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「明日へ」

ありふれた毎日をなぞるように歩き、ときどき高く見上げた空をなぜか懐かしく思う。まだ行ったことがないのに、たどり着くことなどないのに、背中にしのばせた羽根を広げて飛び立つ夢を今日も見る。

よくぞここまで来たと称える波、白い月にはにかむ少年。少年はいつしか無精ひげを蓄え、腰は曲がり、杖をつき、今を歩く。道なき道。終点を定めるのはお前の気力、体力の果てではないか。

さようならが言えなくていつもひとりきりだった。誰かが陰で笑っていれば怒ってよいのだといつも世の中を敵に回してきた。本当の敵などどこにもいないのに、いつも何かと戦ってきた。詰まるところ敵はこの己自身だったのか。

寂しいという感情が湧かなくなったあの日、ひとりで生きることの苦しさがなくなった。誰もいなくなったあの日を境に魂のスイッチが切れ、つながりと分断が共存する世になった。

悔しいという感情が湧かなくなったあの日、ひとりで生きることの寂しさがなくなった。誰もいなくなったあの日を境に感情の導火線が切れ、つながりと分断がこの世を支配した。

今年の冬も乗り切った。外にはこんなにも晴れやかな日が訪れているのに、世には憎しみの連鎖が満ち溢れる。引き裂かれてしまった青を結いなおして人の世を一枚の布にしたいのだ。

そして、いつか優しい雨が降ると少女が貸してくれた水玉模様の傘。細いつながりを渡る。美しい記憶は遠く空の彼方。今日が愛おしいなら明日も愛おしい。柔らかい陽が差し込むコテージでひとり幸せとは何かについて考える。これが幸せであってもよい。そして明日に舵を切る。

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