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言ってはいけない

「あれを打つのは怖い。100%安全とは言い切れない。どうしても明日打つ必要がある?」

おれが予約を入れたことを告げたとき、妻はこう捲し立てた。どう答えたものか黙っているとスマホを取り出してこんなブログを見せられた。

可哀そうに、子どもの腫れた手足らしき写真だ。このブログの他の記事ではフルボ酸とかいう高そうなサプリを販売しているのが気になったが、おれは元ネタを調べてみたくなり、自分のスマホで参照ツイートにあたってみた。

12歳の男の子らしい。他のツイートでプーチンやトランプといった剣呑な人名が出てくるのも気にはなったが、それより元の写真がどこから来たのか、スクロールしていると関係ありそうなツイートを見つけた。

英語か…。外国の子どもだったらしい。このアカウントはひたすらそういった症例を取り上げているようで、おれは何だか気が重くなってきた。

件の写真はインスタグラムから拾ってきたようだ。オーストラリアの子どもだったらしい。文章にやたらと🤐が多いと思ったら、言ってはいけない単語になっている。ピーか。

そういう症例のエピソードを本人らしき人物のテキストを交えて公開しており、写真はその母親(34)からの投稿ということになっていた。オーストラリアだけでなく様々な国のアカウントがある。日本版がないのが難に思えたが、案外無い方がいいのかもしれない。

ここまで辿り着いてみたものの、これ以上のことは何もなさそうに思えた。結局おれは何を知りたかったのかがわからなくなっていた。

翌日、おれは会場まで同僚の車で送ってもらっていた。

おれの働く工場では、稼働を止めないために打つことを勧奨されていて、都合のつく者から順次予約し、皆で連れ立って打ちに行くことになっている。

普段行かないような埠頭の会場に着くと、駐車場の誘導、会場の案内、看護師、送迎バスの運転手といった様々な人々が目的を同じにして働いていた。ここに打ちに来ている人々だって目的は同じだろう。

おれは同僚に、帰りは送迎バスに乗るから時刻表を見てくると言って、会場と逆方向にあるバス乗り場に歩いて行った。


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