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カンボジアへ向かう

もう何度目のカンボジア行きになるだろうか、出発を待つ成田空港のチェックインカウンターでは突如として我々の便がキャンセルされていた。

チェックインカウンターの女は「キャンセルなのでチケットを発行することはできません」とだけ言って、無感情な視線を私に向けた。初めての出来事に分かり易く動揺する私と、女の冷静な対応の感情的落差が大きく、それはあまりにも滑稽だった。私の頭には全ての予定が消滅してトボトボと空港を後にする虚しい光景が浮かんだ。しかし航空会社スタッフの国籍不明の男の出現によって問題はすぐに解決。原因は旅行会社が連絡を怠ったとのことだった。一瞬とはいえ、わりと真剣に絶望した私はぐったりとした気持ちでいつも通りに金属探知機のゲートをくぐった。

成田からベトナムに向かう飛行機の中で映画を見た。シベリア抑留をテーマにした「ラーゲリより愛を込めて」私は昔から不条理に自由を奪われたり、死を迫られるといったテーマに弱く、大袈裟ではなく1時間はバラバラと涙を流しながらワンワン泣いた。そうして国外に出るのは人生で初めてと言う彼女が差し出すウェットティッシュを何枚も消費した。絶望の後に感動。感情が忙しい日本出国になった。

ベトナム、ホーチミンを経由してカンボジアに着いた頃にはすっかりと日は暮れ、濃いオレンジ色の夕日が地平線に吸い込まれている最中だった。新しくなった空港からシェムリアプの街に伸びる道路は、よく整備されたコンクリートの直線道路で、それはまるでアメリカの砂漠を貫くハイウェイのようだった。中国の資本家の助力が影響していると我々を迎えに来てくれた仲間は語った。

30分ほど車を走らせてホテルに到着。仲間とは今後の予定を簡単に決めてから別れ、我々は夕食にありつくためにパブストリートに出た。昨年よりもさらに賑やかさを増し、数えきれないほどのギラついた照明が通りを照らし、バーから溢れる音楽は折り重なりパブストリートは堂々と我々を圧倒した。我々は無事にカンボジアに到着したことを祝って、それから正しくぶっ倒れるように眠りについた。

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