなるのですが、防災行政機関ではない鉄道事業者が先に取組んできた過去の経緯などから、考えはちょっと異なります。

鉄道事業者など公共交通機関の使命として、「計画運休」ありきではなく、安全かつ安定した輸送の提供をすることに努めなければなりません。

自然災害ではありませんが、新型コロナ感染対策では、感染防止に取組みながら事業継続に努め、定期列車の運休は、乗車率の低い実績が続いてから実施されています。首都圏の終電繰り上げは、国土交通省などからの要請により実施されています。

計画運休について、ネットの記事で「これ書いた人よくわかっていらっしゃる」と感じたもののひとつは、ニュートンコンサルティングのコラム 谷優季さん著「計画運休対策で企業を強くする」です。
https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/column/planned_suspension.html

たまたま見かけた記事ですが、鉄道事業者や国土交通省の取組みなどが正確に書かれていると思います。

計画運休の目的

鉄道事業者としての目的は「駅間での列車の長時間停車防止」「途中駅長時間停車・帰宅困難などによるお客様の混乱防止」「計画的な設備点検・復旧、車両配置等によるスムーズな運転再開」などです。

試行錯誤してきた計画運休

世の中一般的には「計画運休」の用語の定義について細かく決められているものではないと思います。台風や大雪など気象予報をもとに、運転規制値に達する前に「あらかじめ」「計画的に」運休することと定義すれば、長距離を走行する列車や地方の線区などでは細々と昔から行われてきました。近年、大都市圏で大規模に行われるようになってから、関心が高まりました。

大都市で計画運休が行われるようになった先駆けとよく言われているのは2014年台風19号の接近の際にJR西日本が京阪神などで行った計画運休です。このときは結果的に世の中から「空振り」の評価となり、賛否両論がありました。その後の台風では「見逃し」あり「空振り」ありで、検証・改善が積み重ねられてきました。

国土交通省がとりまとめ

2018年台風24号では、JR東日本を含め首都圏の鉄道で計画運休が行われた。お客様への情報提供が直前になったことなどにより混乱があり、国土交通省が鉄道事業者の取りまとめに取組むようになりました。

それまで一部事業者の実施が目立った計画運休ですが、2019年に国土交通省の取りまとめができ、各鉄道事業者とも「2日前(48時間前)に可能性を発表」「前日(24時間前)」に具体的に実施することを発表」のタイムラインで実施することになりました。

国土交通省の取りまとめも、振り返り検証と改善が積み重ねられています。運転再開見込みと実際のずれによる混乱や空港アクセスの混乱などの対策が加えられました。

計画運休に限りませんが、各鉄道事業者とも、運行情報についてホームページ、Twitter などのSNS、アプリなどにより前広に情報提供されるようになりました。

車両基地の浸水対策(車両避難。疎開回送)の追加

2019年の台風19号では千曲川の氾濫により北陸新幹線の車両基地が浸水する災害が発生しました。車両基地の浸水が予想される場合には計画運休に車両の疎開(車両避難。浸水しない箇所へ回送)も加えて実施することになりました。(国土交通省取りまとめ)
https://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo07_hh_000169.html

振り返りと改善を積み重ね、世の中の安全にも貢献

計画運休に限らず、振り返りと改善を積み重ねることが重要です。新型コロナ感染対策で時差通勤やテレワークが行われるようになり、計画運休に関する状況が大きく変わっています。

台風や大雪が予想されるときなど、計画運休が実施されるとき、実施されないときとも、ご利用のお客様には、ホームページ、Twitter などのSNS、アプリなどにより前広に確認いただき、行程の変更などを検討、実施いただければと思います。


※鉄道事業者に勤務する気象予報士としては「社会の安全に貢献できるように、今後も取組んでいきたい」と書きたいところですが、現在は残念ながら担当する部署には所属していません。

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