歳差運動2-⑪

深くて暗いルビコン川に賽を投げてみた。

「あのーすみません…何度も」

とわざとしおらしく遠慮がちに言った。

“おいおい、またおまえか”という顔つきで

「種田クン」

と吐き捨てた。

「ええーと…また日課表のことですが…6ページにある日課表の原案で、木曜日のところです。毎週設定されている集会活動…ちょっと負担が大きいので何とかならないかと…」

理由など言わずに単刀直入に出てみた。

「ん?負担が大きい?……計画をつくるのは…えーと、全校集会は教務だし…児童集会は担当者が部員と相談して決めるようだし…種田クンに負担はないでしょ」

と教頭が答えた。            もくろみ通り論点がずれた説明をした。しかも自分が司会だという立場を忘れている。

「すみません、また言葉足らずで…負担と言ってもそういう負担ではなくて…」

もったいぶって

「給食が終わった後に休憩もなしにやる集会活動、胃袋に食べ物が残った状態にやるのはどうかと思います。まあ…我々は見ているだけなんですが…それが終わったらすぐに5時間目の授業になりますよね。子どももそうですが、我々も息抜きする間がなくて大変なんです」

周りの職員の表情を確かめて

「休み時間がないと次の授業の準備もできないし、体も休まらない。絶対おかしいと思います」

後の議論はどうなっても構わないと思った。この後何も言わなかったら無責任のそしりを受けるに違いないがそんなことはどうでもいいと思った。

先ほどの雰囲気と違うさざ波が起こったのは間違いがない。湖面に投げ入れたのはさっきより大きな石だったと確信した。

波がより大きくならないうちにと思ったのか

「それも昨年度末に決定しているはずだが…」

と教頭が語気を強めた。

さざ波を収めるには手っ取り早い返答だろう。

しかし、予期せぬ発言が飛び出してきた。


続く~