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「イグルー」をつくる


本の紹介

「イグルー」をつくる (building an igloo )
ウーリ・ステルツァー:写真と文
千葉茂樹:訳

イグルーとは雪で作られた住居を指します。
北極地方に住む、イヌイットと呼ばれる人々が作って暮らしていた家。
雪だけでできているから必要がなくなったらそのままにして次の地へと移動します。
夏になれば勝手に溶けてなくなってしまうから。

イグルーを作るためには動物の骨やツノ、牙などで作ったナイフ一つがあれば良い、シンプルで無駄のない建物です。
今日ではイグルーで暮らすイヌイットはいなくなってしまったそうだけれども、その伝統的な技術を白黒の写真を添えて魅力的に伝えようとする一冊でした。
訳者の後書きによるとイヌイットと呼ばれる人々の祖先は日本人と同じモンゴロイドだと。
彼らは身近にあるものを使って快適にシンプルに暮らしていたというところからも、何だか親近感を覚えます。
日本人も、外国との貿易を始める前まではそのような慎ましやかな暮らしをしていたと思いますから。

あらすじ

イヌイットの猟師トゥーキルキーが息子ジョピーと共にイヌイットを作る一連のプロセスが収められています。
モノクロの写真を添えて、ナレーターが淡々と語っていきます。
分厚い手袋とブーツ、コートに身を包んだ親子が各々の役割を持ってイグルーを作り上げていきます。

感想

絵本だと思ったけどモノクロ写真が添えられてて、「あれ、絵本じゃないじゃん」という無粋な感想が一つ。
渋いおっさんとその息子がただただ雪を切り出して運んで、積み上げて、シンプルながら洗練させたイグルーを作り上げていく過程。ある種の敬意を感じます。
二人の周りには雪以外何もない、静寂とした空間が広がっていることがどの写真を見ていても伝わります。
狩猟のために人里から離れた場所で作られるイグルーは、妨げになる外的因子が少ないのかも。
静けさの中で、着々と積み上げられていく雪ブロックと、それが形をなしてイグルーになっていく。
表情や言動など、細かいところは描写がないので分からないのですが作り手の親子の信頼関係とか、出来上がったイグルーからは熟練の技みたいなものが感じ取れます。
時と共に失われていく伝統を、こうして形に残していくことって、文化や歴史に対する人々の思い・熱意が伝わって、その思いを受け継いで未来へと繋げていく。なんかこう、大事にしていきたいな…と思わせてくれる一冊でした。


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