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コロナ×単身赴任下での妻妊娠・出産を通じて(30代・男性・会社員)が考えたことについての雑記

2020年。

世の中の価値観や人びとのライフ/ワークスタイルが一変した、記録的な1年になりましたが、一般企業に勤務する(30代・男性・会社員)という世の中見渡せばどこにでもいる属性をもつ僕にとってもそれは例外ではありませんでした。

僕の場合は、以下3点の事象が同時に訪れました。

①3月に関西への単身赴任が決まり、春から妻・東京、僕・神戸の暮らしが始まったこと
②3月に妻の妊娠が分かったこと(僕たち夫婦にとっては初めての子どもであり、それはとても望ましいことではあったことは補足しておく必要があります)
③3月にコロナが本格化し、欧米のように強制力を伴うものではないとはいえ、これまでとは比べものにはならないほど移動の自由に制約が課せられたこと

一つひとつを取り上げてみれば、特に①や②はそれほど珍しいことではないと思うのですが、①②③のトリプルコンボは、僕(たち夫婦)にとって、それなりの大きな試練をもたらすできごとでした。

幸い、11月18日に母子ともに健康の状態で待望の第一子が生まれ、現在、里帰り出産先の長崎の妻の実家で、健やかに眠る娘の寝顔を見ながらこの記事を書くことができているのですが、ここまでのプロセスで僕自身が考えたり感じたりしたことは、一度まとまった言葉にしておいた方がいいのではないかと思い、記事を書くことに決めました。


◆妊娠・出産は命がけ


こんなことを書くと、世の妊娠・出産に携わってこられた方々からすると「なにを今さらあたりまえのことを」と思われるに違いありません。
しかしこれまで、子どもが生まれるということについて、具体的に自分自身の身に起こることとして、ありありと考えたことのなかった僕(あるいは僕たち夫婦)にとっては、驚くほど深刻で息が詰まるできごとの連続でした。
僕と同じような(特に男性の)方々向けに端的に申し述べると、それは、

・あなたの最愛の恋人や奥さんが妊娠・出産で最悪の場合、亡くなってしまうかもしれないということを具体的に想像するプロセスであり、

また、

・まだ見ぬ最愛のお子さまも同時に同じことになるかもしれないということを具体的に想像するプロセス

であるということです。たとえば妊娠初期に妻がこんなことを医者から言われました。

多少卵巣にふくらみがあります。しばらくすると収まると思いますが、収まらなければガンの可能性もありますので次来られた時まで様子を見ましょう。

毎日何人もの患者さんを見ているお医者さんからすれば何気ない診断なのだと思うのですが、この一言だけで僕たち夫婦はもう軽いパニックです(特に妻のストレスはそれはもう僕以上に大きなものがあったと思います)。

卵巣のふくらみが収まったと思ったら次はこれです。

羊水検査をするかどうかを決めてください。母体のおなかに針を刺し、羊水を採取して、胎児の染色体に異常があるかないかを調べる検査です。ダウン症をはじめ、染色体異常による先天性の障害がわかります。仮に異常が分かった場合は「生むか生まないか」も決めてください。ただし、羊水検査の過程で1000人に3~5ぐらいの割合で残念ながらお亡くなりになってしまう胎児もおられます。このことを踏まえてご判断をしていただきたいのですが、どうされますか。なお、ダウン症のお子さんを育てるということは生半可な覚悟ではできることではありません。

たまたまこの日は、妻だけでなく僕も病院に立ち会っていて、お医者さんからの問いかけのその場にいたのですが、唐突な問いにことばを失いました。
繰り返しますが、「そんなこと事前に調べておけよ」と言われれば返す言葉もございません。
なのですが、日々それなりに会社員として仕事をこなす身であり(それは妻も同じでした)、それなりに体力・気力を使って生きている日々の中で、こういう問いが急にやってくるのはもう、目の前が真っ白になる感覚でした。
「どうしようね・・・難しいね・・・」と妻と二人、憂鬱な気持ちでこの日は帰路につきました。

また、ある時なにげなくtwitterを眺めているとこんな記事が流れてきました。

いま読み返しても息が詰まります。常位胎盤早期剥離。ジョウイタイバンソウキハクリ??
この記事を読み、いろいろ調べながら、ちょっと何言ってるのかわからないレベルに頭が混乱したことを覚えています(ほぼ涙目になって妻にこの話をシェアしたら「ああ、そういうのもあるらしいね」とあっけらかんと返され女性は強い…と心底思いました)。

不要にリスクを煽る意図はありません。
統計数字上、妊娠・出産で妊婦が亡くなる確率は、日本は世界でも稀にみる低さです(10万人出産当たり5人(0.005%))。
ただ、目の前の妻や子どもは誰にとっても一人です。僕にとってはこの統計上の事実は、冒頭に記した最愛の奥さんが妊娠・出産で最悪の場合、亡くなってしまうかもしれないということを具体的に想像せざるを得ないきっかけになりました。


◆「これが最後になるかもしれない」という覚悟の関西出征


これもまた、いま思うと大げさな、ということにはなるお話なのですが、3年ほど妻と2人で暮らした東京の自宅を出て、単身赴任先の神戸にひとり向かったのは、緊急事態宣言真っただ中の季節でした。


なお、僕自身は地元が神戸であり、社会人生活の最初の5年も神戸で暮らしていたので、まったくなにも知らない地に出向くということではありませんでしたし、実家も近くにある環境でしたので、世の中の単身赴任でご苦労されている方々と比べると、それ自体は気楽な環境であることは間違いありません。
ただ、大げさではなく、神戸に向かうときに感じたのは、「妻と会うのはこれが最後になるかもしれない」という感覚、もう少し穏やかな言葉に言いかえていえば、「次に東京に戻ってこられるのはいつになるのかわからない」ということでした。

今でさえ、東京⇔大阪の往復は諸手を上げて推奨されるものではありませんし、第三波の本格的な到来を迎えて、ますますそれは自粛が望まれる状況になってきてはいますが、緊急事態宣言当時の状況はいま以上に、新型コロナウイルスに対して分からないことが多すぎました。

「2週間後の東京はニューヨーク」という言葉も、当時真剣に受け止めるべき言説の一つでしたし、このウイルスが妊婦に与える影響というものも、分かっていることが少なすぎました。

そんな中で、妊娠中の妻を残して関西に旅立つ(「出征」という言葉を見出しでは使いましたが、感覚的にはほんとうにそんな感じでした)とき、「次会えるのはいつだろう」という想いとともに、妻や子どもに万が一のことが会ったときに近くにいられない寂しさを強く感じたことを覚えています。単身赴任という状況をこれほどつらく思った瞬間はありませんでした。

幸い、夏にかけて緊急事態宣言が明け、コロナの感染状況が一時落ち着きを見せるとともに、感染状況の落ち着き以上に、一般市民がコロナ対策として行うべき行動や避けるべき行動が少しずつ明らかになってきたなかで、僕が週末に東京に戻るという暮らしを夫婦で意思決定するに至り、当初想定した最悪の状態は回避されることにはなりました。

ただし、重ね重ね、コロナ×単身赴任×妻妊娠・出産の状況の、どこにも気持ちのやりようのない難しさを感じたできごとの間違いなく一つではありました。「家族に会う」という当たり前のことが、これほどまでも葛藤や悩ましい意思決定のもとになされることになるとは、一年前に誰が想像していたでしょうか(そしてその状況は今もそれほど変わっていません)

なお蛇足ですが、現在、新型コロナウイルスに対して一般市民が理解しておくべき内容として、もっとも信頼をおける内容がまとまっていると僕が思うのは、和歌山県知事が12月28日に出したメッセージです。多少の長さはありますが、科学的・合理的な内容を、平易な言葉で語っておられ、非常に納得感が高いです。


◆里帰り出産先の病院「申し訳ありませんが感染拡大地域からやってこられる旦那さんはご遠慮ください」


僕が単身赴任の日々のなか、妻は東京で9月まで働きながら、お腹の赤ちゃんを育て、9月末からは妻の実家に里帰り出産をすることにして長崎の病院にお世話になることになりました。
最初に申し上げておくと、今回お世話になった病院には、申し分のないサポートをいただき、夫婦ともどもたいへん感謝しています。

ただ、第一子の誕生を待つ一人の父親としては、「コロナウイルス感染拡大地域(僕の単身赴任先の兵庫県もその指定の対象でした)からお越しになる旦那さんは、出産後の1カ月検診を終えてからの面会となる」という制約はとても残念でした。
いや、それはもう仕方ないのですけれども、立ち合いはおろか、生まれて1カ月は会うこともできないという制約は、これも一年前では誰も想像ができなかったことではないかと思います。

僕(たち)にできることは可能なかぎりオンライン通話の時間を持つことくらいでした。
出産前後、体力が限界に近い状況にあるであろうなか、できる限りの通話の時間を確保してくれた妻には感謝してもしきれません。
おかげで、日々変化する妻や娘の様子を、それなりのリアルタイムで追うことができたのではないかと考えています。

もうひとつ、出産後にとても有効だったのは「ぴよろぐ」というアプリです。 
これは現在も重宝しているのですが、夫婦でリアルタイムにミルクやおむつ交換、睡眠などの育児記録が共有できるため、離れた場所にいても、アプリを見れば「あ、いま寝てるんだな」とか「昨日はたくさんおむつ交換をしたけど、今日はあまりしてないな」などということがわかります。
里帰り先の長崎の実家に住まわせていただき、夫婦で育児をしているいまも、このぴよろぐを二人で記録していくことで、一人が休んでいたとしても、情報共有ができるようにしています。


◆「育ててくれてありがとう」


現在、年末年始休暇中の僕は、娘がようやく生後1カ月を迎えたタイミングということも重なって、無事移動制限もなくなり、長崎の妻の実家で妻子と暮らすことができています。

そんななかでこの前、妻と話していて、妻から「妊娠・出産期間中、あかちゃんのことだけでなく、私に向けて「育ててくれてありがとう」と、言ってくれていたことがけっこうよかったよ。特に君は意識してなかったと思うけどw」という、お褒めの言葉を頂戴することができました。 
たしかに仰るように、特に意識していたわけではなかったのですが(笑)、これは正直な気持ちとして、僕がずっと思っていたことではありました。

はじめての妊娠・出産という命がけの不安な日々を、近くにいたとしてもどれだけ役に立つのかどうかは別として、近くに旦那もおらず、コロナのリスクも抱えながら、たくましく力強く乗り切ってきた妻に対しては、本当に感謝の気持ちでいっぱいでいます。
そのことを伝えることができ、またそのことが伝わっていたということは、とてもよかったなと思いました。

2020年の危機(?)を乗り越え、こうして無事に、平和に新しい命とともに1年を終えられようとしていることに感謝をしつつ、2020年を締めくくりたいと考えていますが、それにあたって、今年、僕の身の回りにおきたできごとはけっこう試練を伴うものだったなと考え、ちょっとまとまった文章として記録に残しておくことにしました。

ご一読いただき、ありがとうございました。

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