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ディズニーリゾートでヘッドホンしてまで聴きたい音は何

開場の時間は過ぎ開演の十二時三十分が迫る。

タコス店を後にして会場に着く。

中に入り自分の座席を探す。

人混みの中ようやく着席する。

落ち着きを得て見回してみれば新鮮な空間だ。

普段足繁く通う映画館とは似て非なるもの。

正面にはステージ、天井には照明装置があり、客席の構造も異なる。

どんな人たちが観に来ているのか気になり周りを見る。

つい最近から自席からの写真撮影が可能になったらしい。

写真を撮っている。

つられるようにしてたくさん撮る。

フォルダーを見て具合を確かめる。

そうこうしているとアナウンスが入る。

そして公演が始まる。


先日、生まれて初めてミュージカルを観に行った。

何か文化的な新しい経験をしたいなと思うことがあり、良いものがないか探していた。

そんな時、ミュージカルを頻繁に観に行くという知人に劇団四季の公演「美女と野獣」を紹介され、行ってみようということになった。

良いタイミングはいつだろうかと相談すると、お互いに予定が合いそうなのが「文化の日」だった。

数ヶ月前から立てていた計画だった。



当日になり、会場のある舞浜に到着した。

舞浜駅といえばそう、ディズニーリゾートラインへの乗り換え駅。

駅を出てすぐそこにはディズニーの世界。



最後にディズニーに行ったのはいつだっただろうか。

思い出すのは簡単だった。

それは小学生の時だった。

家族と行った。

確かタワー・オブ・テラーができて間もないようなときで話題になっていた。

サッカークラブの練習を休んで来たことに感じていた罪悪感は、帰りの電車でふと思い出すぐらいのものにいつの間にか薄れていた。


それ以前にもディズニーに行ったことはあった。

しかも海外のディズニーだった。

夏休みの最中、父の海外出張に家族で同行した。

その時はディズニーも含めさまざまな場所に連れて行ってくれた。

夏休みの宿題で出されていた絵日記に、なるべく小さい文字でページいっぱいに思い出を敷き詰めた


父は海外出張をするとき、会社から支給される旅費に自費を加え、旅行を満喫してくることが多かった。

帰国した父が持ち帰るお土産は家族を喜ばせた。

海外のサッカーチームのレプリカユニフォームは兄と僕にとっての楽しみだった。

姉や母はその土地の珍しい食品を楽しみにしていた。


数年前から海外出張に行くことは一切なくなったようだ。

「リモートで済むことに社会が気付いたんだよ」と言う父。

家族の楽しみが1つ失われてしまった気がした。

そしてそれ以上に、父自身の人生の楽しみの何個かが失われてしまったのではないかと心配になった。



ディズニーは中学・高校の頃、ましてや大学の頃に普通の人間関係を築けているような人は何度も行く場所なのだろう。

確かに、行きたい、という衝動を抱いたことは何回かあったかもしれない。

とはいえ、誘える友達がいない。お金もない。


小・中・高・大のどれかのタイミングで知り合った知人がインスタグラムに投稿する煌びやかな写真はディズニーで撮影されたようだ。

この距離感でたまに目にする夢の国。

中には、「年間パスポート」なるものを取得して休みの日に一人で行く人もいるらしい。

これだ、と思った。

年間パスポートは取得しないとしても、もし「ぼっちディズニー」に行くのなら、マニア面する他ない。



公演時間まで余裕があったので先に昼食を取ろうということになり、会場すぐ近くのシネマイクスピアリという場所に着いた。

内装がまさにディズニーのそれで、園内に入っているわけではないが十分に楽しめる空間。

正直に言ってテンションが上がる。

まだ昼食としては早い時間だったが、レストランエリアはすでに人で賑わっており、どの店でも列ができている。

どうせ並ぶことになるなら一緒だと思いいずれかに並ぶ決心をして、ハンバーガー店かタコス店かで迷い、後者を選んだ。

どうせ外食をするのなら普段なかなか食べることのない、ましてや自分で作ることなどない食べ物を選ぶようにしている。

なかなか美味しいタコスであった。



そして冒頭に戻る。


・・・

・・・・・(鑑賞)・・・・・

・・・


一言で言えば「ゴージャス」。

総合力で、ひたすら殴られた感覚。

舞台装置がすごい。

演出がすごい。

歌唱がすごい。

そして、滑舌が良い。

これまでにミュージカル映画を何作品か観たことはあるが、進んで観るようなものではなかった。

曲・歌が良いので悪い気はしないのだが、「なぜ今これを見せられているのか」という疑問を完全に拭い去ることができず、感情などの心理的描写を歌唱に託すという手法そのものに対して好意的ではなかった。

しかし、生で観るとやはり違うことはあるなと思った。

細かいところでストーリーとかキャラ描写とかに気になる箇所はあったが、そういう視点は持たない方が楽しめる体験だと思ったし、実際に楽しめた。

他にも色々と思ったことをメモに残しているのだが、一回しかまだ観たことがないミュージカルに対する浅はかな持論を展開するのはこの辺で止めることにしよう。また何回か観て考えを深めた後、機会があれば文章にしたい。

公演の合間の休憩時間(ミュージカルの合間には20分ほどの休憩があることも今回知った)に、自分達の後ろに座っていたミュージカル鑑賞常連客と思われるマダムが「劇団四季といえばライオンキングだよね」「ぜひ観といた方が良い」という会話をしていたので、次はライオンキングを観に行くかもしれない。



鑑賞を終え、せっかくなのでディズニーストアに行ってお土産を見ることにした。

買うつもりはないとしても、こういう時は大体お土産店に行きたくなる。

ディズニーランドに行ってきたらしき人もいれば、自分達のように入園はしていないがその周辺の施設で楽しんできたらしき人もいる。


とある人が気になった。

ヘッドホンをしながらお土産を探す男性。

ディズニーリゾートでヘッドホンをしてまで聴きたい音は何なのだろう。

ディズニーリゾートという特別な空間を持ってしても、ミュージカルを観た直後の高揚した気持ちを持ってしても、「何を聴いているんですか?」と訊いてみる些細な勇気は湧き起こることはなかった。



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