歳差運動2-⑭

「集会活動の実施については仕方がありません…ただ…給食の後の時間帯についてですが…給食の後、つまり食後というのは休憩時間ではないかと思いますが……教頭先生は休憩時間についてはどのようにお考えですか?」

「ん…休憩時間って…まあカラダを休める時間ですよね。その間、お茶を飲んだり…雑談したり…しかし、実際にはノートをみたり、子どもと遊んだりして大変だと思いますが…」

天見校長の視線がこちらに向いていた。肯定的な表情でないのは明らかだ。      が、構わず

「それじゃあ、休憩時間は仕事をしてもいいし、カラダを休めてもいいような自由な時間ってことですか?」

「そういうことだね」

と教頭はきっぱりと言った。

俺の怒りが頂点に達した。

「教頭先生は、体を休める時間には休息時間と休憩時間とがあるのをご存じですか?…休息時間は短い時間で…トイレに行くとか、何かをして気分転換するとか…実際には、例えば子どもが何かを訴えてきたら話を聞いてあげなくちゃいけないから、それは難しいですけど…休息時間はあくまでも自主的な時間帯です。今、教頭先生がおっしゃった内容ですよ」

隣の学年主任が、“先生!そんなこと言い出して大丈夫?”、という心配の目をしていた。

が、もうあとには戻れない。

「それに対して、休憩時間は我々勤労者に与えられた立派な権利です。決して自主的なものではありませんよ。つまり、勤務から解放される法的根拠に基づいた休める時間です」

自分でも興奮してきたのを感じた。    でも、引き下がるわけにはいかない。

「それなのに、食後の昼休みにわざわざ公的な活動を入れるのは休める権利を放棄していることになります。集会活動がどうしても必要なら正規の授業時間などに繰り入れてやるべきです…まあ…さっきと同じで、昼休みには子どもの世話をしたりしなくちゃならないから休んでられないですけど…」

職員室内が静まりかえった。

「会社員は昼休みにはオフィスを離れてランチなんかに行ってますよね。我々もそうしていいはずですけど…けれども、子どもをおいてそれはできません。その間に子どもたちは喧嘩したり、遊んで怪我したりすることがあるから対応できなくなってしまいますから………休んでいいのに休めない…だから、三者協定とかあるんでしょ…今はそんなものあるなんて若い先生は知らないでしょうけど」

三者協定とは、我々県費負担の公務員の雇用主の県と管理職と教職員組合が結んだ勤務時間に関する協定である。休息、休憩時間が取れないから、子どもが帰った後の放課後にまとめて休んでもいいという苦肉の策、変形労働時間のようなものである。       繁忙期はめいいっぱい働いて暇なときに休め、というおかしな制度だよ。      肉体的精神的疲労はそんな都合よくできたり引っ込んだりしないだろうよ!      最近、お国の方でそんな案が出ているみたいだが…あほかってーの!寝だめ、食いだめなんかできないさ。

教頭は困ったような顔つきになったが、校長は怒りに満ちた表情になってきた。

だから

「校長先生はどのようにお考えですか!」

と本丸攻めをしてしまった。       言い終えた瞬間しまったと思った。    が、後の祭りだった。


続く~