【J1第6,7節】vs清水,福岡戦 2022鹿島アントラーズ 10,11歩目

2試合分合併号です。

相手は清水,福岡。
この2チームの共通点は4-2-2-2の布陣で戦う点。

鹿島はこのvs4-2-2-2の連戦に対し、2試合をどう戦ったのか。



まず清水戦の基本陣形。
優磨とアラーノの2FWが並び、仲間と和泉の2SH。そして樋口と復帰のジエゴで2CH、最終ラインにはいつもの安西健斗関川常本で4DFを形成。

こうして鹿島は相手清水の陣形と噛み合わせるように、4-2-2-2という陣形をチョイスしてきた。

おそらく狙いは守備の部分。以前のようにアラーノの位置を下げてしまうと守備時に噛み合う構図からズレてしまうため、あまり下げずにあくまで最前線のFWとして振る舞わせ、守備時の対象をハッキリさせることを優先させた。

そしてこれは清水も同じく。清水の試合は全く追えてないが、鈴木唯人の本来のプレースタイル的に似たような状況だったと考えられる。

両チームともに相手にボールをじっくり握られペースを握られながら押し込まれる展開を嫌い、噛み合わせた状態から圧力の伴ったプレスを前から仕掛けやすくし、相手の攻撃阻害とショートカウンターを狙う戦略となった。


そしてそうなれば、高い位置からのプレスに対し繋ぐのが難しくなり、互いにロングボールの蹴り込みが多くなる展開となる。



ここで両チームに差が生まれる。

鹿島が以下の図のように優磨+両SHをターゲットとして長いボールを蹴ったのに対し、清水は片山(右SH)vs安西(左SB)というサイズと空中戦の上手さに差のある対面を目がけて、局所的にロングボールの蹴り先を限定してきた。

これにより、ロングボールを蹴る経緯までは一緒なものの、
蹴り先が明確に指定されていることでそこに回収役の選手がスムーズに寄って行ける清水と、

蹴り先の横幅が広く、かつ奥深くなため回収役の選手(今回のケースでは2CH+2SB)が寄って行くまでに時間がかかる鹿島とで、エリア獲得の精度で差が出る。


加えて、配置的にも鹿島の最前線のターゲットは清水の4DF+2CHにとって守りやすい場所に位置取る形となっていた。


こうしてロングボールの蹴り合いでは上手くペースを握れず。

ボール保持局面では互いに4-2-2-2で噛み合ってるため、両チームともに中を割れずに前進が大外からのみに限定される展開となった。



そんななか先制したのは清水。
中盤で清水の繋ぎに乱れが生じた所を見計らい、そこを樋口がカットしにいったものの運悪く完全に入れ替わり、ルーズボールから清水が中を割る事に成功。

これまでのような(中を割れないことで)大外から進みそのまま大外から上がるクロスは守備側としては守りやすいものの、
中央から始まりそこから外に一旦振ってから中へ上がるクロスは、中→外→中と守備陣の視線が横に大きく振られる事になるので、マークが外れやすくなるし適切な守備隊形が崩れやすくなる。

中盤で綺麗に入れ替わった事がキッカケで、竹内(中)→山原(外)→コロリ(中)とボールが横に大きく動いてフィニッシュ。清水先制。




リードを奪われた鹿島は、交代策によって先日のルヴァンカップGLガンバ戦で手応えを得た相手のSB裏を突くWGムーブができるカイキと松村をSHに投入し、加えて代表帰りの上田をピッチに送り込む。

そしてそのWGムーブからゴールが生まれる。

後半32分。
右SB常本から左SHとして左サイド外側の奥深くでWGのように待つカイキへ対角のロングフィード。
そこで創出した幅を活かしカイキが上田へとヘディングを落としエリアを大幅に獲得。
そこからボールを受けた樋口が今度は右SHとして右サイド外側の奥深くでWGのように待つ松村へ横に大きく振るパスが出て、松村による高い精度のクロスを中で優磨が合わせ同点ゴール。

ボールの流れとしては、
常本(右)→カイキ(左)→上田,樋口(中)→松村(右)→優磨(中)
だった。

松村のクロスの精度と優磨の決定力はもちろん素晴らしいが、SHにWGムーブが得意な2人を選手交代によって配置し、その個性を活かしつつチーム全体としてボールを上手く横に振りながら相手に守りづらい攻撃を生み出した采配も見事だった。



そして後半44分に、CB関川からの地を這うような鋭いダイレクトの縦パスを、これまた交代で入った荒木が中央で受けスペシャルなターンで前に置き、素早く右で待つ優磨へ展開。
優磨の上げたクロスに今度は上田が高い打点で合わせ逆転。

今度は関川→荒木(中)→優磨(右)→上田(中)と、やはりボールが横に動かせた時に点に繋がっている。

優磨と上田の高さによる脈略のないクロス爆撃で理不尽に逆転!みたいな評価が多い印象だけど、あくまで交代で投入されたカイキ,松村,荒木のそれぞれの特性が活かされた事によって生まれた、横幅の振りが効いた良い攻撃からのゴールなのは抑えておきたいポイント。

とはいえ、やっぱり決め切る優磨と上田はスーパー。凄すぎる。この2人が共存してる絵はしっかり目に焼き付けておかないとなという感じ。

結果逆転して2-1勝利。






さて急ぎ足だけど福岡戦へ。

見事な交代策と質的優位によってギリギリで逆転できた清水戦だけど、内容としては上手くは行ってなかった。
事実4-2-2-2で噛み合ってからはお互い打開策がなく、ロングボール構造でわずかに上回ってた清水に徐々に押され先制されてしまった。


それを踏まえての福岡戦。相手の陣形は清水戦に続き4-2-2-2。

鹿島は人選を調整し、清水戦で上手く行かなかったロングボール構造を修正。

鹿島は2FWを優磨アラーノから優磨上田へとし、ターゲットを3ターゲットから2ターゲットに変更。
その代わりSHを仲間和泉からカイキアラーノへと変更し、縦のスプリントに迫力を出せる2人にしたことで、より落としに素早くアクションできるように。
加えてCHのコンビは出場停止のジエゴに変わり和泉が担当することで、横並びから従来の縦並びCHとへと戻された。

これにより、清水戦4-2-4のような形となっていたロングボール構造が、以下の図のような4-1-3-2に。




この修正によって、2人のターゲットがロングボールをSB裏で受け、もしくは2列目がSB裏に抜け出すように。
さらにその後ろからこれまた高い強度での上下動スプリントが可能なSBの安西・常本が後ろから追い越せる構図となった。


そしてこの修正は、福岡のストロングポイントが「セット守備の固さ」である点においても効果的だった。

奪った瞬間に迷わず最前線の2FWに当て、そこからの追い越しが整理されたことで鹿島の攻撃が全体的にかなり縦に早くなり、福岡自慢のセット守備が整う前にシュートまで持っていける形を作れていた。


縦に早く攻める分、失ったあとは福岡にも縦に早く攻められるハイテンポな
ゲーム展開となるわけだが、そこは健斗関川のCBコンビの守備範囲の広さ、そして両SB安西・常本とCH樋口の高い走力が生み出す速い帰陣からのカバー力によって凌ぐ。


福岡は自慢のセット守備に続き、セットしてゆっくり攻める攻撃もやりたがっていたが、鹿島があまりにハイテンポでハイインテンシティなサッカーを仕掛けてくるので、それに合わせ慌ただしい展開が続く。


こうなれば「そういう展開」に適した人選を元々準備してる鹿島の方に当然分がある。

優磨上田の良い動き出しに健斗関川から良いボールが出て収まり、
それをカイキ和泉アラーノの鬼スプリント部隊(第一陣)が追い越し、
その後ろから安西樋口常本の鬼スプリント部隊(第二陣)が加勢する。

そうして厚みのある押し込みが完成。


福岡は徐々にハイテンポ・ハイインテンシティな展開に着いていけなくなっていき、カード覚悟で無理にでも止める場面が増えてさらに強度が落ち…
となるはずだったのだが、この日はレフェリーのジャッジと鹿島のやろうとしたサッカーの相性が最悪だった。

せっかく福岡に強度で後手を踏ませているのに、それによって起こるアフターチャージを主審が全くカードで対応しない。
結果的に福岡はテンポで出遅れても、ノーカードのアフターで止めたもん勝ち。
せっかくの優位が上手く機能しきらなかった。

それも相まってペース自体は鹿島が握っていたものの、前半は0-0で折り返す。



ハーフタイムに福岡は強度で後手を踏んでいたFWとSHの人員を変えるも、構造自体は変わらず。

後半開始直後からも鹿島ペースが続く。


そうして流れを掴み、試行回数を重ねていくなかで、後半25分に樋口→和泉の2CHによってバイタルの上田へパスが渡る。
そこから上田がドン! これで先制。

いくら後半開始から25分押し込み続けていた経緯があるとはいえ、さすがにこのシュートは理不尽。さすがに。だってドン!だもん。



Jリーグの長い歴史で見ても最高級なWエースを、リアルタイムで、しかも贔屓チームで見られる喜びをみんな存分に噛みしめような。とても幸せだ。



そしてラストは高さ対策も兼ねてキムミンテをCHで起用し、スンテのファインセーブもあってクリーンシートで試合を締めることに成功し1-0勝利。

キムミンテの起用自体は高さ対策やこの日のベンチ人員を見ても驚きはなかったが、てっきり健斗をCHに上げてキムミンテがCBに入るとばかり思っていたので驚いた。調べると元々ボランチの選手ではあるみたい。

なんにせよ試合を通してスンテの存在感を感じざるを得なかった。
まだまだお世話になります。





ここも2つ勝ち、5連勝。

福岡戦ではこれまであまり見られなかった「試合のペースコントロール」という領域でゲームを支配して勝利。
内容を見てもチームとしての前進を感じられて良かったし、清水戦に関しては逆に内容が良くなくても勝ちきれる勝負強さを実感した。


強くなっている。追い風も吹いている。


…と良い流れで、良い流れだからこそ、ジエゴの清水戦交代後の行為は強く糾弾しておきたい。
元々些細なキッカケから不要なカードを貰ったり、その後の数分のプレーに大きな精神的乱れを見せる傾向はあった。

だが今回のことはその規模の話ではない。

あのまま清水戦を落としていれば、
岩政コーチが監督代行という難易度の高いミッションを成し遂げ、
バトンを受け継いだヴァイラーがそれを失速させないどころか加速させた事で生まれていた、今季開幕からの大きな大きな上昇気流が止んでしまう所だった。


タイトル獲得に向けて絶対に逃してはいけないこの上昇気流を止める可能性の高い軽率な行動、とても副キャプテンの振る舞いとして認められるものではない。

昨季21番ユニを購入した立場から、本人の「失った信頼を獲り戻す」というコメントを信じて待っている。


と同時に、この事態を1ゴール1アシストで救った40番鈴木優磨の貢献度は計り知れない。優磨がこの上昇気流を繋いだと言っても過言ではない。


この流れを絶やさず、次も勝つ。

以上