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さぼ子さん  その14

  連載ファンタジー小説


 十四  カギ穴

次の日、よっちゃんの店に集まったのは、じっちゃんたちサボテン組と、ぼくたち子供グループだった。

まず最初にじっちゃんが、きのうまでのできごとを話し始めると、定じいちゃんが、つづいて庄治じいちゃんまでもがブルッとふるえた。
じっちゃんと玄じいちゃんは別として、こんな話は、年よりには刺激的すぎた。

「さて・・・」

話し終えたじっちゃんが、みんなを見回した。

「どうしたらいいと思う?なんかいい案があったら出してくれ」

「そんな怪しい社は、あとかたもなくぶっこわせばいいんだ」

まっさきに言ったのはタバコ屋の定じいちゃんで、すぐに蕎麦屋の庄治じいちゃんが

「ブルドーザだな。わしの知り合いに土建屋がいるから、あいつにたのんで、こわしてもらえばいい」

って言ったんだ。
これを聞いて、ぼくは目が点になった。すぐにそんなのはダメだって反対意見が出ると思ったけれども、この考えは甘かった。
定じいちゃんのブルドーザ案なんてまだまだ序の口で、それからますますボルテージが上がっていったんだ。

「土建屋に知り合いがいるんだったら、ブルドーザなんてしけたものじゃなくって、バーンって火薬で吹き飛ばすっていうのはどうだ?」

とか

「いや、火薬で吹き飛ばすとまわりに破片が散るから、もっときれいにつぶせる方法があるんじゃないか?」

なんて声が出るわ出るわ。
もしかして、さっきのじいちゃんたちのふるえって、武者震いだったのか?

「なぁなぁ、すっごいことになってきたよな」

ぼくの横にすわっていた卓也は、おもしろくってたまんないって感じだけれど、これっておもしろがってる場合じゃないだろ?

こんな方法ぜったいダメだって。誰でもいいからこの老人過激派軍団を止めてくれーってぼくがねがった時、天の助けのように

「どんなに火薬や重機を使っても・・・無理だよ」

って声が聞こえた。
すると、みんなの口がいっせいに止まって、声の主である健を見た。

「どうして無理なんだ?」

じっちゃんが聞いた。

「だって・・・、社にかくれているのって・・・きっとぼくらと同じ人間じゃないもの」

人間じゃない?

ぼくだって、あんなに軽々とさぼ子さんもちあげて走るなんて普通じゃないって思ったけれど、あらためて人間じゃないって言われると、ドキッとする。

「ぼく・・・しらべていると、いろんなことがわかったんだ」

「わかったって、どんなことが?」

ぼくが聞くと、健はもってきたノートパソコンを開いた。

「ぼく、勘じいちゃんが占い師の人から買ったサボテンがどうして・・・えっと・・ほかの種類のサボテンじゃなくって、サン・ペトロっていう種類のサボテンなんだろうって思ったんだ。
このサボテンにするなにか意味があるのかな?ってしらべてみたら・・・サンペトロっていうのは・・・スペイン語で・・キリストの十二使徒の一人、カギをあたえられたっていう聖ペトロを意味するんだ」

どうしてここで聖ペトロなんて人が出てくるのかぜんぜんわからなかったけれども、みんなはおとなしく健の講義を聞いていた。

「南米では・・・サン・ペトロは・・異世界への道をひらくものとされていたんだ」

今度は南米か。なんだか話が、どんどん遠ざかっていく。これには、さすがにじっちゃんもしびれを切らしたみたいだ。

「なあ健、サボ子さんと、そのサン・ペトロとは、なにか関係があるのか?」

「商店街には・・道にそって十二本の灯篭があるけど、・・・これって昔はもっとあったんだよね?」

「ああ、そうだ。ここらへんの開発が始まる前には、もっとずっと長く灯篭の道がつづいたんだよな?」

じっちゃんのことばに、サボテン組のみんながうなづいた。

「あの・・それ貸してください」

健が電話の横にかけてある小さな黒板を指さした。

「えっ?あ、ああ、これかい?ほら使って」

よっちゃんが手わした黒板を持って、健は話をつづけた。

「灯篭は道に沿ってずっと伸びて・・・」

健が黒板に二本のたての線をかいた。

「笑天神社の灯篭は・・・鳥居のはしからはしまで・・・、少し下が切れた円の形におかれている。そして・・円のまん中に社がある」

二本のたての線の上に下が切れた円をかく。

「これって・・・何の形に見えますか?」

みんなに見えるように、健は黒板をもちあげると、みんなはしんみょうな顔をして考え始めた。

「それはカギ穴かい?」

和子ばあちゃんが、おずおずと聞いた。

そうだよ、カギ穴の形だ。

「そう、灯篭はカギ穴の形に・・・おかれていた。サン・ペトロは聖ペトロで・・カギをあたえられ・・異世界への道をひらくもの。
さぼ子さんは・・・、ぼくらが住む世界とちがう世界を結ぶカギで、笑天神社がそのカギをひらく場所なんだ」

その場にいた全員が同時に息をのんだ。

「じゃあ、社にいる奴は、異世界ってところから来たのか?」

「さぼ子さんが異世界との結びのカギだとしたら、どうしてそんな大切なものを玄ちゃんにわたしたんだい?」

「そんな変な奴、どうやって退治できるんだ?」

健に向かって、みんなが口々に質問をあびせた。

「ぼくがわかるのは・・・8月2日に何かがおこるっていうことだけなんだ」

健がこう言うと、みんなはいっしゅんだまったけれど、すぐにまた

「どうやっても社の扉を開けて、中になにがあるかしらべるべきだ」

「もしかして⒏月2日に地球がほろびるんじゃないよね?」

「やっぱりバンってばくはつさせるしかないんだって」

って、てんでばらばらなことを言い出したので、店の中はものすごくうるさくなった。

こんな状態じゃあだれがなにを言っているのかぜんぜんわからない。こんな騒ぎのなかで、だれかが

「相手は異世界ってところからきたんだろ?だったらポンポンってパスワードみたいなものをおせば、ギギギーって扉が開くんじゃないのか?」

って言う声がぼくの耳に入ってきた。

ポンポンってパスワードをおす・・・?ギギーッて扉が開く・・・?
このことばがなぜかひっかかった。

ポンポン、パスワード、ギギーッ、頭の中で何度もくりかえしていると、とつぜんパッと光がさした。

「アーッ」

ぼくが思わず大声をあげると、みんながいっせいにぼくを見た。

「なんだよ琢磨、びっくりするだろ」

卓也が文句を言った。

「あ、あのな卓也、ほらあの時、ぼくたちがポンポンって順番にとびあいっこしただろ?でさ、さいごの一枚にとびのったらギギギーッてすごい音がしただろ?」

「おまえさぁ、なにが言いたいわけ?ぜんぜんわかんないよ」

 あーっ、もうじれったい。

「きっと神社の石畳が、社の扉を開けるキーワードなんだって」
 
 

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