歳差運動2-⑬

狼狽する教頭。             民主主義の精神に基づいて正負両論を平等に拾い上げるのが名議長だが、すでに顔色を失っている教頭にはもとよりそんな力などはない。

しばらく逆行意見を待つが、ポロロッカを食い止めるようなハナシは出てこなかった。

そこで切り札として出したのが理性的な教師樫木教務の指名なのだろう。       こっちに向かって襲来してくる大波の防波堤になってくれるし、自分と同じ側の川岸に立つ人間だとの確信を持っているからに他ならない。                 この教頭としては名案だが、“職員並びに子どもたちを教え導くリーダー”の意のある肩書きを持つ身としては恥ずかしいかぎりである。

「私も担任の先生が出張などでいないときに教室にお邪魔しますが、給食の後の片づけは本当にてんてこ舞いします。普段慣れていないこともあるのでしょうが…いつも先生方は大変だと思います…」

さらに、今度は立ち上がって

「でも、この木曜日の集会の件、今年度は変えられません。やはり決定事項ですから…先ほどの件と同じように来年度の課題として年度末に検討したいと思います。様々な意見が出ているので大事な事案になるかと思いますので、その時はよろしくお願いします」

これを聞いて、職員室は観念したような雰囲気になった。

「それから…」

と言うときの樫木教務の話は意義のある内容であることが多い。

「今回の会議は、今年度の教育課程を決めていく話し合いではなく、計画された教育課程をどのように進めていくかの確認の話し合いだと思います。進め方の分からないところや不備のある点について埋めていくのが今日の話し合いの目的です。ですから、そこからそれないように議論していきましょう」

さすがである。             本来なら組織統治する側の管理職が言うべきことを見事に代弁している。   

ところが、厚顔無恥な教頭はそれを聞いて気をよくしたようで、掌を返すように強気に出た。                  咳払いをひとつして

「結局、種田クンは何を言おうとしたのですか!」

きたー!と思った。

反撃開始だ!


続く~