コトレット

 改札を出て、少し待った。コンコースの人の流れを見ていると、若い家族や学生が多い気がする。山を切り開いてできたニュータウンだからだろうか。
 駅前のイオンで昼食と夕食を買って、バイクの後ろに跨った。風が顔に掛かる。緑は多いが、花の匂いはまだない。並木をまっすぐに、交差点にでると、アイドリングと排気の振動に混じって、ステーキの匂いがする。辻をまっすぐに行って、開渠沿いに、精肉店の前で一度降りた。コトレットを入れた袋を手に、再び後部座席でヘルメットを被ると、バイクは住宅地の坂を上って、塀の突き当たりの前で停めた。オレンジのポールミラーと、フェンスのゴミ箱がある。ゴルフコースが隣接しているので、塀の向こうから、時折ティーや賑やかな声が聞こえる。

 家に入った。裏口の扉を開けると、いくつかの梅は見頃を終え、すでに枝が切り落としてあった。それをノコギリで切り分けて、捨てやすいように隅に束ねた。数十分くらいだろうか、庭師としての仕事はそれで終わった。トタンの上に載せてあった枯れ枝は焚火台の上でよく燃えた。半年前の枯れ枝だ。その火で炭を作って肉を焼いた。

 その煙で隣の窓が空いた。二階から文句を言われた。やや笑顔で、言葉丁寧な感じの、若い女だった。年が近いかもしれない。そそくさと二人で肉を食うと、リビングに戻った。プロジェクターを壁に映して、Netflixをみた。
  
 手持ち無沙汰で携帯を弄っていると、野焼きの話になった。去年は一人で見に行ったらしい。今年は早いらしく、その辺りの山はもう黒く焼けてしまったらしい。

 イオンで買った豚肉と缶ビールで煮込みを作って、口慰めにハーゲンダッツを食べた。22時を過ぎると、家主が風呂を沸かし始めたので、もうお役御免らしい。保冷剤をいくつか入れたコトレットの袋を下げて、炭臭いまま家を出た。唯一灯りのあるポールミラーとゴミ箱から、まったく外灯のない壁沿いに、木と茂みで山のような細くて暗い砂利道を、春でぼやけた夜目を頼りに一人帰った。

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