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味噌汁の中に、残り物の天ぷらを入れるのは私の実家だけだと思っていたら、そうでもなかったという話

赤味噌文化圏愛知

赤味噌をこよなく愛する名古屋人にとってみそ味のだし汁と天ぷらの組み合わせは定番といえる。なぜなら味噌煮込みうどんの専門店というのが名古屋には多く存在するが、そこを訪れる客の多くが大海老の天ぷらが入った天ぷら味噌煮込みうどんを注文する傾向にある事からだ。

贅沢をいえば鶏肉は名古屋コーチン、そしてその卵で作った親子煮込みも捨てがたい魅力があるのだが、やはりリッチな気分を味わうにはメインの海老がどこに隠れているのか想像のつかない量の衣をかさ増しした大正海老か車海老ならしめたものなのだが、多分ブラックタイガーか(この場合のブラックタイガーはタイガーマスクの敵のそれではない)バナメイエビの天ぷらにご登場願わねばなるまい。

天ぷら入りみそ汁は地域限定メニュー?

つまるところ何が言いたいのかといえば、私が幼少の頃、我が家では前夜の夕食の献立が天ぷらだった次の日の朝、決まって生粋の名古屋人というか名古屋からほとんど出ることがなかった父が、残り物の天ぷらをみそ汁に投入して満足そうに朝飯を食べる姿を目にし、「朝からヨーあんなもんが食えるわ」と独り言ちた記憶があるというだけのことだ。

この取り合わせは我が家、私のくそおやじだけに限った食べ方であって、この地方の年寄りの多くがそういう食べ方をするのだという事実を知る機会にも恵まれなかったし、敢えて知ろうとも思わなかった。
しかしそんな自分の思いとは裏腹に思わぬところでその真実が明らかになる日が訪れたのである。

最近はあまりテレビ自体見ないのだが、どっちの料理ショーという長寿番組がある。みのもんたと久本雅美の司会でもう記憶にないほど以前から続いていたこのどっちの料理ショー、つい最近何気なくテレビを付けると、知らぬ間にみのもんたに代わり爆笑問題の田中裕二が司会を務めていた。ゴールデンという時間帯に放映されるテレビ番組も一年近くに渡り見ないでいるとすっかり様変わりするのは当然といえば当然なのだろうがこの引継、なかなか的を得たバトンタッチに思えるのは私だけではなかろう。

独特の食文化を持つ愛知県は、かなりの頻度でこの番組に登場するが、その一つに昔、前述の残り物天ぷらぶち込みみそ汁の特集があったからこそ亡き父の奇行が、ある回の放送で、地域の伝統的食文化に基づく正統的愛知県人のマストアイテムだったのだとの確信が言ったわけである。私だけが勝手な味音痴との烙印を押した亡き父の汚名が返上された瞬間でもあった。

昔親が好んで食べたベタな家庭料理が、気がつけば今の自分の好みでもあったりする驚き

食に対する人の嗜好は、年齢とともに変化するものだと最近感じることがよくある。若い頃は肉といえば牛ぐらいに思いこんでいたが最近では専ら鶏肉や豚肉が多く、牛肉に関して言えば、チェーン展開する庶民的な焼肉店か有名チェーン店の牛丼ぐらいしか口にする機会がない。赤飯などに至っては子供の頃から見るのも嫌で、何でありがたい席であんな甘くもなんともない、もそもそのあずきの入った赤まんまなんぞが持てはやされるのか不思議でたまらなかった。
だが今ではどうだろう、コンビニでおにぎりを選ぶ時、まず真っ先に目をやるのが赤飯握りで、他はその時の気分で色々変わる有り様だ。

マイベストチョイス

そしてあれほど毛嫌いしていた天ぷら入り味噌汁を、次の日の朝どころか揚げたてをその日のうちにみそ汁に投入して食べるのが、習慣化している自分に驚かされる。だがこれは強烈なインパクトを持つ濃厚な赤味噌の味噌汁だからこそ成り立つのであって、白みそや田舎味噌と言ったその他の味噌汁に入れるのは少々憚られるような気がしないでもない。

赤味噌に抵抗感を持たない人は、是非ともお試し願いたい食べ方である。今ではおかしなものでそんな自分の姿を周りの人がどんな感じで見ているのか微塵も気にすることなく食べ続ける習慣が、生前の父と同じ様にこの先死ぬまで続くことが想像に難くない。「血は争えない」とは、よく言ったものである。
noteのネタが思い付かないので、草葉の陰で嘆き悲しむ父の姿に思いを馳せて、書きなぐった次第だ。お粗末!

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