あんまり騒がれていない日産のVCターボ(新型エクストレイル)開発者がもっと評価されていいスゴい技術なワケ

今度の新型エクストレイル、流行りのSUV +e-powerの売れ筋路線。なのはいいとして、地味ながらもVCターボ車にはオットー・サイクルのガソリン・エンジンの歴史をひっくり返す位の大発明が仕込まれているのをご存知でしょうか?

ジキルとハイド

表と裏の二面性を使い分けるのは美魔女の得意技?ガソリンエンジンでそれを可能にしたのがなんと圧縮比を運転中に可変操作(自動で)出来るという、夢のような機構を持つびっくりエンジン=VC(ヴァリアブル・コンプレッション・レシオ)可変圧縮比エンジンにターボを載っけた、超効率化を目指したメカニズム。

平たくいうとピストンとクランク・シャフトは一本のコンロッドではなくて外側からコントロールできる大きなひし形のリンクを介してクランク・シャフトに回転を伝える仕組み。

こうすると、ピストンの上下する軌跡がクランク軸回転中心に近づいたり遠ざかったりできるようになり、シリンダー・ヘッドとピストン上死点との隙間の容積が増えたり減ったりする仕掛け。つまり、排気量はほとんど変わらずに、圧縮された時の空気のパンパン具合が1:8から1:14にまで可変するという不思議な機構です。

圧縮比が8というと、ガソリンの品質が低い地域向けに敢えて仕様変更された旧式の大衆車だったり、常時ターボ過給を前提とした高出力エンジンが設定する数字。
他方で14という圧縮比はガソリンエンジンでは限界値に近い数字で高効率、低燃費に寄与するもの。近年はマツダが量産エンジンとして商品化に成功しましたが、世界でも例を見ない高い数字ですが、ここにターボブーストをかけたらエンジンは大破します。

昔の市販車レースではちょっとでも馬力を稼ごうと、ガスケットで挟まれるシリンダーヘッドとブロックの接合面をヤスリで磨き込んで、圧縮比を僅かでも高くしようと、メカニックが腐心したものでした。広報チューンと言ってメディアに貸し出す広報車にもこうした微チューニング車が貸し出されていたという噂があります。

逆にターボであらかじめ圧縮した空気を詰め込む場合にはむしろ圧縮比を低めに抑えておかねばならず、そうなると低回転域のブースト不感帯ではただの圧縮比の低いエンジンのままになりかねません。・・・・そこで圧縮比可変機構です!

この複雑な機構を文章で表現するのはとっても難しいことを承知で、ちょっと説明しますと・・・
クランクシャフトとピストンが繋がる部分、ここにはコネクティングロッドが嵌って、ピストンとクランク軸を一定距離で繋いでいたワケですが、代わりにここに左右二つのリンクを持った菱形のリンクを嵌めます。その一方にはちゃんとコンロッドを介してピストンがつながって上下運動しています。
画像を検索してVCターボの断面図をごらんになって見てください。クランク軸の回転する部分(コンロッドが繋がっていた部分)とピストンとの位置関係はくの字の折れ曲がり具合で変化することがお分かりいただけるでしょうか?
つまりこれまでコンロッドで一定に保たれていた長さが、リンクを介することで長さを変える事が出来るようになるワケです。この変化がつまり、シリンダーの中でピストンが上下する軌跡を変化させるワケなのです。上端が上昇すれば高圧縮比エンジンに、逆に下がれば低圧縮比エンジンというのはお分かりいただけますね?

さて、では回転するクランク軸につながるリンクの動きをどうやってコントロールするのか?アイドリングでも毎秒10回転はする物体です。が、菱形リンクの動きを見てみると・・・・実は360度ぐるぐる自転運動しているのではなく、中心のクランク軸が嵌っているところがクルクル円い軌跡を描くだけでその片側を上下させるのがピストン側、という動きになります。では菱形のもう片方、こちらは可変機構のコントロールアームにつながっており、これが伸びたり縮むことでリンクとピストンの位置関係(=ピストンの軌跡)を決定します。

コントロールするアームはシリンダーごとにバラバラに動きますが、根元で一本のコントロール・シャフトにつながっています。このシャフトの角度を変化してやることでコントロールアームがリンクの向きを変え、するとピストンとシリンダーの位置関係が可変する、という仕掛けです。
後はこの一本のシャフトの角度を制御すれば圧縮比を運転中に変化できるのはお分かりですね。電子制御されるアクチュエーターを使ってシャフトを動かせば圧縮比が変えられる!!。

・・・・・言葉で語るのは簡単だとしても工場で組み立てを強いられる人たちは大変です。部品点数も増えるほか、組み立てにはこれまでにない技術を要し、商品として充分な耐久性も確保せねばなりません。だから開発にはエクストレイル誕生以前からの長~い時間がかかっていたのです。

様々な困難を乗り越えて、この技術開発がようやく陽の目を見たとき、ガソリン・エンジンは、もう目の敵にされるような立場に置かれていました。さすがにこれは想定外だったでしょう。

今度の新型エクストレイルに搭載されても、あまり多くを語られることなくVCのふた文字で済まされてしまったのは可哀想すぎます。

可変機構といっても運転席から任意の圧縮比を選べるわけではありません。低回転から力のあるターボだな、で燃費も悪くないし‥‥と評価されるのが精一杯。ですが新車のSUVに乗り換えてもいいかなとお考えの諸氏には、ぜひこの新しい歴史の1ページをご自分の所有物として性能を堪能し、末代にまで誇ってもらいたい、と思うのですが・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?