(感想)息もできない 製作・監督・脚本・編集・主演 ヤン・イクチュン


観た時から時間が経ってしまいましたが、
監督のインタビューを読んで、胸がしおしおになりつつ感想を書きます。
時系列にもなっておらず、箇条書きのようなぐちゃぐちゃな感想です。



(物語とは全く関係ない私事なのですが、ヨニが高校の同級生に見た目が本当にそっくりで驚き(とてもかわいかったです)、サンフンは見た目も手が出るところも母親の元彼に似ていたので驚いて心なしか親和性高まりました)


単刀直入ですが、あの川でのヨニとサンフンのシーンを見て何とも言えない、目に見えないものが伝わってきました。ああ、キャッチコピーだ……と。
サンフンの身体と心ではもう抱えきれないものが溢れた瞬間にすごく胸がぎゅっとなりました。
それに背中をさすられたようにしんしんと涙するヨニ、ふたりがなにひとつ言葉を発さずただ涙するのが本当に切なくて、もうこの文章すら蛇足です。あの映像を観た時に感じるものが全てですと言いたい。それがいちばんです。
切なさとか悲しさとか悔しさとかもどかしさとか、もっと言えば切なさと悲しさの間のもの、悲しさと悔しさの間のものと言ったらいいんでしょうか。そういう「他人が本質をジャッジ出来ない」ものが空気も含めてあのシーンにはあったと思います。嬉しいシーンでも明るいシーンでもないんですけど、二人だからこそ生成される安心感や悲壮感みたいな色を感じました。とにかく良いシーンでした。

この二人って総体的に見て、もはや概念でした。
監督も仰っていた、これは愛です!!ではなく「愛かもしれない」というような愛の色をした優しさみたいな、まさに手を繋ぐ動作そのもののような、この絶妙なふたりの間がなんとも言えなかったです。言葉にしようと思えば「歩み寄る」だの「理解しようとする」だの近しい表現はあると思うんですけど、もっと目が細かくて、慎重で、時には引っ込んだりするような…「愛かも知れなかった」がやっぱりしっくりきます。サンフンのはっきりとした笑顔も泣く様子もヨニと居る時だけでしたね。


ヨニのお父さんの「猫いらずを入れたな!」と激高するシーン、俳優さんの表情凄すぎて演技にときめきました。凄い怖かったです。


市場でサンフンとヨニとヒョンインと3人で色んなものを見たり食べたりするシーンはすごく暖かくて好きでした。落ち合う時にヨニをからかう男二人も微笑ましく。三人で歩いて、同じ空気を感じて、一緒に座ったりすることに大きな意味があって、特別なことではないかも知れないけどやさしさがあって、小さな絆が生まれたかも知れない大切な時間のように見えました。三人の中にそれぞれ、確かに刻まれるであろう尊い時間のように感じました。


サンフンがお父さんを許せない気持ち、理解したくない気持ち、なんだよこいつは!!という気持ち、でも父親なんだという気持ち、それを他人から「でもたった一人の父親なんだよ」と言われてそんなこと分かってるわ!という気持ち、がもう観ていてア〜〜〜〜でした。言葉にならないです。

台詞や演出には無かったのですが、サンフンも大人ですから、色々理屈では考えられたでしょう。彼を許せば前に進めるんだろうと頭のどこかにはあったかも知れないけど、それを見たくない見るわけにはいかない、そうしたら、死んだ妹は?母は?なんだったんだよと。私だったらそう思います。寧ろなんだったんだ、としか思えないでしょう。
サンフンの父の深いところは描写がなかったので視聴者的にはそこまで理解及びませんでしたが、監督のインタビューから考察して、当時の国や環境からなるものに苦しめられていたのかなと思います。アルコールの力もあったのかもしれません。
きっとサンフンもなんとなく「父親にも何かあるのかもしれない」とまでは思えても、それだけでやっぱり「なんだあんなことしたんだ?」という疑問と気持ち悪さは帳消しにはならないんだろうなと思いました。
この「人間らしさ」が本当に苦しくてでも私は大好きでした。

お父さんを「殺してやる!」と意気込みながら家に上がり込んだとき、リストカットして倒れているお父さんがいましたね。
私はその時、サンフンが「俺が殺したかったのに勝手に死ぬなよ!」と憤怒するか驚愕するかでシーンが変わると予想していました。とにかく「あ、お父さん死んだな」と思いました。
そうしたら、まさかおぶって病院に駆け込むとは一ミリも思ってなかったので本当に驚きました。「えっ!?!?せっかく死んだのに…!?!?」とさえ思ってしまったくらいです。
私はお父さんの死をもう決めてたのに、サンフンは決めてませんでした。
その時に、「あんたがいなくなったら、俺は…」と走りながら呟いていた気がしますが「俺は一人になっちまう」なのか「俺は誰を憎めばいいんだ」なのかを考えました。
でも今思えば、「誰を憎めばいいんだ」の中に「一人になっちまう」も入っていますね。
必死な表情からふらふらと呟かれる「あんたがいなくなったら、俺は……」この部分めちゃくちゃ深いんだなとしみじみしました。無意識かも知れませんが、自分の手が傷つくくらい殴れるようなお父さんとそのくらい殴りつける自分の、形は歪んでるけど確かにある繋がりを意識してるんだなと、それでもやっぱり親と子供だからっていうのを捨てきれない「断とうとしても断てないものがある」ということが、表れているし、サンフンは感じていたのではと思います。


一命を取り留めたお父さんの財布に挟まってた、年季の入った写真。
力の抜けてる表情のお父さんが引き出した、自分の手で髪を鷲掴んで乱暴した奥さんの写真と誤って刺してしまった娘の写真でぐっときて、最後に幼いサンフンの写真が出てきた時は泣きました。サンフンは知らなかったのかな、多分知らなかったんだろうなあと思って、思い出したら書いてる今涙出てきました。家族がうまくいけば良かったのに。


ヨニは「苦労する長女」すぎました。弟のヨンジェもそんなに年は離れてなさそうでしたが、なんかまだ子供っぽいという印象がありました。「脅せば金が出てくる」と思ってる時点で大人ではないですが。ヨニを見ていると「女性の強さ」を凄く感じて、なんかもう、平気ではないんだけど頑張っているというのがひしひし伝わってきました。
彼女は最初から最後まで頑張っていましたね…泣いたとしても強がりだったとしても決して諦めずに頑張っていました。凄かったです。人間として見習う部分がありました。



サンフンはラスト、ヨンジェに殴られて当然だったと言えると思います。理性がしっかりしている人であれば普通は殴りませんが。自分と社会との結びつきを考えつつ、ぐっと堪えるでしょう。
でも「殴る理由」は確かにあったので、ヨンジェが100%頭のおかしい奴だったとも言えません。
サンフンも「殴っていいのは殴られる覚悟がある奴だけだ」「殴る奴はいつか殴られるんだ」というような事を言ってたと思います。ちょっとビビってたら殴られ蹴られ、ちゃんやれや!みたいな態度で、いざ殴ったらやめろと言われて。ヨンジェも「なんなんだよ偉そうにこいつ」とそりゃあ思うでしょう。

この1秒ごとに絶えず形や色、毛質を変える「正しさ」から決まる「判断」が人間の不安定さを表していたと今は思えます。
でもサンフンの涙、他人との繋がりを観ている私はあのシーンでは、「やめて…やめて…お願いだからやめて…」としか思えず目の前の道が崩れ落ちていく様を見せつけられている気持ちなりました。
「学芸会に行かなきゃいけない…ヒョンインも姉さんもヨニもマンシクも俺を待ってるんだ…」と口に出すのを観てるのが辛かったです。ヨンジェが我に帰って、急いで病院に連れて行ってくれないかなと、ワンチャンそうならないかと願いました。

実は生きてるとか…と切に思ってましたが病室のシーンで諦めました。
マンシクさんが凄く泣き叫んでるのが何故かぐっと来てしまいました。サンフンとマンシクさんの間の過去エピソードやシーンはまったく無かったのに、なんかその「信じられない」「悔しい」という受け入れ難い感情が伝わってくるような泣き叫んでる姿ひとつにぶわあっときた。なんだろう、男性が泣き叫んでる姿は女性よりも切実さやギリギリさが強くて胸に来ます。
それからお父さんが、1人病室の外で静かに泣いてるのがやばかった。なんてやるせないんだろうと思ってお父さんの後悔とか絶望を想像したらもう。
どうしようもなさに胸を掻きむしる思いでした。

ラストシーン、ヨニが見たヨンジェに重なるサンフンの姿。ああ……


エンドロールに入ったらもう物語は終わりじゃないですか。(たまにCパートがある作品もありますが)ああ、終わっちゃったんだなと少し放心してやがて画面が真っ暗になって、amazon primeの画面が出てくると急に現実に引き戻されました。
そこで、映画の風景とは似ても似つかん窓の外を見ながらもうサンフンとヨニは二度と会えないしヒョンインも遊べないんだ、サンフンはもういないんだ、と頭で考えたら今まででいちばん泣けてきて号泣しました。納得はしてるけど悔しくて、何故か映画観てる時より号泣しました。


正直、暴力的なシーンは画面を手で隠しながら観ていました。他の作品でもいつもそうです。
でも観終わったあとには、あの血とか叫び、威圧感からしか放たれない「生(なま)の感情」とか「空気が震える感じ」は絶対シーンとして必要だったように感じました。
個人的にですが、もしシルエットだけでとか、殴るとこだけ画面が暗転とか、なんとなく事後のみ映すとかそういう演出だったとしたら、私自身観た後に同じ気持ちになってなかったかも知れません。

これは起承転結に表せば非常に理解しやすい物語だと思いますが、あいだあいだに散りばめられたビーズのようなものを見つけられるかどうかで、評価は分かれるんだろうなと思いました。なぜかと言うと、観終わったあとに⭐︎1のレビューをいくつか読みました。
そこでは「暴力しかない、なぜ賞をとったのか分からない」というような意見をいくつか読んだので個人的には「は?」でしたが、色んな人が居るという事であり、また意見や感想は所詮多数派か少数派かになるだけでどちらかが本当に正しい良い・間違ってる悪い、こっちが真実であるということではないので飲みこみました。
ただ、「暴力が見てられないので途中で観るのをやめました」は分かるんですが、全て観た後に「これは暴力だけの作品。何が良いのか分からない」という感想もあるのかと思うと「マジで……?」という気持ちにならざるを得ませんでした。


ヤン・イクチュンさんが、1人で色んなことを担当されていたようで、それを考えると凄かったです。
暴力はその場しのぎである、という教訓でした。
幸せな気持ちになるような作品とはまた違いましたし、べしゃべしゃに泣きましたが本当に観て良かった…………と思いました。

勧めてくださった友人にただ感謝したいです。
ありがとうございました😭

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

(一気に書いたので、追記があればまた足します)

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