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ラジオドラマ 青春アドベンチャー『あたふたオペラ からふる物語』

NHKラジオドラマ 青春アドベンチャー『あたふたオペラ からふる物語』(東京にこにこちゃんの萩田頌豊与さん作)がとても楽しかった!

本作の舞台はDJ久子(池谷のぶえさん)のラジオ番組「じゃこもかしこも」。ゲストは劇作家の唐(から)(村上公太さん)。唐は番組で自分の恋愛遍歴を語るうち、DJ久子を好きになっていく。そんな中、「じゃこもかしこも」に打ち切りの危機が訪れ、唐は番組存続をかけたクイズに挑戦、最後は大団円を迎えるという、なんとも楽しくて素敵な作品だった。
公式サイトでは、「プッチーニの名曲アリアが滑稽な日本語詞で歌われる異色コメディー」と紹介されている。

ジャブのように次々繰り出される会話中のボケ・ギャグや、ハッピーエンドの幸せ感など、本作の魅力は色々あったけれど、一番面白かったポイントは、なんといっても声楽家の方により本格的なオペラ風に歌い上げられる物語だと思った。

唐は、人が物語を話すとそれが歌になって聞こえるという「あたふたオペラ症候群」にかかっており、リスナーにも、唐の脳内と同様に、物語がオペラのように聞こえるようになっている。

唐には、「100分de名著」ならぬ「25文字de名著」ができるという特技がある。文字通り、物語を25文字以内で瞬時に要約して語れるという才能である。
DJ久子のリクエストにより、この「25文字de名著」が毎回披露されるのだが、25文字にまとめていても物語であることに変わりはないので、リスナーにはこれがオペラとしてきこえる。
例えば、『マッチ売りの少女』であれば、

♪ 売れないわマッチが 寒すぎて火をつけて 死んだ~~~

となる(21文字なり)。これがオペラっぽく歌われる。

『人魚姫』『マッチ売りの少女』など、だれもが一度は読んだことのあるおなじみの物語なのだが、その「なじみ深さ」とオペラの持つ「格調高さ」のギャップが大いにあって、面白い。
この「25文字de名著」以外に、唐が語る自身の失恋話に登場する物語も、中身は至って日常的な話であるのに、オペラとして聞くと一見高尚なものとしてきこえるので、そのギャップに思わず笑ってしまった。

高校生の頃、古文の時間に、古語で書かれた物語を読解するという時間があった。「いとおかし」「~~けり」等の言葉が使われていると、ぱっと見、とても高尚な内容が書かれているかのような印象を受けるのだが、読み解いていくと、実はものすごく日常的な出来事の記録だったり、親近感を抱けるような感情の記録だったりしたので、ギャップがあるなあと感じたものだった。
本作を聴きながら、そんなことを思い出した。

ちなみに、この「25文字de名著」、物語をむりやり25文字で要約すると、原作の持つ感動や味わい深さは失われ、最後は「死んだ」で終わるのがお決まりになるなど、物語の持つすばらしさみたいなものは一切切り捨てられるようなものになっている。
本作においては、その「切り捨てられ感」がシュールな、面白い方に機能している。
ドラマや映画の「倍速再生」、音楽の「イントロなし・いきなりサビ」が流行るなど、芸術作品においてもタイムパフォーマンスが重視される最近の時流にあって、「25文字de名著」は、25文字には含まれない部分こそが物語の味わい深さであることを改めて思い起こさせた。
「25文字de名著」のシュールさは、そのまま、作者・萩田さんの「物語」というものに対する愛情の裏返しのように感じられた。作者に愛され、リスナーに愛される物語・・・なんだかいいなあとしみじみ思ってしまった。

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