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僕に文章のイロハを教えてくれた恐怖の先輩後編

板垣さんの文章のマネを仕出してからすでに10年近く経過する。未だに文章を書いている時、「この部分は板垣さんだったらどうするだろう」ということをよく考える。今の僕の年齢は当時の彼を超えてしまった。にもかかわらず、スキルは未だに及ばないように思う。おそらく一生追い続けていくのだろう。

板垣さんとのエピソードを語る時に、もう一つだけ忘れられない出来事がある。仕事に向き合う姿勢というか、覚悟のようなものを刻み込まれた言葉がある。

「『やってみます』じゃねーよ!!『やる』んだよ!!!!」

史上最大級の音量で怒鳴られたのは忘れもしない2010年12月28日。仕事納めの日だった。

前に務めていた会社では、仕事納めの日は事情がない限り、定時で仕事を切り上げ、メンバーで飲みに行くことが慣習だった。

しかし、この年の仕事納めの日、僕は担当していた仕事が終わらず19時まで会社で仕事をしていた。チームのメンバーはすでに飲みに行っている。
「ついてないな」と思いながら黙々と作業をしていたところ、一通のメールが送られてきた。激動の数時間の始まりを告げるメールだった。。。

そのメールは当時の会社の役員からのものだった。そのメールは僕宛に送られたものではなく、地方(新潟)の広報部のマネージャー(板垣さんの上司)に向けて送られたものだった。(僕はCCに入れられていただけ)

内容的には昼間につくったスタンスペーパー(ある報道についてのマスコミ対応の方針が書かれた文書)の一部を変更するようにというものだったと記憶している。年始まで待てない案件。

このスタンスペーパーはかなり重要な文書であったため、変更する場合は、社内の複数の部門、業界他社、さらには役所、といった具合で相当多くのステークホルダーにお伺いをたてなければいけない代物だった。

内容を読む限り、直さなくても致命傷にはならない。そして今日は仕事納めの日。時刻は19時。普通ならば会社に人はいない時間だった。

「見なかったことにしよう」

そう思ったものの、日和った僕は新潟でおそらくは飲んでいるであろう板垣さんに連絡を入れることにした。電話をかけた時、板垣さんは車の運転中。一旦家に帰ってそれからメンバーたちと合流するつもりだったようだ。

柳田「もしもし。板垣さんですか?」
板垣「おう!どうした」
柳田「板垣さんがつくった文書に〇〇さん(役員)からコメントが入ってますけど、もう人がいないし見なかったことにしますよ」
板垣「なんだと!今から事務所に戻る!お前もそこで待機してろ!」

頭が真っ白になった。今日は仕事納めの日でもはや会社に人はほとんどいない。そしてそれはこれから確認をとらなければいけない業界他社や役所も似たような状況であろう。このメールを見なかったことにすれば問題はおこらない。しかし、役員からのオーダーを認識していて、調整した結果失敗したということであれば話は別だった。

当時の職場では「失敗などありえない。失敗すればそれはすなわち会社人生を絶たれる」ような雰囲気が充満していた。当時は僕も若かったので、会社でのキャリアの終わり=人生の終了くらいに考えていた。

普段は反論しない僕だったが、この時ばかりは必死の思いで板垣さんを説得した

・この日のこの時間に送ってきたメールを見ていなかったとしても不自然ではない(当時はモバイルというものが存在しなかった)
・今日は仕事納めの日で会社内に人がいない。おそらく業界他社も似たような状況だろう。そんな中での調整は事実上不可能に近い。
・直さなくても致命傷にはならない。しかし、もし調整を手掛けて失敗すれば問題になる。
・僕と板垣さんが知らなかったことにすれば良いだけの話ではないか。

そんなことを言ったような気がする(最低w)

しかし板垣さんは頑として聞かず、限られた時間でスタンスペーパーを修正するという。

「これ失敗したら問題になります。で、うまくいく可能性はゼロに近いです。だって調整すべき人たちと連絡がつかないんですよ!」

そういう僕に対して、板垣さんは静かに言った。

「失敗したらお前と一緒に左遷されてやるよ・・」

この言葉を聞いて、僕は覚悟を決めた。そもそも板垣さんがいなければとっくの昔に死んでいた会社人生。数々のピンチを助けてくれた先輩が左遷をかけてこのミッションに挑むという。ならばそれに付き従うのがお世話になった者の義務ではないか。

「・・・・・・・・わかりました・・・・やってみます・・・」

もはや左遷(会社人生の死)は確実。。。しかも知らなかったことにすればいい案件で。。。

でもお世話になった先輩のために男気を見せよう・・そんな思いで言葉を絞り出した。しかし、史上最大級の怒鳴り声が電話口で響いたのはその時だった。

「『やってみます』じゃねーよ!!!『やる』んだよ!!!!何考えてんだ!!お前は!!!そんな覚悟でいるからいつまでたってもダメなんだよ!!!!!!」

ガチャッ・・ツーツーツー。電話は切られた。。。

僕は脱力して椅子に座り込んだ。会社人生の死を覚悟して、男気を見せようとして絞り出した言葉が圧倒的な怒鳴り声で否定される。

こんなことってある?仕事とはこんなに厳しいものだろうか。。としばし呆然とした。。

その後、人間死ぬ気になればなんとかなるもので、僕と同じように仕事終わりの日に残っていた他部署の人(初対面w)を発見し、そこからわらしべ長者のごとくステークホルダーの連絡先を聞いていき、飲み会の席にまでお邪魔をしてスタンスペーパーの修正についてレク。そこからさらに業界他社の担当者の電話まで聞き出して、電話をかけ。。。といった具合でなんとかミッションをコンプリートした。必死だったのでどう動いたのか記憶がない。。。

仕事に対する覚悟を教えてくれたエピソードでした。。。


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