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Bumble Bee Twistとリムスキー=コルサコフのThe Flight of the Bumble Bee棚卸 その2 クラシック篇

ヴェンチャーズを先にと思ったのだが、正体不明トラックの調査はいよいよ泥沼、一向に曙光見えず。よって、先に、調査など不要、こちらがたいしたナレッジ・ベースを持ち合わせないため、突っ込むに突っ込めず、ただそこにある音を聴くだけですむ、クラシック関係を片づける。いや、その前に前回の「ポップ篇」の補足を。

◎(たぶん)最初のヒット・ヴァージョン、フレディー・マーティン&ヒズ・オーケストラ盤Bumble Boogie

前回の記事を読んだ友人から、タイトルが違うせいで、このヴァージョンを見落としているよ、と指摘があり、そうだそうだ、云われて思いだすのは子供の使い、すっかり忘れていた、というので、Everythingでそのタイトル、Bumble Boogieを検索したら、さらにまた異なるヴァージョンが転がり出てしまった。

友人が指摘したヴァージョンは、いろいろ書くべきことがあるので、次回のヴェンチャーズ篇でふれることにして、ここでは古いものを。これはAIにSPリップのFLACがアップされている。
https://archive.org/details/78_bumble-boogie_freddy-martin-and-his-orchestra-jack-fina_gbia0329073b

このフレディー・マーティン盤は1946年リリース、ピアノ・ソロにオーケストラのバッキングというアレンジで、ソリストはJack Fina(フィーナ? ファイナ?)とクレジットされている。ピアノも素晴らしいプレイだし、オーケストラのアレンジも面白く、アンサンブルもお見事。ヒットもうなずける出来である。


Freddy Martin and His Orchestra - Bumble Boogieのピアノ譜表紙


Bumble BoogieというタイトルによるThe Flight of the Bumble Beeはうちには3種あるのだが、このフレディー・マーティンがその最古のもので、あとのものはカヴァーということになる。

◎デイヴィッド・ジンマン指揮、ロッテルダム・フィルハーモニック・オーケストラ

すごくふつうのプレイ、ふつうの録音、クセはゼロ。「クラシックのオーケストラ」と云った時に誰もが思い浮かべるような解釈、サウンド、録音、マスタリングである。聴きくらべの土台、出発点にはちょうどいいニュートラルなトラックと云える。


デイヴィッド・ジンマン指揮、ロッテルダム・フィルハーモニック・オーケストラのRimsky-Korsakov: Great Orchestral Works


◎セルゲイ・ラフマニノフ

自作、他作を問わず、ラフマニノフ自身がピアノをプレイ、または、オーケストラをコンダクトした録音を集成した盤に収録されたトラックで、ピアノ・ソロ・アレンジなので、むろん、コンダクトではなく、プレイ。

管楽器や擦弦楽器、撥弦楽器などにくらべると、ピアノというのは個性のあらわれにくい楽器だし、The Flight of the Bumble Beeという曲自体、技術検査用楽曲、試験問題、演奏速度テスト、と云いたくなるような速い曲で、ニュアンスもヘチマもあったものではないため、聴き終わると、はあ、そうですか、となってチョン。



録音年ははっきりしないが、ラフマニノフは1943年に没しているので、それ以前の録音、いかにも昔のリゾリューションの低い音なのも損している。

◎ウラディミール・ホロヴィッツ

ホロヴィッツというのは、クセの塊みたいなプレイヤーで、4ビートで云うと、セロニアス・モンクやマル・ウォルドロンに相当する、「俺は俺のやり方でやる」タイプの頑固オヤジ――と思うのだが、このThe Flight of the Bumble Beeについては、やはり、「弾きました」、「そうですか、拝聴しました」という感じで、ホロヴィッツらしいナックルボールのような味わいはない。録音は1932年で、ラフマニノフ盤同様、輪郭のぼやけた音なのも残念。



◎パブロ・カザルス

ラフマニノフがやっても、ホロヴィッツがやっても、味、ニュアンスを感じず、こりゃダメかという気分になったのだが、そこにカザルスが出てきて、おお、となった。カザルスらしさが濃厚に感じられる、ニュアンスフルな音なのだ。

むやみに速くて、「間」なんかつくりようがない、ただ弾くだけの曲に、これだけのニュアンスを持たせられる、というのは、カザルスの技術の問題か、魂の問題か、とちょっと考え込んだ。カザルスの全作品からいえば、代表作でもなんでもないだろうが、どうであれ、この曲にもカザルスのすごみはあらわれている。



ビックリするほどいい音なのだが、録音は1929年、バルセロナで、というので、重ねてビックリした。昭和4年の日本の音楽って、それこそ藤原義江の「出船の唄」あたりじゃないのか? いや、ホラ吹いているヒマに調べた。佐藤千夜子「東京行進曲」や平井英子ちゃん(むろん、わたしより年上だが、あの天才少女は頭の中では永遠に少女!)の「茶目子の一日」がヒットした年だそうだ。



いや、問題はカザルスだ。1929年にこんな録音をしていたとは、驚異というしかない。まあ、ディジタル・リマスタリング技術もおおいに与ってのことだろうが、それにしても、オリジナル・レコーディングが駄目なら、リマスタリングも効果を発揮しないだろう。


Pablo Casals - The Complete Published EMI Recordings 1926-55付属ブックレットの録音データ。ディスク9の他のトラック同様、1929年Barceronaで録音と書かれている。


◎ジャシャ・ヘイフェツ

以前から気になっていたので、今回、改めてJascha Heifetzの発音を調べた。ロシア生まれのユダヤ人で、アメリカで活動したため、カタカナへの音訳は面倒なのだ。


Jascha Heifetz - The Complete Album Collection
103枚組だが、LPそのままなので、見た目ほど巨大ではなく、実質50枚組、日に5枚聴けば、10日で終わると計算し、最後まで聴き通した。Yehudi Menuhin & Stéphane Grappelli - Friends in Music同様、あまり馴染みがなかったヴァイオリンという楽器に親しむ一助になった。


プロナウンスウィキにアップされている発音を、ロシア語およびアメリカ英語のみ十数種聞いた。
https://www.pronouncekiwi.com/Jascha Heifetz

ロシア語の発音をカタカナにすると、「イエシャ・ハイフェツ」ぐらいだと思うが、じっさいにヴァイオリン・プレイヤーとして活動した場所はアメリカ、米国式発音の多数派をカタカタに音訳すると「ジャシャ・ヘイフェツ」ぐらいが適切だろう。むろん、ご本人は違う発音をしていたかもしれないが。



ヘイフェツのThe Flight of the Bumble Bee、わが家にある録音年不明ヴァージョンは何か云うほどの出来には思えないが、チューブにあった、これまた録音年不明のヴァージョンは、ニュアンスフルかつハイテクニックで、素晴らしい。
録音データ
https://www.discogs.com/release/3537243-Jascha-Heifetz-Zapateado--Sea-Murmurs-The-Bumblebee
じっさいの音
https://youtu.be/-spEeZLHThM?si=em8lBBeYrRDfYZKJ

うちにあるものは1930年前後の録音、チューブのものは1950年前後ではないだろうか。20年のあいだに、プレイが成熟したのではないかと思う。

◎レオポルド・ストコフスキー

昔、ディアナ・ダービン主演の映画「オーケストラの少女」を見て、ウワッ、なんだこの人は、とビックリしたストコフスキーだが、数年前、この映画を再見して、変わった人だなあ、と改めて関心が湧き、ちょっとアルバムを集めてみたら、案にたがわず、独特の指揮スタイルが音にも反映され、個性的な面白いサウンドをつくっていた。


Leopold Stokowski - The Columbia Stereo Recordings


Leopold Stokowski - The Columbia Stereo Recordingsという10枚組に収録されたストコフスキー指揮のThe Flight of the Bumble Beeは1976年の録音で、アレンジ(トランスクリプション)はストコフスキー自身、演奏はナショナル・フィルハーモニック・オーケストラ(ロンドン)とクレジットされている。

録音、マスタリングのおかげでもあるが、このストコフスキーのヴァージョンは、オーケストラによるThe Flight of the Bumble Beeの中では、前回の「ポップ篇」で言及したスキップ・マーティン盤と並んで、すばらしく魅力的なサウンドを提示している。


レオポルド・ストコフスキー(映画『オーケストラの少女』より)


ストコフスキーによるトランスクリプションとある通り、他のオーケストラ・ヴァージョン(ここに上げていないものも聴いた)とは異なるアレンジで、たとえば、マリンバ(たぶん2台)によるオブリガートで強いアクセントをつけたりしているあたりに、ポップ・センス、ラウンジ・ミュージック的なノリを感じる。

「オーケストラの少女」に活写されていた、独特のケレン味たっぷりの豪快なコンダクト・スタイルにふさわしい、じつに派手なアレンジ、サウンドで、ガチガチのクラシックのリスナーは眉を顰めるかもしれないが、一聴、笑みがこぼれてしまう好ましい音だ。

「オーケストラの少女」冒頭の演奏場面。ストコフスキーの動きそれ自体がショウになっている
https://youtu.be/UfcFMv8DWAc?si=4Rx5y4G070IDCyPK

(「その3 ヴェンチャーズ他のロック・インスト篇」につづく)

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