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私たちレズビアンだったら付き合っていたよねと戻れない分岐点を話した夜

渋谷駅。
いつものようにホテルに帰ると言う女友だちを見送る。
エスカレーターの前で「バイバーイ」と互いに手を振って、彼女が後ろを向いて歩き始めたのを見守ると、すぐにこちらに戻ってきて思いきりハグされた。

「なにもう~」とかなんとか言いながら、思わず笑いながらしっかり抱き留めたりして、また「バイバーイ」と手を振って、そしたらもう一度戻ってきてハグ。

結局何度もそれを繰り返して、私たちはエスカレーター前の通行の邪魔でしかない状況で、けらけらと大きな声で笑い合った。
最高の夜だと思った。

帰りの電車の中で、さっき自分から日程を指定して次の約束を取り付けてきたくせに、また同じ日を指定して「空いてる?」とLINEが来た。
よっぱらいめ。
そう思いながら、幸せすぎてなぜか涙が流れた。

彼女とはもう10年くらいの付き合いで、私が自分の恋愛できない体質に気づいて、それによって人を傷つけてしまうことに悩み、レズビアンになれればいいのに、と思っていたころに出会った。

「アセクシャル」という言葉も知らなかった。
後に中学時代に男子から受けた嫌がらせがきっかけで男性に対してコンプレックスを抱いていたことに気づくので、今あのころのことを「アセクシャルでアロマンティックだった」と自称しているけれど、それともまた違うものなのかもしれない。

昔から女性に対してはもれなくいわゆるシスターフッドを感じるので、レズビアンになれたらそれを恋だとか愛だとかに変えてちゃんと相手と向き合うことができるのではないか、と考えていたわけだ。

そうしたら昨日、彼女も同じことを言いだした。
「レズビアンだったらいいのにって思ったことあるよ」
そして私もだよ、と伝えると「うちらレズビアンだったらたぶん付き合ってたよね」と言われた。
「そうだね」と笑いながら頷いた。

2人ともそうではないことを知っているから、この話はただの空想話なのだけど、きっとたぶん付き合っていたと思うし、そうしたら時に喧嘩やすれ違いはあるかもしれないけれど、お互いをちゃんと慈しむことのできる関係になっていたと思う。

今の私はヘテロセクシャルで、好きな人もいる。
そして彼女はたぶんアロマンティックだと思う。

いろんな人と付き合ったり、そして結婚して今そのことで思い悩んでホテル暮らしをしたりしていてなかなか言えなかったのだけど、昨日「そうじゃない?」と言ったら「なにそれ、聞いたことない!」と言いながら早速検索して、「えっそうかも…」と驚いていた。

私たちは男性嫌悪の質もとても似ている。
私は所詮中学時代のクラスメイトに言われたりされたりしたことがきっかけでそうなっただけなので、そのことを自覚してからは男性にも心を開けるようになったし、そして恋愛感情も芽生えたのでもう「大丈夫」だけれど、彼女の場合は父親が原因だから痛いくらいに根深い。

(※私たちがトラウマきっかけで男性不信になったり恋愛できなくなったりしているだけで、アロマンティックやアセクシャルがそういうものだというわけではない。
ほかの言葉を使うのが適切だとは思うのだけど、私自身悩んでいたときにこれらの言葉を知って居場所ができたと救われた気持ちになったので、今後も使わせてほしい)

酔っぱらうと必ず言う「整形したい」「私ブスだなーってよく思うよ」って言葉も、幼少期に父から何度も言われたそれに影響されていることは聞かなくてもわかる。
本当はとてもかわいくて美しい女の子なのに。
私はいつもそうやって彼女が自己否定するのを見ると悲しくなるのだけど、ちゃんと会うたびに「かわいいよ」って伝えていこうと思っている。

結婚すると聞いたときも少し不安だった。
既に私は彼女のことをアロマンティックじゃないかと思っていたし、相手の気持ちが大きすぎることを知っていたから、いずれ潰れてしまうんじゃないかと心配だった。
でもウェディングドレスを着た彼女はとてもとても美しかったし、子どもが好きで早く欲しいと言っていたから、水を差すようなことは考えないようにしようと決めていた。

あれから何年経っても彼女のもとに子どもはいない。
いつだったか、夫から受けた行為をレイプだと言っていた。

相変わらず彼女はかわいくて美しいけれど、羽がもがれていてはどんな鳥も上手く飛べるわけないよな、と思う。
父に繋がれ、夫に縛られ、男性を嫌悪する気持ちが変わるはずなどない。

もし私たちがレズビアンだったら、きっと彼女は余計に父から大きな差別を受けることになるとは思うけど、手に手を取り合ってどこかに行けたような気はする。
だけど今の私の心にはほかに未来を望む男性がいて、彼女は好いてもいない男に少しずつ心を破壊されている。

なにもできないんだなぁと思う。
女友だちとはこんなにも無力なのかと思う。
願うだけでは、望むだけでは、なにも変わらないのかと、もちろんわかってはいるけれど。

渋谷の夜は最高だった。
なぜだか、過去のことがさまざま巡った。

先月会ったときは2人ともすっぴんだったな、紙ブラを伸ばしながらつけたら乳輪がでかくなるとか言ってはしゃいだな、いつだかラブホで一緒に過ごしてたくさんDVDを借りたのにほとんど観られずに寝ちゃったな、タコライスの移動販売が来る火曜日は2人でスキップしながら向かったな、初めて会ったときはお互い人見知りで上手くしゃべれなかったな、最初に飲みに誘ったときちょっと緊張したな。

2人とも朝に弱くて旅行の2日目は無言で始まること、私がスマホをプールに落としたときに迷いなく潜って拾ってくれたこと、手首の傷に気づいたけどなにも言えなかったこと、それが会う回数を重ねたころには綺麗になくなっていたこと。

私が泣くと一緒に泣いてくれること。

いつも甘やかしてくれるからつい頼ってしまうけれど、私の存在が少しでも逃げ場になっているならいいなぁ。

そんなことを思う。
そしてまたきっと、こんな夜がやってくるんだろう。

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