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 さぼ子さん  その8

  連載ファンタジー小説


   八  かんちがい

七月二十二日、今日は4Dメーターがとどく日だ。

今か今かと荷物をまっていたのは、咲をふくめたぼくたち子供五人と、シルバーメンバー代表のじっちゃん、玄じいちゃん、よっちゃんの三人だ。

「あっ、宅急便が来たよっ!」

二階の窓から商店街の入り口を見ていた聖子がさけぶと、さぼ子さんのまわりにいたぼくらはいっせいに階段をかけおりていった。

じっちゃんが代金をはらって荷物の受け取り印をおすと、横から何本もの手がのびて、すぐに包装紙をやぶろうとした。

「まった、まった。ほれ、これは上で開けるぞ」

じっちゃんがリビングのテーブルの上に荷物をおいて、箱から4Dメーターを出した。

「思ったより小さいな」

「ねえねえ、はやく使おうよ」

「これってさぁ、どうやって使うんだ?」

「ほんとにこんな物で交信とやらができるのかねぇ?」

みんながしゃべっている中で、健だけは、しんけんな顔をして箱に入っていた説明書を読んでいた。

「健坊、使い方、わかるか?」

じっちゃんが聞くと、健はうなづいた。

「さぼ子さんに・・・これと、あっちの導線をつなげて・・で・・それを入力端子INPUTに接続して・・・」

健は、まずビニールのふくろからひとつひとつ部品を出して、次に導線がつながったピンチのようなもので、さぼ子さんの一番うすい部分をつまんだ。そしてその導線のもう一方の端をトランジスタラジオみたいな機械につないでいった。

「・・・これでいいと思う」

「よっしゃー、あっオレ、オレがさいしょにやりたいっ。なぁなぁいいだろ?」

卓也が、ピョンピョンとびはねながらさけんだ。

「あー、ずるーい。わたしだってやりたいのっ」

「じゃあだな、まず最初は、みんなが順々に一つずつ話すっていうのはどうだ?」

じっちゃんがこう言ったとたん、さぼ子さんにむかって

「どんな超能力をもってる?」

と卓也が聞き、すぐに

「運パワーは、いつ復活するんだ?」

「さぼ子さん、テレビに出たいよね?」

「わしのサボテンにも運パワーがあるよな?」

「玄ちゃんとおんなじように、わたしのサボテンにもあるか教えておくれ」

「あの甘い匂いって何?宇宙人と交信できる?」

じっちゃん、聖子、玄じいちゃん、よっちゃん、ぼくがつづけて言った。
咲はだまっていたし、健は、おどろいた顔をして一言もしゃべらなかった。

そしてぼくらは、さぼ子さんの反応をまったのに、なにもおこらないし、返事もなかった。

「なんだよー?さぼ子さん、どうしちゃったんだよー?おーい、さぼ子さーん」

卓也が呼びかけても、4Dメーターからは何の音もかえってこなかった。

「なぁ健坊、おまえ、接続かなんかをまちがえたんじゃないのか?」

しびれを切らしてじっちゃんが聞いた。

「ううん・・・まちがえているのは・・・みんなの方だよ」

まちがっているって?どうして?
ぼくらはおたがいの顔を見合わせた。

「わしらのどこがまちがっているんだ?」

「みんなはさぼ子さんがしゃべると思っているみたいだけど・・・。そんなの無理だよ」

「無理?どうしてだ?これは植物と交信するための機械なんだろ?」

「これは、たとえば、さぼ子さんになにか言って、それがさぼ子さんの伝えたいことにひっかかれば、えっと、電流計のメモリが動くんだ。さぼ子さんの電圧変化が大きいと音がでるみたいなんだけど・・・ぼくらがしゃべるような・・・・ことばじゃないんだ」

「ことばじゃない?」

みんなの声がかさなった。ことばじゃないなんて、まったく考えもしなかった。

「そんなのひどいよな。ぼくは、これがバウリンガルの植物版だと思ったのに・・・」

「そうそう、高い金はらって、この針が動くのを見るだけなんてさ、サギみたいじゃんか」

ぼくも卓也も、すっごくあたまにきた。

その横で、じっちゃんが小さくため息をついた。

「そうだった、そうだった。健はこれっぽちだって、さぼ子さんとしゃべれるなんて言わなかったよな。まあ考えてみれば、いくらさぼ子さんが特別だといっても、しゃべるわけはないしな。なぁ勘ちゃん、みーんなオレらのはやとちりだったんだ」

「いかん、いかん。老い先がみじかいと、ついついさきばしりしてしまう」

じっちゃんと玄じいちゃんは、おたがい笑いあっていたけれど、なんかその笑いかたって無理があるんだ。
やっぱり、じっちゃんたちもショックだったんだな。
健はというと、自分のせいじゃないのに同じようにしょんぼりしていた。この時

「健ちゃん、この針がびゅーんって動くのかい?」

と、よっちゃんが言ったから、それまで力なく下をむいていたぼくらは、なんだ?ってかんじで顔をあげた。

「こう、動くんだね?」

よっちゃんは健の方をむいて、ひとさし指を一本たててから、これを左右にふった。

「う・・ん、たぶん・・そうだと思う」

「ふぅん、やっぱりね」

「やっぱりってなにがやっぱりなんだい、よっちゃん?」

 じっちゃんが聞いた。

「さっき宇宙人と交信できるかって琢坊が言っただろ?それを聞いて思い出したんだけどね、もうずっと前にみた映画の中で、宇宙船と交信する場面があったんだ。それでね、その交信の仕方っていうのが電子オルガンみたいなもので、プー・パァー・パーって音を出すと、宇宙船が同じようにプー・パァーって返事したんだ。その時、なんだか、大きな電子パネルに写った縦グラフみたいなものが上下して交信の様子がわかったんだよ」

「だからよー、よっちゃん、おまえさん、なにが言いたいんだい?」 

しびれを切らしたように、玄じいちゃんが聞いた。

「ああっもう、わからないのかい?さぼ子さんは特別なサボテンなんだろ?だったらわたしらもことばじゃなくって、いろいろな方法をためして、さぼ子さんと交信してみたらどうかってことだよ。
そうすれば、もしかしたらなにかわかるかもしれないじゃないか」

その場にいた全員が、オオッてさけんだ。

よっちゃん、ナイス!

「ぼく、その映画みたい」

健がきっぱりと言った。
あっ、こいつ、なにか思いついたんだ。

「それ、なんていう映画?」

ぼくが聞くと、よっちゃんは、しきりに自分の頭をたたいていた。

「あれは、なんていったかねぇ、アメリカの映画だっていうことはわかるんだけど・・・。ああっやだやだ、年はとりたくないねぇ、ぜんぜん思い出せないよっ」

どんな映画なんだろう?ぼくらが考えていると、じっちゃんが言った。

「映画だったら、商店街きっての映画通の鈴ちゃんに聞くのが一番だ」

「わたし、呼んでくる。咲ちゃん、行こっ」

すぐに聖子が飛び出して行って、五分もしないうちに鈴ばあちゃんをひっぱるようにしてもどってきた。
なんだかなにかが始まりそうな予感がする。

「いったい、なにごとだい?」

と聞いた鈴ばあちゃんは、肩で息をしていた。

聖子と咲に、よっぽどせかされたんだな。

「鈴ちゃん、ほら、あの宇宙船が出てきて、なんかおかしな形の山でオルガンみたいなもので交信する映画ってなんだっけ?」

いくら映画通でもこんな説明じゃあわかるはずないよと思っていたら、鈴ばあちゃんは、さらっと答えた。

「ああ、【未知との遭遇】だね」

「そうそう【未知との遭遇】それだよ、それ」

よっちゃんは、題名がわかってすっきりしたって顔をしている。

「【未知との遭遇】だな。よし、わかった。けどなぁ、どうやったらそれが観れるんだ?」

じっちゃんが聞くと、鈴ばあちゃんが言った。

「その映画のDVDだったら、家にありますよ。ブレーレイとDVDを合わせたら、百本くらいはもってるからね」

うひゃぁ、すげえ。いつも着物に白い前掛け姿で銭湯の前を掃いている鈴ばあちゃんが、こんなに映画通だなんてぜんぜん知らなかった。

「咲、聖子ちゃんといっしょに行って、わたしの部屋からそのDVDをもってきておくれ」

咲と聖子は、またすぐに出て行って、あっという間にブレーレイを持って帰ってきた。ぼくは、これをすぐにデッキに入れ、セットした。

【未知との遭遇】は、砂漠で世界大戦の時の戦闘機が発見されたシーンからはじまった。この調査がおこなわれている時、インディアナ州できみょうなことが起きた。町一帯の停電を調べていた電気技師のロイ(この人が主人公)は、おそろしい光を発見し、この光を追いかけて行くと、丘の上には同じような人が集まっていた。
それ以後ロイは光にとりつかれて、会社を首になったり、奥さんにも逃げられたりしたんだ。けれども光を追いつづけていたロイは、ついにワイオミング州のデビルス・タワーっていう山にたどり着いた。そこでロイが見たのは、巨大なUHOのマザーシップが降り立ってくる姿だったんだ。
この場面になると、よっちゃんが、ちょっとふるえる声で言った。

「ここからだよっ」

よっちゃんが言ったように電子オルガンで音を鳴らすと、それにUHOが答える。最初はゆっくりとしたペースでの交信が、最後は光と音との競演となった。
地球人と異性人との間で音楽を使って交流が始まるラストの二十分は感動もので、画面に釘つけになった。
やがて映画が終わり、最後のテロップが流れると、みんながふぅーと長いため息をついた。

「なんか・・さぁ、すごかったよな・・・」
「いやぁー、わし、初めてみせてもらったが、よかった、うん、ほんとうによかった」
「円盤、すごくきれいだったよね」
「なぁ、オレたちもあんなことができたりして・・」
 夢中になって話している中、卓也がこう言うと、みんなの口がぴたっと止まった。
ぼくたちにも・・・できる?あんなでっかいUHOが来て、目もくらむような光を点滅しながら交信する?そんなことできたら・・・もしできたとしたら・・サボテン商店街は日本中、いや世界中から注目されるぞ。これって、すごい。
「早く交信しよう!」
 ぼくは、思わず健のうでをつかんだ。
「そう、そうだって。でさ、UHO呼ぼうぜ」
「わたし、ちっちゃなUHOでもいい」
 卓也と咲がつづけて言うと、じっちゃんや玄じいちゃんも、うんうんってうなづき、みんなが期待の目で健を見た。
「あの・・・ちょっとまって。さっきも言ったけど・・この機械で・・・あんなすごいことは・・できないと思う。でも・・でも・・・さぼ子さんには・・・きっとなにかがある」
 ぼくの横で玄じいちゃんが、ゴクンってツバをのみこむ音が聞こえた。

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