見出し画像

キーマカリーズ 7インチリリース記念  鈴木大晴インタビュー

京都のバンド、キーマカリーズ。フレッシュさとピュアな変態性に満ちたパンクサウンドを鳴らしていたそのバンドは、いくつかの季節を超えて、その表現は少しずつ変貌を遂げた。

画像1

これまでの速くて短い混沌とした楽曲は、その延長線上にありながらも長尺になり、独特の曲展開とともにこれまで以上に描く歌詞の世界はより広がったものに。

その歌詞を手掛け、ボーカルやアートワークも務める鈴木大晴。

画像2

さらに彼らの音源のリリース元であるロードトリップ代表、いくつかのバンドで活動し、やっほーとしても全国を駆け巡っている良き友人のひとり、はまいしんたろうにも参加してもらいインタビューを行った。こんな時期なのでZoomで。

画像3

当たり前だけど便利な世の中になるほど、電話や会いに行くことや手紙や贈り物みたいに手間のかかるアナログなことが愛おしく大事に思える。自分の暮らしとも向き合いつつ、気の合う友人とバカみたいな話を早くまたライブハウスや路上でしたい。困っている顔をしている人たちと顔を合わせて話をしたい。うるさい音を浴びて笑ったり泣いたりして僕たちの暮らしを続けていきたい。

「キーマカリーズの現在は?彼氏は?年収は!?」と、クソまとめサイトみたいに前置きばかり長くなるのも問題なので、読んでくれる方の多くはその存在を知ってくれていると思いますが、キーマカリーズのこれまでを少しおさらいしておきます。

画像4

※上記は全感覚祭の紹介文より
ドラム、ギター、ボーカルの3人(ヨシアキ、ゴツロー、だいせい)は小学生の頃からの友達で中学の同級生。2014年にバンド結成。ベースを弾ける友達がいなかったので高校の間はベースレスのまま活動。ハードコアを全く知らないのにハードコアと言われていて、後追いのようにハードコアを聴く。初ライブを終えて「チチワシネマ」は解散。解散中に「どついたるねん」から前身バンドである「キーマカリーズ」を二代目として授かり、徐々にバンド名が「キーマカリーズとチチワシネマ」になる。受験勉強の為、一時活動を休止、再開後はスリーピースから4人組に。2018年、1stAlbum「 Hap pep tis」を リリース。2019年末にノボルが脱退。2020年になると「キーマカリーズとチチワシネマ」から「キーマカリーズ」へ改名。その後新メンバーであるベーシストの強力が加入。バンドも新しいシーズンを迎えたこのタイミングで先日、渾身の7inch EPをリリース。彼らのことや各メンバーの音楽的バックボーンを詳しく知りたい方はこちらの記事も是非チェックを。(https://ameblo.jp/piouhgd/entry-12580509262.html

───────────────────────────

「拗らせた憂鬱の先にある透明な正体はなんだろう」

「いつまでたっても自分には呆れっぱなし。なんとなく。少しずつ。退屈ばかりの毎日に慣れていく感覚」

「それも悪くないけど、新しい季節をはじめる時にはこんな歌を聴いていたい」

「正体がわからないようなでたらめな時間があってもいい。どんなことにも意味を求めすぎないでいたいな」


いつもどおり少々長いですが、こんな世の中でもバンドをやれることの喜びや自分にとって大事なものがどんなものかなんとなく再確認できるようなインタビューになったんじゃないかと思います。それではどうぞ!(緊急事態宣言解除前の5月末に取材。敬称略、言葉遣いはご愛嬌。彼らとメンバー、その音楽に最大限のリスペクトを込めて)


友達と話せるのがなんか嬉しくて。ついつい雑談からスタートしてしまいました・・・


ーーふたりは最近さ、なんかバンド周り大勢でグループ通話みたいなのしてたね。

しんたろー:してたしてた。

だいせい:ハマジさん(KK MANGA)が誰かと喋りたくなったのか連絡が来て。それでゴツローとかと喋ってるうちにどんどん人が増えていって、結局9人くらいで話してました。

しんたろー:しかもさ、ZoomじゃなくてLINEの音声だけのグループ通話ね。ほんまにごちゃごちゃしてたわ。あれはあれでなんかおもしろかったな。それぞれオススメの音楽とかそこに投稿しまくる感じで。

ーーだいせいくん、そう言えばボビー・オロゴン逮捕されたね。

だいせい:ボク別にファンとかじゃないですよ(笑)。あれ、CLASSROOMとマッハエスカルゴのノリなんで。

※一連のボビーオロゴンツイート

しんたろー:マッハエスカルゴも解散しちゃったな。残念やな。

ーーね。めちゃくちゃ寂しいよ。Dr.の(石川)ユーキは新しいバンド始めるみたいだけど。

だいせい:そういやLINEも知ってるのに全然連絡とってないなー。

画像5

画像6

画像7

※とある夏のゴツロービーチの様子

ーーコロコロアニキ(CLASSROOM)とかには連絡とってるの?

だいせい:この間自分で作ってるキーホルダーを送ってくれましたね。チャールズ・ブロンソンのTシャツも一緒に。あのYOUTH ATTACKのジャケのやつ。

画像8

しんたろー:コロコロアニキの彼女かわいいよなー。てかコロコロアニキ自体もなんかかわいい。

だいせい:なんか、体毛が少ない感じの体型ですよね。あのタイプの男性めっちゃ好きです。

ーーははは(笑)

しんたろー:ずりーよな~。あの感じであのハードコアやったらいい感じになるよな。

※泣きそうな顔をして歌い、口は達者だがとても人のいいやつ。そんな彼が率いるCLASSROOMのライブがこちら。メンバー募集中!

ここらでお互いの近況報告。コロナの影響でバイトに入れない日々のことや、ライブ自粛の日々で行くあてのなくなった衝動をけん玉に向けている話などをちらほらと。

新メンバー、強力という男


ーー最近はスタジオにも結構入ってるんでしょ?

だいせい:新しく入ったベースのメンバーが京大の吉田寮(京都大学にある日本最古の学生自治寮。ライブイベントなども実施され独自の文化が根づいている場所)のスタッフみたいなのをやっている関係でそこを自由に使えるんですよ。なので最近は週2,3入ってますね。

ーー新メンバーの強力くんはもうすっかりバンドに馴染んだ感じ?

だいせい:いや、(ベースの演奏に関しては)ほんま初心者なんで、普通にやってたらライブがちゃんとできるまでは3ヶ月くらいかかりそうな感じですね。

画像9

しんたろー:元々は三重のPULASEI(プラセイ)っていうバンドの人だったんよな? 1回対バンしたことあるな。

だいせい:そうです。しんたろーさんがholemanで出演していた時のイベントにボクたちも出てて、そこにPULASEIも出てたんですよね。でもメンバーの印象は全然なかった。

しんたろー:そうやな。PULASEIのライブが良かった覚えはあるけど、彼の印象みたいなんはなにも覚えてない。

だいせい:やたらハマジさんがPULASEIを気に入ってた覚えはありますね。彼はそのバンドではギターだったんですけど、なんかあんまり弾いてなかったみたいなんですよね。・・・プレイヤーというよりは機材とかが好きなタイプなんかな。イメージですけど。

だいせい:あ、強力くんの話でひとつ思い出しました。彼がボクのバイト先のラーメン屋に食べに来たことがあって、なんとなくいけそうだなって思ったんでバンドに誘ったんですけど、その時はあっさり断られたんです。「あかんかったなー」って思ってたんですけど、実はその日からベースを練習していたらしくて(笑)。次に会った時にそのことを告白されました。

しんたろー:エピソード持ってるなー(笑)。

ーーゴイステ加入時の村井くんみたいな話だね(笑)。実はこっそりひとりで練習してたやつ。

だいせい:それまでタクミさん(VivaKappa / The Fax)にずっとサポートしてもらってて、そのままの形で続けるのもありかなって思ってたんですけど、VivaKappaの別メンバーのタカミさんに「おれらのバンド邪魔するんやったら殺すで」って言われて(笑)。その日から真剣に探しだしたタイミングでうまいこと強力くんが見つかったので救いの一言でしたね。おかげでずるずるとしなくてよかった。

しんたろー:言いそうやなータカミくんは(笑)。結果的に良い助言だったと。

だいせい:一時期、その一言が頭から離れなかったです(笑)。

だいせい:それで新メンバーが入ってすぐに難波BEARSの支援オムニバス「日本解放」に参加する曲を仕上げなくちゃいけない状況で。今ある曲さえまだ全然できないのにいきなり一緒に曲を作って提出した感じですね。

しんたろー:なんか最近の流れっぽいな、それ。ちなみに短い曲?

だいせい:5分くらいの曲にして送ろうかと思ってたんですけど、2分以内にしてほしいって要望が・・・。

しんたろー:それ、ボクも言われたわ(笑)。

だいせい:あのメンツの中でボクらはそういう枠なんかなって思いましたね(笑)。任されてるからには期待に応えたいと思ってがんばりました。

ーーその曲のタイトルって最終的にどうなったの?ブログ「恋の夕凪」で行っている「めぞんハラダ」の記事の中で話している時に、ゴツローくんからちらほらとは聞いていたんだけど。

だいせい:あ、”コロナ”にしましたよ。

しんたろー:へぇー。そうなんや。

ーーなんかその記事の参加メンバーの中でそこまで大きくもないけど「そのタイトルはどうなんだろうなー」っていう物議を醸しだしてたよ(笑)。

一同:(笑)

だいせい:あ~ゴツローは嫌そうにしてましたね(笑)。歌詞ももろにそういうことを歌っているので。

ーー実際にまだ聴いてないからはっきりとは言えないけど、今感じたことを記録して残そうって意味合いもあるだろうからその事自体はいいんじゃないかなって思うけどね。

だいせい:そういう意識でやりましたね。

画像10

ーーそんな新曲からともに活動を開始した新メンバーの強力くんについてもう少し聞いていきたいんだけど、あの名前ってメンバーの誰かが付けたの?

だいせい:いや、名字がそのまんま「強」い「力」と書いて「ごうりき」なんですよ。

しんたろー:「ごうりき」って彩芽以外におるんやな~!

ーー絶対にあだ名か、そう読ませてるとかそういうのかと思ってた!

しんたろー:な。しかも、絶妙にキーマカリーズっぽい名前よな。3人が勝手につけて笑ってそうな絵が浮かぶ。そして周りはようわからんみたいな(笑)。ラグビー選手みたいな名前。

 ーー強力くんはバンド内でどんなキャラ?今のところ写真素材も充実しているし、一緒にふざけたりすることにも付き合ってくれるような積極的なところがあるのかな?

だいせい:前のベースのノボルの時はスタジオ以外でメンバーみんなで遊んだこととかなかったけど、強力くんとは遊んだり、スタジオの後もメシ食いに行ったりするので、距離は近い感じはしますね。歳は離れていて28歳なんですけど。

ーーまだ加入して間もないとは思うんだけど、そんな中で気づいたこととかある?変わっているところとか。

だいせい:さっきも少し話したんですけど、耳がめっちゃ良いんですよね。プレイヤーというよりはレコーディングとか機材にすごく詳しい。そっち方面を学んで目指してたんですかね。バンドのセッティングとかもアドバイスしてくれますし、音作りにめっちゃ役立ってますね。

しんたろー:へぇーそれはええなぁ。頼りになる。

だいせい:パンクとかは全然知らないみたいですけどね。FUGAZIとかが好きみたいで。それこそ(スティーヴ・)アルビニとか録音にこだわっている人らがやっぱり好きみたいです。あと「ジョイ・ディヴィジョンの曲なら全部弾けるけど他は何も弾けへん」とは言ってましたね。

一同:(笑)

しんたろー:極端やなー。変わった人であることは間違いなさそう。写真とか見ててもキャッチーな感じあるしな。いいな。

だいせい:シャイな感じですよ。4人の見た目もどこか揃った気がしますね。引き換えにエモさは失いましたけど。ノボルがめっちゃエモ好きだったんで。

※ノボルくんの別バンド、TV school

しんたろー:別にノボル自身からエモさ感じたことないわ!ノボルのライブしている時の見た目も良かったけど、強力くんはどんな感じの佇まいでライブするのか気になるね。早くライブ見たいなー。

だいせい:そうですね。まだ先は長いのかもしれないけど、ボクも楽しみです。

ロードトリップと歩んだこれまでのキーマカリーズ

ーー今回、7inchでEPがリリースとなるわけだけど、これまでに出した1stアルバムやこれまでのバンドのこともこの機会に少し聞いてみようかな。今回同様はまいくんのレーベル「ロードトリップ」から1stがリリースされたのは2018年の12月。今からだいたい1年半前。

だいせい:時間って経つの早いですね。

ーー当時、一度今やっている曲をまとめて音源を出したいという気持ちだったっていうことかな?

だいせい:そうですね。バンドでやっている曲の感じが、今回出したEPに入っている曲とか最近ライブでやっている曲みたいに、ちょっと次のところに変化していきそうな感覚があったんですよ。それで当時の曲たちをちゃんと残しておきたかった。かっこいいなって思ってる周りのバンドが音源を残さんと終わってしまうことも結構あって、できる限りみんな残してほしいなってボクはずっと思ってるんで。アルバムを出す前にも自分らで出した8cmのCDRはあったんですけど・・・

しんたろー:めっちゃ曲が入っとったやつね!

だいせい:63曲とか(笑)。その他にも、大学受験の時にバンドが活動止まって、「このままバンドが終わるかもしれん」と思ったので、曲を録音して、ライブもなかったので結局YouTubeに公開して残しておいたこともありました。公開されているのは1stアルバムにも入ってる3曲だけなんですけど、アルバムにも入ってない曲も実は全部録音したんです。その後、ボツにしたので日の目は浴びてないんですけど。だからボクら曲はめっちゃあるんですよね。

しんたろー:ふーん、そうだったんだ。

ーーその公開されてない曲たちは以前のバンドのモードの曲だと思うんだけど、今後再構築して新たな曲として聴ける可能性とかはありそう?

だいせい:ボクはやりたいんですけど、メンバーは絶対やりたがらないですね(笑)。自分が書いた歌詞はけっこう使いまわしてます。今でも言いたいことだったりするので。

しんたろー:今回のEPの曲でも歌詞同じもの使ってなかった?えーっと・・・”出かける用意を始める気分”とかさ。

だいせい:あれは、前作に入ってる「暮らし」と今回の「暮らす」が自分の中で繋がっているのでそのまま使ったんですよ。

しんたろー:あぁ、そっか。正式に引用してるのか。これってさ、「暮らし」から「暮らす」に変化してるのってどういうことなん?

だいせい:んー、なんか「暮らす」の方が前向きっぽくないですか(笑)?「歩き出した感」というかそういう部分を表現したくて。

しんたろー:ははは。ちなみにこれバンドの「CRASS」とはかけてるの?

だいせい:いやそれは意識してないですし、CLASHも別に好きじゃないです。「CLASSROOM」にはかけてるとこありますけど。あ、クロッシュさん( WETNAP / Bigsurprise / WEB ZINE thrf )も関係ないですよ。

しんたろー:そりゃそうやろ(笑)

※ちょうど先程まで、クロッシュが始めた最高WEB ZINE ”thrf(スリフ)”の話題をしていたので。

ーーキーマカリーズはそのバンド名(改名前はキーマカリーズとチチワシネマ)もそうだし、若くてなんかおもしろいことをやっている子達がいるって一部の界隈では早くから話題になっていたと思うんだけど、はまいくんはいつ「あ、このバンドいいな」って思ったり、リリースしたいなって思いになったのかも聞かせてほしいな。

しんたろー:ボクがロンリーでちょくちょく京都にライブで行くようになってきた時期に、話は聞いてたんよね。メシアと人人の北山くんかodd eyesの岡村くんか、そのへんの誰かから。

だいせい:メシアのライブは中3から観てましたね。

しんたろー:京都メトロは基本22時以降は未成年は入れないんだけど、なんかひとりだけ大丈夫なやつがいると。それがだいせいくんだった。界隈ではちょっと有名みたいな(笑)。

だいせい:そんな話になってたんですか(笑)?確かに高校生の時、店長が許してくれてたかも。

しんたろー:それで、直接会った時にその8cmのCDをもらって、その後もCDとかYouTubeとかで聴いてたし、ライブも一緒になるようになったりして、「いいバンドだな」とはずっと思ってて。そのうち自分でレーベルもするようになったけど、当初はキーマカリーズのことをどこかのレーベルが絶対出すやろと思ってたな。それこそKiliKiliVillaとか他のいい感じのレーベルが気づいて出してくれると。そしたら全然誰にも引っかからんくて(笑)。気づいたらメンバーも高校を卒業して大学生になるタイミングで。

だいせい:当時、FAAFAAZとかFIGHT CLUBとかを既にロードトリップから出してたりリリースするってなっていて、うらやましい気持ちは自分の中でずっとあったんですよ。実際に音源を出してくれるっていう話になった時のことは未だに覚えてます。FAAFAAZのレコ発を京都ネガポジでやった時で、しんたろーさんに自分から「ボクらの音源もロードトリップから出してほしい」って言おうと思って準備してたら、しんたろーさんの方からリリースの話をしてきてくれたんですよ。

ーーいい話じゃん!

しんたろー:なんか、ちょっと酔っ払ってたのもあるかな。勢い(笑)!キーマカリーズを出したい気持ちはずっとあったけど、ボクで大丈夫かな。断られたらどうしよう。「いや、ボクらもっと上狙ってるんで」とか返されたらどうしよう、とか内心思ってたからね(笑)。

画像11

だいせい:ははは。でも周りでも「ロードトリップから出したら?」って言ってくれる人も多かったですけどね。(GEZANのイーグル)タカさんとかもそうだったかな。

ーーそれまでのロードトリップのリリースしてきたものとカラーがうまく一致したのかもね。

だいせい:リリースの話があってから2ヶ月後くらいにレコーディングを始めたんですよ。2017年の秋だったかな。その年の春くらいからベースを加えた4人体制でやってて。VivaKappaのタクミさんにサポートで弾いてもらってたからレコーディングもノボルは途中から参加した感じでしたね。

しんたろー:どっちにも半分くらい弾いてもらったと思うな。それにしてもレコーディングは大変だったなー(笑)。

だいせい:今考えるとそんなに大変じゃなかった気はするんですけど、あの時はえらい大変みたいな感じになってて(笑)。

しんたろー:いやでもさ、なにもわからないボクがMTRで録音してたのとか怖さでしかなかった(笑)。

だいせい:曲がまるまる無くなったとかありましたよね(笑)!

しんたろー:あったあった!ある曲はバスドラが録れてないとかね。アナログどうこう以前の問題やから(笑)。

画像12

ーー完全DIYスタイルで。確か青少年センターで録ったんだよね?いつも練習とかライブをしている場所。完成した音はだいせいくん的には理想通りの出来になった?

だいせい:いやー全然ですね。自分にも全然自信がなかったのでどこか誤魔化そうとしている感じが出ちゃってるかなって。これっていう理想に掲げる音みたいなものは特になかったんですけどね。納得いくところまで音を仕上げたかった部分はあるんですけど、そこまで完成させられるまでの力が自分たちにはまだ備わってなかったのを実感しました。

しんたろー:うん。「なんとかなった!」っていう感じだったな。滑り込みセーフ!!

ーーなるほど。個人的にはバンドの初めての音源で、もったいないなーって感じるくらいライブでの音と悪い意味で全然違うというか出来が思わしくないものも世の中にはけっこうあるなって思ってるから、そういう点で言うとキーマカリーズのアルバムはバンドの魅力がちゃんとまっすぐ伝わってくる1枚になってたと思うけどね。

だいせい:それならよかった。その時の空気感はきちんと録れたかなって自分でも思ってます。

しんたろー:うん。録った直後は音に関して大丈夫かなっていう不安もあったけど、最近改めて聴くと全然ええやんって思った。かっこいい。

だいせい:ふふふ。実際今回の7inchより音めっちゃキレイやし、音圧も結構あるんですよね。

ーーそうそう。音圧はしっかりあるなって最初聴いて思った!

しんたろー:ミックスをお願いした時に楽曲データの波形を見たら、全部メーター超えとったからな。波なかったもん。

一同:(笑)

アルバムを出してからの変化と、そこからの新たなモード


ーーそんな音源も無事完成して、全国のレコード店やディストロから色んな人の手に届きはじめて、嬉しかった反響とかバンドが進んだなっていう実感はあった?

だいせい:それはめっちゃありますね。あのタイミングでアルバムを出してなかったら曲もあんまり作らんと今もあのままだったと思います。

ーーきちんと今の自分達を残せたからその先の新しいことにも挑戦してみようと思ったと。

しんたろー:あそこから今のキーマカリーズの感じの曲になるまでわりと早かったよな。

だいせい:そうですね。こういう曲もやってみようかなとか入れ替えてみようかなとか迷いもそんなになく。

ーー例えばアルバムを出したことによって、こんな人が自分たちに気づいてくれたっていう出来事はあった?

だいせい:特定の人物とかは・・・どうだろう。でもそれまではライブハウスのブッキングにノルマ払って出ていたんですけど、アルバムを出してからは個人的に見に行ってたようなバンドの企画に呼ばれることが多くなって、それはかなり大きかったですね。

ーー名刺代わりというか、みんなアルバムを聴いて「噂の気になるバンド」の実態に確かな感触を得たのかもしれないね。

しんたろー:でも、アルバムを出す前からキーマカリーズはけっこう企画に呼ばれたりもしてなかった?

だいせい:うん、でもやっぱり全然違いますね。それまではライブで曲をやっても誰も理解してなかったと思うんですよね。音源になったことでそれがどんなことを歌ってるのかとか、こんな感じの曲だったんだ!とかわかってもらえることも増えて、反応が変わってきた実感はあります。それまでは人からしたらどの曲も全部同じに聞こえてたんかなーとか(笑)。

しんたろー:そんなことはないと思うけどな(笑)。でも音源を録って一番驚いたのは歌詞の部分かも。曲も変だけど最近のものに比べると1stはだいぶシンプル。いまだにびっくりし続けているのは言葉とか歌詞の部分だよね。あんな歌詞が書けるのはうらやましいと思ってる。

ーー自分も、ライブで観ていた時から時折耳に残る言葉のフレーズが印象的で、歌詞がずっと気になっていたけど、アルバムが出て、そこが腑に落ちたと言うか想像していたようなことを歌っていてグッと好きになったなー。ハードコアとかドタバタしたバンドのような雑多なイメージはあるかもしれないけど、きちんと軸のあるボーカリストがいるバンドっていう感覚をキーマカリーズには持ってるよ。その部分でキーマカリーズのことが引っかかってる人たちは多いんじゃないかな。

だいせい:ほんまですか!そこは自分の中でこだわりたいとこではあるので嬉しいですね。

しんたろー:読み物としても全然いけるもんな。

ーーひとつの芸術とか作品って言うと適切ではないかもしれないんだけど、「表現としてのバンド」っていう意味合いが強いなって感じる。いわゆるキッズというか「うるさいのが好き!」っていう人がこれからついてくるのかはわからないけど、理解してくれる人はジャンルを問わずいろんな方面から反応してくれるんじゃないかなって想像しちゃうね。今回のEPの曲なんかは特に。

だいせい:パンクだけじゃない気持ちでやってるとこはありますね。

ーー「速くてうるさいのが好き」っていうのも最高だけど、それだけじゃなくてそこを置き去りにしないで魅了するような部分も確かに持っている楽曲になってきていると思うんだよね。好きなものをインプットしてそれをアウトプットするのに、必ずしも同じような形で出さなくてもいいというか。それを体現していると思う。

しんたろー:うん。それが1st以降から如実になってきた。

だいせい:なんか、今までずっと表現したかったけど出せなかったものが、ちょっとずつ出せるようになってきたのかなって最近は思ってます。

画像13

ーーその変化のきっかけってなにかあるのかな?例えば暮らしの変化とか。

だいせい:めっちゃありますね。アルバムを出した時は実家暮らしで思うように好きに音楽も聴けない状況やったんですけど、アルバムを出した後、「大学の近くで一人暮らししないとヤバい」みたいにデタラメに親を説得して家を出てから、自分の中の生活感が変わりました。ものを考えたりする時間が単純に増えましたし、実家と今の場所ではその土地の流れている時間や空気も全然違くて。毎日「生きてる」っていう感覚や変化を感じるようになりましたね。

しんたろー:部屋はボクが前に泊まったところと変わっとらん?

だいせい:あ、同じとこですけど最近部屋だけ変わりましたね。水漏れが起きて大家さんから空き部屋に移ってくれと言われて、そこに住み着いてます。

バンドで歌っているうちに感じたこと。作品を織っていく中で感じたこと。


ーーその部屋に最近、スペースの3分の1を占める巨大な織り機がやってきたらしいね。

だいせい:めちゃでかいんですよ!寝るスペースとメシ食うスペースがほとんどなくなった・・・。

画像14

ーー織り機っていうものが身近じゃなさ過ぎて全然わからないんだけど、新品で買うの?譲ってもらったりするものなのかな?

だいせい:これは神戸の芸大の先生から縁あって譲ってもらいましたね。織りってやっている人自体がほんまに少ないんで他に誰も希望しなくて。元々大学を卒業したら自分で買おうと思ってたのでラッキーでした。これもフィンランド製で元々高価なものです。

しんたろー:へぇー。織り自体はいつから始めたん?

だいせい:大学からです。テキスタイルを専攻しているんですけど、その中で「シルクスクリーン」や「染め」ではなく、「織り」を選んで学んでいる感じです。織りも大抵の場合はやるのは女性ばかりらしくて、うちの大学でも男はボクで10年ぶりくらいなのかな。なんか織りをやっていることもバンドにリンクしていっているところは感じてるんですよね。

ーーだいせいくん的には織りの魅力ってどういうところ?

だいせい:例えば絵を描く時だったら、考えながら・イメージしながら作業を続けないといけないけど、織りの場合はある程度元になる絵を描いてからそれに沿って色を選んで位置を合わせて織っていくんですね。だから織っている間はほとんどなにも考えんでいい。1枚の絵を描きあげるのと比べると自分にはこっちの方が合っている気がしてます。織っている間に音楽も聴けますし、その時間に歌詞を考えていたりすることも多いですね。長いと1日に10時間以上やっていることもありますし、その時間で考え事をしたり、アイデアを思いついたりも。

ーーなるほど。とにかく没頭できる時間なんだね。

だいせい:パンクのアートワークにも似たようなものを感じるんですよね。実は細かい作業をしている人たちが多いじゃないですか。織りもそうで。同じように好きなものに没頭しているイメージがある。ボクが勝手にそこをつなげてるだけかもしれないんですけど。
それと、織りって本来は数ミリの糸をずっと何十時間も織り続けてやっと5cm進むような世界。肩幅くらいの大きさの作品が多い中、ボクの作品は織り方もざっくりと大胆だし、人間と同じくらい大きいし。全身を使って織っていくんです(※そう言ってぐるっと伸ばした腕を大きく回し、織る姿を見せてくれた)。スポーツみたいな意識でやっているところもありますね。グラフィティを壁に描く時も、大きなものはしゃがんだり時には背伸びをしたりするじゃないですか。それに近いイメージでボクは織りをやってますね。・・・こんな話でいいんですかね?織りの話なんて普段誰も聞いてくれないから(笑)。

画像15

だいせい:芸大も自分はノリで入ったところはあるんですよね。何年も絵を勉強してきてから入学する人がほとんどで、自分なんかはほんまに何も描けんくらいの状態で、自分の絵に全然自信がなかった。でもそのしょうもない絵でも糸を通して出来上がった作品は割と自分でも見れる気がしたんですよね。だから自分にはこれが合ってるのかな。バンドでもそう思うことがあって。昔からずっと歌を歌いたかったけど自分の思うようには全然歌えたことがなかったんですよ。そんな時にKK MANGAのライブを見て、最初は「めっちゃ歌下手くそやな」って正直思ったんですけど、同時にこれなら「自分でもできそうやな。速くて短いからバレんで済むわ」って思いました(笑)。今はKKの歌の凄さにちゃんと気づけたんですけどね。織っているうちにちょっとずつ自分の絵も描けるようになってきた気がするし、歌っているうちにちょっとずつ自分なりにですけど歌えるようになってきた気がしてるんですよね。

しんたろー:1stの時とか最初全然歌えんかったもんな。声出てなくてヤバかった(笑)。

だいせい:スタジオとかライブでも演奏の音のほうがずっとでかかったから、自分がどんだけの声を出してどんな感じで歌っているかわかってなかったんですよね(笑)。途中でめっちゃ練習して初めて自分の歌を少し理解しました。録音するまで歌詞を歌わず叫んでいた曲もあったし、どこか動きで誤魔化してたりもしましたからね。

しんたろー:わかるわ~。

頭も痛くなるし、吐き気もする。でも頭にこびりついて離れない。


ーーははは。歌についてだけどだいせいくんは好きなボーカリストって誰かいる?

だいせい:サム・クックが好きですね。最初に音楽を好きになったのはウルフルズなんですけど、小学生の時かな、NHKの教育番組のエンディングをトータス松本が歌ってたのがきっかけでハマりました。トータスがソウルのカバーアルバムみたいなCDを出していて、そこから聴いていってサム・クックにも辿り着きました。そういうのをずっと聴いていたので当時は完璧なものしか受けつけなくて、パンク的なものはうるさいなって思ってて嫌いだったり。だからそういうボーカルの感じを出したい思いはどこかにあるんですけど今の自分はまだ全然出せてないっていう感じです。

画像16

ーーそうなんだね。元々そこから始まって、パンクとかうるさい音楽に興味を持ったのはどこから?

だいせい:中1くらいの時に地元の友達の間でクロマニヨンズとかハイロウズが大流行してたんですよ。みんなレコードプレーヤーも持ってて。友達の家でハイロウズの「俺軍、暁の出撃」を聴いた時に、それまでソウルとかしか聴いてなかったからなのか、めっちゃ頭痛くなっちゃって(笑)。でもなんか頭ん中から離れんくなった。そこから次第に好きになっていった感じですかね。

しんたろー:ええなー!なにそのかっこいいエピソード。欲しいわ。

だいせい:そうなったら「もっとハイロウズみたいなバンドを聴きたい!」ってなって、色々とそれっぽいバンドを聴いたけど全然引っかからなくて。そんな時にゴイステを聴いたらもっと音が悪いし荒いしなんだこれ!ってなりました。この時も同じように頭が痛くなって、吐き気もしました(笑)。

しんたろー:作ってない?天才のエピソードすぎん(笑)?

だいせい:いやいや(笑)。文章にしたら恥ずかしいですけどマジなんです。当時初めて聴いたら、銀杏BOYZの「あいどんわなだい」もイントロとかエグくないっすか?ハイロウズの「俺軍、暁の出撃」も曲始まったら頭にキそうな感じありません?そもそも『Tigermobile』のジャケだっておかしい。あれ、なんか見てるだけで気分悪くなりそうじゃないすか。

画像17

一同:(笑)

ーーそんな風にパンク周辺の音楽に出会って、その後キーマカリーズを組んだっていう感じなの?

だいせい:いや、それは高校に入ってからなんですよね。中学時代にそのハイロウズとかを一緒に聴いていたグループが全部で10人くらいいて、ボーカルをやりたいって言うやつとか楽器が弾けるやつとかけっこうその中にいて。高校になってそのみんながバラけるまでにバンドを組んじゃうとなんか抜け駆けみたいになるなってなぜか思ってたんです。だから高校に入ってこっそりとバンドを始めた感じで。自分の中でなんとなく楽器とかうまいこと弾けそうだなっていうのと、あとどこかボクの言うことも聞いてくれそうだなって人たちに声をかけて(笑)。

画像18

画像19

※マンガみたいなエピソードに事欠かない中学~高校時代の様子

しんたろー:それがゴツローとヨシアキくん?最初から3人?

だいせい:実は一番初めはベースもいて4人でした。クロマニヨンズ、ラモーンズ、クラッシュ、それとビートルズがめっちゃ好きなやつがいたんですよ。ボクら4人ともそれぞれ体育系の部活に入ってたんですけど、特にそいつは推薦で入ったので部活が忙しくなってうまくいかなくなった感じですね。まぁ実際、好きな音源とかも渡して聴いてもらってたんですけど、スクールジャケッツのCDを「全然理解できんかったわ」と返されたのでクビにしたとこもあります。

画像20

※幻のメンバーとの写真も発掘

だいせい:ボクとヨシアキは軽音部もやってて、そこではコピーバンドをやらないとダメなんですけど、案の定コピーする技術も知識も無さすぎて辞めて、オリジナルをやり始めた感じですね。ゴツローも別の高校だったんで。

画像21

※軽音部時代のヨシアキくん

しんたろー:バンドマンとしてはかなり華々しいなー。

ーー欲しいよね、コピーバンドすら出来なかったというエピソード。

だいせい:恥ずかしかったですけどね、だいぶ。

しんたろー:確かFAAFAAZからも同じような話聞いたことあるな。

浮かんでくる歌詞と理想のバンド像


ーーこれまでに「キーマカリーズはこういうバンドにしたい」ってメンバーに伝えたことはあったりするの?

だいせい:今までも伝えたことはないんですけど、自分の中で言わないように持ってたっていう感じですかね。なんでしょうね、絶対に拒否されるだろうなと思ったんで。

ーー自分の中では掲げていたけど、外にはそれを出していなかったと。

だいせい:もっと歌っぽい・・・メロディーがあって、間奏があって・・・っていうものを結成当初はイメージしてました。でもそれが全然作れないし出来なくて、ああいう感じの音になりました。今やっとそれが少しはバンドとして表現できるようになってきたかなと思うんで、個人的には「こういうバンドがやりたかった」っていう原点に戻ってきた感覚です。観に行ってたのが、しんたろーさんがやってたロンリーとかその周りでやっているようなバンドだったんで、そういうバンドにどこか憧れてた部分もあったと思うんですよね。それと同時にその人達がやっているシーンの中で自分も同じように歌うのがどこか恥ずかしい・・・みたいなモードもあったかもしれません。THE FULL TEENZ、odd eyes、SANHOSE、sprintklubとかリンキーでやってた人らのライブをその当時はよく観てました。

しんたろー:一時期そんな感じのライブけっこう多かったな。キーマカリーズはそういうバンドたちのいいところをうまくバンドに取り入れててええなって思う。それでいて歌詞は「◯◯っぽい」っていうのがなくてオリジナルな感じがうらやましいなー。

ーーうんうん。それで言うと好きな作家とか本が気になってくるんだけど・・・

だいせい:ボク、ほとんど本読まないんですよ。漫画も読まんし、映画もほぼ観ない。だから知らない言葉が自分の中に入ってこないんで、歌詞にもわかりやすい言葉しか使えないんですけど。

ーーそうなんだ?じゃあどういうところから詞とか言葉を感じるんだろう。風景とか?それともメロディーから?

だいせい:なんやろ?洋楽とか英語の歌を聴いてると、言葉はわからなくてもなんとなく日本語の言葉が浮かんでくるんですよね。こういうこと歌ってるのかなって勝手に感じたことをメモって・・・。

ーー引き続き天才っぽいエピソード(笑)。

だいせい:キショいかもしれないですけど、ほんまなんですよ(笑)。気持ち込めて歌ってるのかなって思うと英語を聴いていたとしてもめちゃめちゃ言葉が浮かんでくるんです。それをメモって、音で揃えてまとめたものを歌詞にしてますね。

しんたろー:うわー、今度からそれ真似してみよー!

形に残すことへの強いこだわり


ーー今回のEPではそのあたりの手応えみたいなものは十分発揮できた感じ?

だいせい:1stの時は20秒で終わるような曲もざらで、頑張っても5、6行しか歌詞は書けなかったので、無理やり言葉を詰め込んで字余りみたいなものもありました。その点、今回は曲の尺が伸びて、言いたいことをちゃんと曲の中で言えるようになりましたね。

しんたろー:だいせいくんが歌詞で言いたいことってなんなん?

だいせい:え、言いたいことですか?恥ずいなー。うーん、バンドやりたくてもやれなかった時とか、毎日どうしようもなかった時とかあるじゃないですか。そういう時にずっと音楽だけを聴いてた。今すぐじゃなくても音源を残しておいたら何十年後とかにどこかの誰かが聴いてくれる可能性がある。少なからずその中のひとりでもおんなじ気持ちの人がいたとしたら、なんかいいなってわかってくれるかもしれない。そういう人に届いたらいいなって言う気持ちですね。

しんたろー:まじめやな~(笑)。間違ってないんだけど真正面から言われるとなんかこっちまで恥ずかしいな。

だいせい:CD-Rでもなんでも、残しておいたら、今の世の中ではめっちゃがんばったら大概どうにか手に入れることができるじゃないですか。だから「残す」っていうことは自分ではめっちゃ大事にしてますね。新曲も揃ってるし、今年大学も卒業してしまうのでそれまでに次の音源も絶対残したいなと。バンドでも、バンド以外の絵や織りとかそういう活動でも、自分がやってきたことは今のうちにしっかりと残しておきたいです。

ーーうん。自分たちのその時の空気や気持ちもそこに残すことで振り返れるし、それが人知れず誰かが何かを始めるふとしたきっかけになることだってあるしね。もちろん明日以降の自分自身に影響してくることだってあると思う。

だいせい:実際、自分は社会的に終わってるな・・・っていうことをしてしまうこともあるんですよ(笑)。それも歌詞にするとよくできる・・・いや、よくできるわけではないけど多少なりとも意味のあるものに昇華できることもあると思うので歌詞にしているところもあります。

画像22

だいせい:だからバンドももっと知ってほしいって気持ちはありますね。広げていきたいっていう感覚です。

変わり者とアクションの連鎖


しんたろー:その話で言うと最近その気持ちが自分は無くなってきてて。元々ボクがただその音源を欲しいからレーベルを始めてリリースしてきたから、極論で言えば1枚存在してくれればいいんよなー。もちろんせっかく出すなら知ってほしい、広がってほしいと思うし、そういう気持ちで続けてきたんやけど、最近はそのレーベルとしての野心みたいなものからどこか遠ざかっちゃって、当初の自分の気持ちに戻りつつある感じ。バンドが広がるに越したことはないっていうのはわかりつつ、もう音源は受注生産とかでもいいんじゃないかっていう感覚。

だいせい:自分も卒業が迫ってどこかあせってそういう気持ちになってるんですかね?そういう気持ちもわかるし、周りにも多いと思うんですけどね。

しんたろー:キーマカリーズはおもしろいバンドだし、自分のところでリリースしたいなっていう大前提の気持ちはありつつ、どこかネームバリューのあるところから出して、いろんなもの巻き込んで変なことになって盛り上がっていくのをワクワクしながら知っていきたいっていう気持ちもどこかにある(笑)。とにかくなんかびっくりしてドキドキできることを求めてて。今はこんな世の中で配信ライブが増えてきたし普通にみんなやってるけど、次は誰がどんな風におもしろい動きを起こすんかなーって思ってる。十三月はライブハウスの屋上で野菜を育て始めたけど、他にそんなおもしろい感覚でなにかやってる人たちあんまり思いつかんもんなー。

ーーここ数年の十三月やGEZAN周辺の革新的でおもしろいアクションは多くの人に認知されて音楽とその周辺のところに影響していったのは確かだよね。特に自分たちの周りは。そこではない別の新たな流れもそろそろどこかから出てきそうだなって感じている。

だいせい:しんたろーさんのロードトリップも若干そういうところあるんじゃないんですか?

しんたろー:いやー特になにもできてないよ。

だいせい:特に何もなく、こんな時期に2ヶ月連続で淡々と7inchリリースしてるのってめっちゃかっこいいと思いますけどね(笑)!

しんたろー:ははは(笑)。SNSでも普段そんなにいろんなこと呟かんからさ、「ニューリリース!ニューリリース!」ってバカみたいに投稿してて気まずいもんな。世の中で起こってることを何も知らない人だと思われてる可能性もある(笑)。

ーーそういうことに気づいたり、おもしろがってくれる変わり者が連鎖していくと、きっとまたどこかでなにかワクワクすることが生まれそうだけどね。

しんたろー:そうやな。そういう人たちにちゃんとリリースした音源が届いてくれればそれでええからな~。

だいせい:うん。傍から見たらどうでもないことでも、誰かにとってはめっちゃヤバいことかもしれないですもんね。

バンドを始めたくなるようなバンドって

だいせい:しんたろーさんの世代の人達ってバンドやってる人多くないですか?うまく言えないですけどそのみんなと同じような感じでバンドをやってる人たちが、ボクと同じ世代では全国的に見ても圧倒的に少ないなって思うんですよ。

しんたろー:そうかもしれんな。同い年のバンドって誰がいる?

だいせい:パンクとかハードコアって考えるとあんまり思いつかないです。今回のEPでボクらのアー写やMVを撮ってくれた湧がやってるMarie Louiseとか、歳が近いのはSEAPOOL、The Original Mixed-Up Kidsをやっていた山内くんとか、マッハエスカルゴもボク的には同世代の感覚でした。あ、PATROLTIMEとかmoreruも若いですね。

しんたろー:そうなると近いところではキーマカリーズは飛び抜けて若い感じよな。

だいせい:まだそんな印象ですよね(笑)?もうバンドは7年目なんですけどね。なんでこんなにバンド少ないんやろ。

しんたろー:年齢をあまり気にしてこなかったからかもしれんけど、確かに少ないんかもな。ボクらや少し上の世代はハイスタとかゴイステみたいなバンドを聴いて、なんかバンドしたくなったっていう人多そうやけど、今ってバンドを始めたくなるようなバンドがあんまおらんのかも。GEZANとか見ても凄すぎて、あれを見てバンド始めようとはならん気がするな(笑)。衝動に駆られるというよりはただただ圧倒されてしまうんちゃうかな。

「何回も言うけど、うらやましいんよ、ボクは。キーマカリーズのことが」

しんたろー:これからどうなっていくんやろうなー。

だいせい:このコロナの影響がある暮らしになってから、それまで織りやって、大学で授業受けて、バンドやって、バイトして・・・っていう朝から夜中まで詰まった生活が一切無くなったんですよね。そんな時に、「別に人ってなんもせんでもええんやな」って気づけて。それはなんか嬉しかったです。

※後日、個人的にはこの感覚もどことなく腑に落ちた。とある人がコラムで書いていたこと、ロスカルドラム30時間の際にGEZANのマヒトくんが語っていたこと、それ以外にも同じ感覚で捉えたものがありました。切迫した状況に心が駆られがちだけど、何も生み出さないような時間にも意味はあると。

ーー今後コロナとそれによる変化で今までの暮らしは当たり前じゃなくなって、世の中も生活も確実に変わっていくよね。

しんたろー:そういう意味でも今回のEPの「暮らす」っていう曲の意味合いが問われている気がしてるわ。

だいせい:以前からあった曲なのに時代にマッチしていく感じ。そういうのがすごい好きなんですよね。不思議ですけど。

しんたろー:キーマカリーズはいろんな引用をしていても、それをちゃんと自分たちのものにしていたり不思議な説得力があるんよな。そんなバンドを幼馴染とやってることもうらやましい。嫉妬してしまう!!

だいせい:バンドをやりたくても全然うまいこといかない人もたくさんいるのもわかってるんで、バンドをやれて、しかも幼馴染とやれてるのは、ほんまはそれだけで十分っていうこともわかってるんですけどね。

しんたろー:その3人の独特の空気みたいなものもあるし、なんだかんだずっと仲良いしな。

だいせい:それがバンドの妨げになることも多いですけどね(笑)。

画像23

「淡い生活、明るい進歩」


ーー最後になるけど、今回のタイトル、すごくいいなって思ったよ。「Pele lives , Bright progress」。

ゴツローがなんかpaleなんちゃらっていうシューゲイザーのバンドが好きなんですよ。そこからつけたっていうのもひとつあります。

だいせい:特に意識はしてなかったけど、「暮らす」「透明」の2曲を英訳したみたいなタイトルでもあるなってことに気づいたんです。

ーー直訳したら「淡い生活、明るい進歩」って意味になるんだね。今回の2曲をうまく表してる気がする。

だいせい:さっき名前を挙げた山内くんっていう友達が亡くなってしまったんですけど、残していた遺書みたいなものに「自殺するってことも、自分では明るい決断だと思う」って書いてあったんです。ずっとそれがボクの頭の中に居座ってたんで、”Bright progress”っていうのはそれを英訳したつもりです。

しんたろー:だいせいくん、一時期そのことがずっと頭の中で引っかかってたもんな。

だいせい:そうですね。山内くんが死ぬなんて思ってなかったし、彼ももっとバンドをめっちゃやりたいとか、ボクと一緒に展示もやってみたいとかそういうことばっかり話してた。でも実際は全然思うようには活動できてなくて。そんな山内くんの思っていることをボクが自分なりに勝手に歌っている曲があるんです。改めてその歌詞を読むと、全部わかってたみたいなことがあった。こういうことってほんまにあるんだなって思いましたね。今回収録されている曲には山内くんのことは直接関係はないんですけど、そういうできごともあって、タイトルにこの言葉を使いたいなって。

しんたろー:その事自体は悲しい出来事やけど、湿っぽいだけじゃなくて暮らしていく中で前に向けて進んでいく作品にもなってるしな。ほんま良い音源ができたと思ってるからリリースできて嬉しい!

だいせい:しんたろーさんがやっほーで「最高の週末」って歌ってたり、CLASSROOMが「退屈なウェンズデー」って歌っている曲も音源になってないので勝手に言葉を借りて使ってしまった。解散するなんて思ってなかったけど「友達の歌」って言ってるのもマッハエスカルゴのことだし。なんでかって言うとほんまに音源とか形に残してほしいっていう欲がボクは強すぎるんですよ。山内くんもバンドをもっとやりたいって言ってたのに、思うようにできないままいなくなってしまったし。

しんたろー:ええやん!・・・そんなんなんぼあってもいいですからね(角刈り)。ボクもだいせいくんに自分の歌詞を使ってもらったなら、少しだけ認められたような気分よ!みんなもきっと嬉しいはず。

だいせい:ははは(笑)。

ーー自分たちがなにか良いものを作ろう・かっこいいものを出そうって思った時に、気にかけてくれたり頭をよぎったりしてくれたんなら、その人は絶対嬉しいし、励みになるよね。

だいせい:今日は色々まじめに話しすぎたかなっては思うんですけど、曲を聴いて歌詞を読んでそれぞれになにか思ってくれたらそれだけで嬉しいです。

しんたろー:ここにきてめちゃめちゃ当たり障りのない発言(笑)。

ーーじゃあ締めとして(笑)。キーマカリーズらしさみたいなものって自分ではどんなところだと思う?

だいせい:なんですかね。他のものにも手を出したり、やりたいと思うことは限りなくあると思うんですけど、今このボクら4人でやれることを偽り無くできる限り精一杯やっているのが自分らなのかなって思いますね。

しんたろー:100点の答えやな。

だいせい:なんか用意してたみたいになるじゃないですか、止めてくださいよー(笑)。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?