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Netflix 『ウェンズデー』とメタリカ「Nothing Else Matters」 が作用する物語へのメタファー

Netflixの『Wednesday』おもしろかったです

少し前から観ていたNetflixの『Wednesday』観終わりました。面白かった!数字的には『Stranger Things』の再生数抜いてるらしいんだけど、それも納得な内容でした。(でも『Stranger Things』は2016年開始なので当時と今のNetflixの会員母数も宣伝費も違うから単純に比較できなくね?)

普通に観ていても面白いのですが、今回劇中にメタリカの名曲「Nothing Else Matters」が使われていたのでこの記事はその情報補足になります。一流のクリエイターは音楽の使い方がマジでうまい。日本の作品で「うまいなー」って思ったことほとんどないんですが、何が違うんですかね。その音楽の背景、歴史、そして解釈。文脈なんですよね。

使用されているのはメタリカ本人のものでなく、メタリカをチェロ四重奏でカバーするというコンセプトから生まれたアポカリプティカのバージョン(このバンドもただのカバーバンドではない、マジでかっこいい。物販のグッズはクソださいが)


「Nothing Else Matters」の時代背景、1991年の迷作? ブラックアルバム

「Nothing Else Matters」が収録されているアルバムは1991年の名作、通称『ブラックアルバム』です。スラッシュメタル四天王とか日本で呼ばれていたメタリカですが、『ブラックアルバム』は変革期の集大成にあたる作品で、それまでのスラッシュメタル然としたサウンドを完全に捨て去ってヘヴィロックとしての新しいサウンドを提示、世界的なセールスを叩き出したモンスターアルバム。1曲目の「Enter Sandman」から始まるリフとグルーヴ主体の新しいサウンドは今でこそロックのクラシックとして認識されているが、スラッシュメタルを捨てるという決断、本当にこれで売れるかどうかもわからない中での挑戦的なアクションであったと捉えることも出来ます。もしこのアルバムが滑ってたらバンドはすべてを失っていたかもしれない。


メタファーとして多重に機能するメタリカ

1991年という時代背景には大きな意味があり、『Wednesday』の元ネタとなるアダムスファミリーの映画の1作目が公開されたのがこの1991年。Netflix版アダムスファミリーとも言える『Wednesday』において、メタリカの「Nothing Else Matters」めちゃくちゃ複数の意味においてメタファーとして機能している。

『ブラックアルバム』というアルバム単位で考えると、メタリカがスラッシュメタル → 新しいヘヴィロックへと変貌、挑戦という過程を辿っているのと同じように、この『Wednesday』という作品もまた新しいアダムスファミリーの文脈を更新していくのだ、という製作陣の意思、メッセージの発信であるという受け取りかたはできると思う。

さらに物語軸で考えても「Nothing Else Matters」の挿入されるシーンは、物語がこれまでのお約束の流れから逸脱を始めていることを暗示している。登場人物それぞれのシーンを映しながら、この物語全体を覆っている事件の犯人は誰なのか、全員が怪しく見えて登場人物間の信頼が揺らいでいるシーンだ。

更にはバンド初のラブソング・バラードと言われている「Nothing Else Matters」をこの作品のシーンに挿入することで、曲の元々解釈されていた内容とは別の意味、別の解釈で定義づけしているところも上手い。歌詞の内容的には "信頼" だったり、他人の何かに左右されない絶対的な"信念"のようなものがテーマになっているんだけど、それをラブ的なものではなく、登場人物ウェンズデーの孤高さや、物語で揺らいでいく信用的な部分に重ねていくのは凄い上手い意味があるのだと思う。
ウェンズデー自体がめちゃくちゃ中二病キャラなので、こういった文脈重視の意味づけや解釈ができるオタク要素があるのも納得がいく。歴史改変。メタリカと同じように、アダムスファミリーの文脈が更新されていくんだけど、楽曲解釈も変わりました。

※でも最初聞いた時、あんまラブソングって気は自分はしなかった。

そもそもメタリカの立ち位置って今なんなの?

これが一番気になった。
そもそもNetflixで全世界配信されるこの作品でメタリカの「Nothing Else Matters」流して、それで「おおっ」ってみんなこのメタファー理解できるものなの?
2021年にメタリカはブラックアルバムのリマスター盤みたいなのを出していて、現代のポップアイコン・ミュージシャンが多数参加するカバーアルバムも企画されている。「Nothing Else Matters」をカバーしているのも数人いた気がするんだけど、印象に残っているのは現代のロックスター、ポップカルチャーのアイコンでもあるPhoebe Brigersだったりするんですよね。
なので、若者的にも、おじさん的にも、全世代でメタリカはクラシック的立ち位置になっているんだろうな、と思った次第です。
わかんねえよ。



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3LA -LongLegsLongArms Records-
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