歳差運動3-⑦
笑いが起きその場が和んだので、それを壊すのは勿体ないと思い、間をとることにした。よそよそしかった冷たい雰囲気があっという間に氷解し、お隣さん同士でひと言ふた言とことばを交わすほどになった。俺は司会者に向いているのだろうか… 微笑んでいる彼らの表情を見て、若いというのはかけがえのない宝ものだと今さらながらしおらしく思った。表情を崩しただけであんなにも魅力的になる。これは若い教師の特権だよ、みなさん…教室ではいつもニコニコしていようね!なんて子どもに投げかけるように心の中でつぶやいた。
そういえばうちの学校にも若手教師がたくさんいるが、これまで若い人の言動を注視したり、真剣に向き合ってこなかったことに気がついた。 どうしてだろう? おそらく、自分の気持ちが校長や教頭、あるいは学年主任や年配の先生ばかりに向いていたからだろう。ひょっとすると彼ら若手も、俺たちいわゆるベテランのやることなすことをよく見ているのかもしれない。ただ、俺が管理職たちを見ている目と彼らが俺たちを見ている目とでは視点が違うのだろうよ。
いつの間にか話し合いが進行していて、順番の最後、俺のところにお櫃が廻ってきた。
「私が勤務する北城小学校は室町時代に建立された山城の北側に位置していて……新興住宅地の保護者と以前から住んでいる保護者と……価値観が違うので……PTA活動の在り方について……」
不思議と口からポンポンと言葉が出てきた。司会者は短く話すものだと途中で気づき、長くなりそうだった話を打ち切った。それでも俺が何を言いたかったのかは分かってくれたに違いない。
自己紹介だったので司会者としてまとめはせずに次に進んだ。
「次は…それぞれの学校で自分が実践した道徳の授業のよい事例を紹介してください。かっこいいやつをお願いしますよ…あっ、その授業はここにいる先生たちは誰も見ていませんから堂々と言って大丈夫ですから…ひとり5分くらいでお願いします。まあ…話したいことが山ほどある人は30分くらいやっていてもいいですよ」
俺はひとりひとりの話を真剣に聞いてやろうと思った。説明の区切りにはうんうんと頷いてやり、短い褒め言葉の合いの手を入れたりした。適度に突っ込みを入れボケをかましたりもした。よいと感じた実践には質問を入れその頑張りに報いてやろうとした。