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この30メートル先、熱帯魚屋。

自分がいなくても回る世界を、心身を壊しながら必死になってまで生きているのがいつものように嫌になって、午後の業務をバックレた。
なんならそれは体調管理が上手くできない自分への憤りからの逃げであって、素直な言葉ではない。
実のところ普通に呼吸も朝から一日中浅く、ストレス性の発熱をしていて昼になっても調子が悪いから、明日まで引きずるくらいならと、帰って寝ようと思っただけである。

けれど、なんとなく途中で電車を降りて、恋人が休日によく行きたがるアクアリウムショップに一人で寄ってみた。

客はまだ居なかったがオーナーの鼻歌が聴こえた。
普段私にはわからん専門用語で、熱帯魚とそれに纏わるバケ学の話を、恋人とブツブツ無愛想に繰り広げているオーナーのあんちゃんが、今日は楽しそうに水槽の水を換えていた。

私に気付くとイラッシャイアセ、と当たり前のように会釈して作業に戻っていた。私はなんだかそれが妙に嬉しかった。

狭い店内を快適に物色、もとい長居するには、オーナーの水換えホースが邪魔だったので、すぐに店を後にしたけれど、居心地が良かった。

玄関の外にうず高く積まれた防犯意識の低い流木や、ホコリまみれの中古水槽、マニアックなブランドのアクアリウム用品と、それらと同じ棚に並べられた昆虫ケースの中で暑がるハムスターに、良く手入れされた淡水生体たち。
水槽内にブクブクと酸素を送るポンプやフィルターの音の中から、微かに聴こえる店内BGM(今日はYOASOBIだった)。
そのどれもが内向的な私の仲間みたいな心持ちになって、なんとも良かった。

今はなんとなく朝よりも呼吸がしやすい。


平日の昼下がり。

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