歳差運動2-⑫

「時間に余裕を持つってのは大事ですよね。心の健康にもつながるし…給食の片づけが間に合わなくて急いで体育館に走っていったりするときもあるんですよ!それに…会計処理で銀行にお金を納めに行かなくっちゃならないこともあって…それは昼休みにしか行けませんからね」

最古参が笑顔で言った。

先ほどの発言と完全に矛盾している。   いや、むしろ一致しているのかもしれない。彼女はほとんど定時に退勤している。帰宅した後、孫の面倒を見るのが楽しいと言っているのを聞いたことがある。        退職を間近に控え、面倒なことは避けたいし、休めるときには休んで楽したいという強い思いによる言行一致の発言だと俺は確信した。

続けて我が学年主任が立った。

「わたしは昨年その集会活動について担当の責任者として話し合いを進めてきました。その立場で発言するのも申し訳ありませんが…子どもの様子だけで意見を言うと、確かに集会が終わった後は落ち着きに欠ける子が多くって…ダラダラしていて次の授業でやる気がなかったりしていて…やはり休み時間は必要なのかと思います。特に4年生は手のかかるお子さんが多いので大変です。だから、私は木曜日の5時間目は体育をいれているんですが…」

俺よりひとつ上の学年主任は誠実な人柄で他人の悪口を言っているのを聞いたことがない。                  会議でも提案されたことに否定的な意見を言うのは滅多にないほどだ。

「それでも集会を計画しておかないと、校長先生のお話を子どもたちが聞く機会がないし、表彰を伝達する時間もないし…それに子どもが司会をしたり、意見交換をしたり、学習の成果発表の場もつくってあげたりしないと…そこで子どもたちが力を発揮する訳ですから…すみません、これは私の感想です」

昨年末の話し合いで、集会の後は疲れると珍しく愚痴を言っていたのを思い出した。  自分で話し合って決めたことを覆すわけにもいかず、苦渋の発言だったに違いない。

職員室が少しざわついてきた。近くの先生とひそひそ話をする光景も見られた。    意見を出しやすい雰囲気になったのかもしれない。

続いて巨体の持ち主が発言した。

「私にも意見を言わせてください」

座ったままで

「昼休みというのはどの職業にもありますよね…」

彼の性行と前置きからしてどんな論点か予想がついた。

「えーと…私もこんな体型なので…給食の後は一服しないと次の活動にはなかなか移れないんです…職員も休憩する必要はあると思いますよ」

相変わらず自己中心的な考えだが一理ある。休憩時間になると学校を抜け出しているのを何度か目撃したことがある。多分、どこかに隠れて紫煙をくゆらせているのだろう。彼の主張は単に本当の意味で一服したい欲求から出たのだろうよ。身勝手なやつだ!

すると、教頭の席のすぐ近くに座る長老派が

“あたしらさあー…子どものときなんか、親から、親が死んでも食休み、なんて言い聞かされてきたんだけどねえ…”

なんてつぶやいた。           つぶやきに違いないが、完全に管理職に聞こえる声だ。

これを機にざわつきが大きくなった。


続く~