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「FACTORY GIRLS」ネタバレ感想

  • ミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」のネタバレを含みます

  • 関係者に配慮せずに思ったままの感想を書きます

昨日、東京国際フォーラムでミュージカル「FACTORY GIRLS~私が描く物語~」を観てきた(公式サイト)。1800年代半ば、アメリカの紡績工場で働く女性たちが、劣悪な労働条件や女性差別と闘うストーリー。ブロードウェイの作曲家コンビの曲と原案をもとに板垣恭一が脚本・訳詞を書いて演出したオリジナルで、2019年初演。今回は再演で、わたしは初めて観た。

歌がすごい

チケットは1次が外れて2次で買えて、ありがたいことに1階前方、通路横の席が回ってきた。歌声をまさに浴びるようにして聴けて、何度か比喩じゃなく身体が震えた。

皆さんソロパートで高音をばちっと当ててくるのもすごいし、低音部分も音の上げ下げが丁寧で、初めて聴く曲たちだけど、どんな心地よい旋律を持った曲なのか、わたしにもちゃんと分かった。

コーラスワークもすごい。だいたい原曲が英詞なのを日本語で歌うだけでも符割りがヤバいことになるのに、それ以前にそもそも作りが複雑な楽曲を、リズム取って音取って、他人同士でしっかり重ねたり追いかけたり。あんなのはもう音のサーカス。

女性が人生を切り拓くというテーマに沿った名曲が多いのがまたうれしかった。

例えばアナ雪なんかは、姉妹が自分の個性を認め、誇り、慈しみ合って生きていく決断のストーリーだけど、名曲はなぜか、これからは一人で氷の城で生きていくもんね!みたいな場面や、財産&権力狙いのクズ王子と恋に落ちてしまう場面とかで歌われる。案外、いい場面×いい曲のシーンって少なかったり。

オペラでも、何も他人への憎しみをそんなに美しく高らかに歌い上げなくても、という演目は多いので、音楽が物語とちゃんと手をつないでいる舞台に出会うと観劇の幸福度がそこで一段上がる。

胸アツの名シーンもある

昨日は平日昼間にもかかわらず空席が目立つようなことはなく、多くの人がそれぞれのタイミングで双眼鏡を掲げていた。細かい表情まで見逃がすまいという熱気が(皆さんのマナーにより)カサとも音を立てずに広がっていた。

わたしがもし双眼鏡を持っていたら、夜遅い『ローウェル・オウファリング』編集部でハリエットとサラが一片の詩を共作するシーンで使ったと思う。あるいは、手に持ったまま使うのを忘れたかも。

すごくいいシーンだった。言葉を得たことであんなに歓喜するサラ、それをまたうれしく思うハリエットの気持ち、どちらにも共感できて、まさしく胸が熱くなる。ハリエットが上手く踊れないところも、中の人のダンススキルの高さを思うとメタネタっぽくて笑えるしかわいい。

お芝居も好き

柚希礼音さんやソニンさんが実際どんな人だか、わたしは知らないけど、柚希さんが持っているおおらかなオーラや、ソニンさんがキャリアの中で研ぎ澄ましてきたシャープなたたずまいが役柄と重なり合って説得力につながっていた。

パンフレットは再演だからか、時代背景の解説や演出家のコメントがない代わりに、キャストのコメントが満載。「ニンニン先輩」っていう呼び名がかわいいな

アボット役の原田優一さん、老ルーシー役の春風ひとみさん、観客の視線や感情を思うままに操ってしまうし、清水くるみさんも若いのに既にエンターテイナーとして貫禄がついている。

能條愛未さん演じるフローリアにも印象的なシーンがある。自分の抱えてきた事情を明かし、それを聞いて慰めを言おうとした同僚に「何も言わなくていい」「わたしのことを見ていて」と言うところ。文字面は他人に見るという行動を請願しているようだけど、実は自分とだけ深く向き合った言葉になっている。かっこいいのだ。

でもここがいただけない

テーマも歌も演技も好き。カテコでスタオベする観客たちの一人に、わたしも迷わずなった。ただ、ところどころ、これは好きになれないなと思う瞬間も確かにあった。実話ベースなので、動かしがたいところもあるのだろうけど、それにしても。

一つは、ある人物が命を落とす場面。これが、主要人物たちが口論している間に起きてしまう。仲間が大変な思いをしている状況が知らされているのに、闘い方の理想について主義主張をぶつけ合っている間にそういうことが起きる。目の前で苦しんでいる人に手を差し伸べないで、未来がよくなる話、世界がよくなる話をするなら、それはイケメン御曹司ベンジャミンと同じことになってしまう。これに関して自責も反省もなく前へ進んでいくのは違和感がある。

最後のほうで、ハリエットが彼氏と別れたかどうか、同僚が確認し、ハリエットが「(別れたから)彼はフリーよ」と冗談めかして言って、同僚が大喜びする場面もわたしは笑えなかった。このミュージカル、男性も自分の差別に気づくことすらできない不幸があり、女性から本当には愛されない(生活手段か加害者に見られている)不幸があり、決して男性を悪者として描こうとはしていないんだと思うし、彼が女性の敵というわけじゃないのも分かるけど、それにしても今そんな話しなくていいよ。

ハリエットとサラが袂を分かっていく流れも残念。男性同士なら、例えば政治家とヤクザ、刑事とヤクザになって、表面上は関わりを断って別々に行動しながらも、絆はゆるぎないまま、世直しだったり復讐だったり、一つの目標に向かって動く――という作品がいくつもある。なんで女性はそれができないことになっちゃうんだろう。その流れがもう悔しいし、その流れにするならするで、描き方がもったいない。どうせすれ違うなら、ハリエットの真意をもっと伏せて秘めて、戦略的に明かす台本を作ってほしかった。

おおむね満足しているし、感動した瞬間も多々あったのに、満足できなかったいくつかの点をわざわざ書き残すなんて性格悪い。でも、テーマがいいから全部いい、という解像度でこのミュージカルを語っていたくない。恋愛が主題ではない、フェミニズムをテーマに掲げた、女性キャストの多いミュージカルが制作され上演され受賞もし再演までされたことを喜びたいけど、“こういう作品は日本に少ないから絶賛するしかない”のは嫌だから。

感動をありがとう。でも文句も言うよ、すまんね。

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