ショートカットの勝率

この土日は実家と美容院に用事があったので横浜の方へ帰っていた。喧嘩しに帰ったようなものだったけど、存外歓迎されて拍子抜けした上に罪悪感まで上乗せされて気持ちに行き場がなくなった。なので帰り際に横浜美術館で浄化されたあとひとり野毛でお酒をひっかけて帰った。まあ、よかった。

美容院といえば以前ここにも書いたようにOさんという美容師さんがいて、挨拶の後「今日はどうする?」と聞かれたのでバッサリ切ってくれと頼んだ。

私の髪は大学に入ってから肩スレスレから背中半分くらいの推移しか見せないほど頑なにロングだったし、Oさんは髪を伸ばしている途中で出逢った美容師なのでショートにしてほしいと頼んだのは初めてだ。

伸ばしていたのは大した理由もなく結べる方が夏暑くないというだけだが、一人で暮らし始めてあらゆるところに長い髪が散乱して掃除が面倒くさいからショートカットにしたいという、また大したことのない理由でお願いしたのだった。

当たり前だがOさんはまあまあびっくりしていて、ヘアカタログで私の希望を色々確認したあと「じゃあバッサリ行くからね」と平安時代の尼さんくらいの長さにバツンと鋏を入れた。

「今日の午前中に経堂からわざわざ来た常連さんもずっとロングだったのにショートにしたいって言ってさ。面倒くさいし緊張するよね。集中して黙って切ってたら『美容師さんみたい!』とか言うんだよ。今まで僕のことなんだと思ってたんだよぉ。」と言った後、私の襟足を黙りこくって切ったり剃ったりしている。「黙ってるの珍しいですね」と声を掛けたら「君の襟足難しいんだよ〜髪質からハネやすいんだから。でも大丈夫、ちゃんと設計図はあるから。迷って黙ってるのとは違うから。」というのである。

「僕は理論派だし、頭の中に設計図作ってから切り始めるんだよね。当たり前だけど髪は切ったら戻らないでしょう。設計図作ってから切るのははお客さんに対して当然のこと。お客さんの顔を見て完成形がイメージできないときは、『切らない方がいい』ってちゃんと伝えるよ。
ショートカットにして失敗したって人はね、美容師のせいなんだ。感覚で切り始めて、そこから完成形を作ろうとするから途中で迷うし失敗する。そのくせ後から言い訳がましいんだよね。『あなたの髪はこういう髪質だから仕方ないんだ』って言っちゃうんだよ。でもそれはプロの仕事じゃない。髪質がわかっているなら最初に言うべきで、結局は美容師の技術の問題なんだよ。僕だったら素直に謝るね、僕が悪かったんだから。『すまん!!』って。」

なんて柄にもなく真面目なことを言っていた。

きちんと計画してゴールを設定することとか出来ないことを認めること、出来なかったら謝ることってどんな仕事でも大事なことなんだろうなと思ったし、どう言う経緯でそういう考えに至ったのか気になるところでした。

それにしても、たしかにちゃんとした美容師さんみたいだったなぁ。

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