■2015年J2:第8節ヴェルディ戦~こんにち(2015/05/30)までの考察(前)

●磐田2015(5月期迄)のメカニズムについて

・試合を重ね、落とし込まれているものがおおまかながら見えてきましたので、現在のチームのメカニズムについて、基本的なもののみですがまとめてみます。

・こちらを基盤にしまして第8節ヴェルディ戦以降の状況を概観していくことで、現在のチームが露呈している問題を明らかにしつつ、今後の展望を妄想してみたいとおもいます

・まずは各員に割り当てられている基本タスクからまとめます。

★攻撃面での基本タスク

・前線の4人はおそらく自由に動いていいことになっていますが、トップ下がトレーラー~サイドに出る、SHが絞る、CFが降りる、SBが上がるなどは「(移動先が)空いたら行ってよし」という形で意思統一されてます。その範囲は状況(ボールの位置(横軸))によってある程度制限されてる模様(後述)。

★守備時の基本タスク

・見ての通り、DMFの仕事大杉・SHの担当エリアデカ杉という状況が見て取れます。トップ下がトランジション時にしばしば行方不明になる(トランジション前の状況でとった位置で停止していることが多い)のでSH・DMFのタスクはその場合のカバーも含みます。

・このことによる中央エリアの支配力の低下・不安定化については前回の総括でも大きな問題点として取り上げましたが、サポマガにて祐希自身が「吉くん(吉彰)とか松井さんが切替スイッチ入れるのうまいがおれはよくわからじ」「自分ではスイッチ入れられない・SHなどにうまく制限してもらえたら取りに行ける」といった趣旨の発言をしていることから、現状はチーム内でも「整理成長途上」ということで各種試行厨ということなのかな?と好意的に解釈しようと思えば解釈できなくもない、なくなくなくないなくなくないというようすであります。

★トランジションを考慮にいれた戦術的な狙い:

・個々のタスクが明確なれどかなり多いのですが、試合を観ている限りそれぞれのタスクはわりかし緊密に結びつけられていて、しくじった場合の原因が明確になるようになっており、「あとは練度次第」「だから信じてトレーニングしよう」といえるような状態ではあると見えます。

・次にこれらの基本タスクがどのようにリンケージしているか、ネガティブトランジションがどう考慮に入れられているかをみたいと思います。

1)中央エリアでボールを動かす場合(中央エリアにボールがある場合)

*破線は各選手の基本的な動き

・SHが絞り両SBを上げ、という中でDMFの一枚がボールの逃がしどころ・攻守転移時のカバー役として動きます。中央の4人は相互に空けたスペースを使いながら自由に動きます。中央エリアからボールを動かす場合は、図のようにチーム全体がワイドに広がりつつ、敵陣の至る所に味方がポジションしているという状況を作為しようとします。

・DMFはその流れの中に適時入り込んでリンク役をやったり、フリーランで相手のDMFやCBを釣ったりします。

・残ったDMFはそのDMFの空ける中央をカバーしつつ、両サイドに広がったCBの間で起点役をやり、ボールの動きに応じて左右に出てSBの裏のケアもやります。色んな仕事をやる必要があること、この位置からのショートパスによるビルドアップをチームとしてそれほど重視していないことなどからぴたりCB間に落ちていることはあまりなく、あちこちと動きます(なので2DMFとも、チーム戦術を理解し展開予測の出来る選手でないとつとまらない)。

・で、この展開をやっている時にボールを失った場合の対応。

・例としてアダのところでボールを失ったとします

・この場合はまずボールの逃がしどころとして前に出ているリンクマンDMFがボールの動きの頭を押さえに行きます。

・取られたSHはプレスバック。近くのSBがリンクマンDMFと協同出来ている場合は空いたSBのレーンをカバーすべく戻る。中央が空きそうであれば中央へ戻る(これは逆サイドのSHも同様)

・ボールサイドのCBはリンクマンDMFに連動してカバーリングポジション取りながらサイドのスペースケア(磐田のCBが、BOX幅からサイドに出ている時間がかなり多いのはこのタスクが要因)。

・もう一枚のDMFはリンクマンDMFのカバーしながらサイドにボール出された場合をにらんでボールサイドへ移動。

・アウトサイドのCBはそれらの動きに連動して中央へ絞る。

・アウトサイドのSBは同サイドのCBが空けたとこへ急いで戻る。

・磐田は自陣に攻め込まれた場合規定のポジションセットしてそこから人につける守備をしていて、相手の人の動きを見ながらこれらの動きをやり、空いたところのケアを各自で判断して行います(上述の通りどこをケアするかは一応決まっている)。なので、たとえばCBがサイドのケアに出っぱなしだがもう一枚のCBが人についていてその間に広大なスペースが生じる場合などは、そのレーンに居るDMFが戻ってそこをケアすることになっています。CB~CB間に入るボールをミヤがカットしているシーンがよく見られますが、あれはこういったメカニズムの中で生じているものです。

2)サイドからボールを動かす場合(サイドエリアにボールがある場合)

・サイドエリアに起点を作って攻撃を展開する場合。攻撃時も、全体的にボールサイドに寄せます。図では大外のDF外側に開いてますがもっと中央側に絞って居る場合も多いです。

・そのままサイドを攻めきるにしろ中央を使うにしろ、チームとしてボールサイドに寄せたプレーを志向しています。攻撃しながらも、ボールを失った場合の対応を強く意識しているのです。この形を維持すれば、ボールを失った場合でもそのままサイドエリアにボールを閉塞しやすく、閉塞できなくても相手にボールを戻させる守備にすぐに移行できるので。あくまで理論的には、ですが。

・で、この展開をやっている時にボールを失った場合の対応例を。

・そもそも自分たちがボールが動かすエリア自体を意図的に狭くしているため、ポジションバランスが崩れていなければプレッシングはより容易に、効率的に行えるようになっています。各員が行うべきタスクや動きについても、中央展開時で失ったケースと基本的に同じものが落とし込まれているので、動きが複雑に見えても選手達は混乱なく従事できていると思われます。

・今季は昨季に比べて今のところ、高い位置でボールを奪う・ボールの動きを阻害する守備ができています。データでもタックルラインを高く保てている(そして実際に奪えている)という結果が出ています。それができている理由はこのように、自分たちがボールを保持し/動かそうとしているエリアに即したタスク配分と組み合わせを作り上げ、攻守に一貫した動きを構成し、それに加えてラインをプッシュアップするサッカーができているからだといえます。

一般的な意味でのエリア(ゾーン)オリエンテッドでもなく、マンオリエンテッドでもなく、ボールオリエンテッドでもない、単純に気持ちサッカーというわけでもない、それらの要素を色々…というか都合のよいところを抜き出して組み合わせているような、なんかヘンなサッカーなんですが、DMFとSHに多くのタスク・広大なエリア監視業務を課し・かつ実行させることで今のところ成り立たせることができています。全体としてバランスを維持できるようになっているのに、ポジション毎のタスクの不均衡が相当にある、というのもヘンな感じです。普通、タスクの不均衡がこれだけあると全体的なバランスも不均衡になるので。

でも考えてみると、形は全然違いますがN-BOXも内部構造的にはこんなサッカーでした。名波は鈴木政一の方法論を人知れず受け継いでいるのでしょうか。それとも選手の個性をクラシックな意味で尊重する方針と組織性(このサッカーを組織的と称すべきかどうかはためらわれますが)の両立をとことん追い込むとこんな感じになるのかも。

・ただ、問題は多々あります。

★何が問題か?

・先に結論を書きます。今の磐田がやっているこのサッカーでは、中央エリアでの支配力の確立が非常に、非常に重要になります。攻撃では中央エリアでボールを効果的に保持して相手を動かせなければ中央でもサイドでもスペースを得れませんし、守備でも中央エリアで効果的なボール奪取・規制ができなければ相手に大きなチャンスを与えます(理由は後述します)。

ですが、現状そのような中央エリアでの支配力を攻守において確立できていません。そのことで様々な問題が表出しています。攻撃面はもちろん、相手チームにつけいる隙、とくにカウンターでの得点機会を多く与えています。

1)中央展開時の問題

・中央からボールを展開しようと意図する場合、すでに述べたようにピッチ全体に選手が広がってポジショニングし、SBが幅を取り、前線の4人が一定の決まり事に従ってローテーション(ポジションチェンジ)しながら動きます。

・相手の距離を広げるために自分たちも広がっていくのですが、まずここで問題が出ます。

【攻撃面】

・攻撃面では、トップ下(もしくはトップ下の位置にローテーションしてくる選手)とリンクマンDMF、後方に残っているDMFとの距離が広がる・ローテーションのためここのトライアングルがコントロールしづらい、もしくはそもそも形成できないという問題が生じています。そのため、中央で効果的にボールを握ることができていません。

・中央で効果的にボールを握ることができていないため、ここで時間を作る(いわゆる溜め)、ここで時間を得て相手を動かすということができていません。

・本来はここで(中央で)主導権を握って相手を動かしながら起点を得、内側に絞っているSHと外側のSBへ自分たちの望むタイミングでボールを供給したいのですが、それができずにいます。これは、現在の磐田の攻撃が中央突破をあまり使えていないこと、サイド攻撃もなかなかスピードアップできず相手に対応の時間を与えてしまい、クロスを放り込めど放り込めど有意なシュートポイントを得れない、といった事情の大きな要因になっています。

・中央で時間とタイミングを得れない、というのはトランジション時に効果的なスピードでSHを走らせることができないことにもつながっています。カウンターにスピーディに移行できないのです。最近、アダや吉彰を用いたカウンターができていない理由のひとつです。

【守備面】

・ボールを失ったときの動きは上述したとおり決まっているのですが、前方の選手間の距離が開いていること、およびボールの前に人が出すぎていることなどから、ボールロストした場合、リンク&カバー役のDMF一枚がボールの頭を押さえることに失敗したらプレスバックなどのサポートが間に合わなくなります。このDMFに与えられているDMF、後ろに残っているDMFのタスクが多いので、しばしばそのような事態が発生しています。上記攻撃面でも指摘したとおり、トップ下とのトライアングル制御も整備されていないので、その関係性で中央を閉塞することも効果的にできていません。

・そのため、ここでボールを失うorボールを規制できないと、図のように相手に広大なスペース、コースを与えることになります。

2)サイド展開時の問題

【攻撃面】

・この形でビルドアップしている時は、比較的チャンスが多く生まれています。図でもわかるように、トレーラーゾーンに位置した祐希を中心にボールに対し関われる人員・パスコースを多く得ることができていて、ボールを回せるため相手を動かすことができ、時間もタイミングも得ることができるのです。千葉戦のボッサンのゴールに至るプロセスなどは好例。

・この形が効果的なのは、主客両面の理由があります。中央展開のケースで難しいパスワークで時間を作りタイミングを得るというのがやりやすいこと、相手からすれば磐田の攻撃をサイドに追い込んでいる形(ボールを取るために意図している形)なので、逆に自分たち(磐田側)の行動で相手を動かしやすい、などがその理由となります。なので、最近の磐田の効果的な攻撃はこの形からのものが多くなっています。

・問題は、逆サイドのSHが本来のトップ下の位置まで絞っているので、ここでボールを奪えた直後にオープンスペースを用いたワイドカウンターに移行しづらいこと。相手はサイド閉塞に来ているので、主なターゲットとなる祐希や駒野、アダから直接サイドチェンジすることは難しい。リンクマンDMFに落としてそこからサイドチェンジしたいところですが、どうも見ている限りそのような仕組みがないようで、そのようなシーンは全くといって良いほどありません。

・プレーメークユニットであるはずの祐希・康太・ミヤがこのシークエンスからボールを回収して素早くサイドチェンジをするための仕組みがないことも、アダや吉彰が走るカウンター状況を作りづらくなっている大きな理由になっています。

【守備面】

・守備面の問題もまた中央展開時のそれと共通しています。リンク&カバーのDMFを外される・彼が関与しづらいところでボールを失った場合、後方に広がる大きなスペースを防護するすべがなくなります。

・中央展開時もですが、このサイド展開のケースでは、トップ下のプレスバック不足やボールロスト時の瞬時の守備移行の遅さが特に問題になります。カバー役のDMFと連動して敵のボールホルダー(カウンター移行の起点となるパサーであることが多い)を挟み込んでプレッシングをかける、という行動に復元性を期待できなくなるからです。トップ下個人の問題だけでなく、トップ下と2DMFのトライアングルをこういったトランジションシークエンスでどう機能させるか、という仕組みがないことが問題です。現状、カバー役のDMFが行って外されたら後方のDMFが行くしか!程度のケーススタディしかないのですから。

●まとめ

・前に人数をかけ(ボールの前に人を多く進出させる)、中央の支配力に依存するサッカーをやっている、しかも中央の支配力(トップ下+2DMFトライアングルの機能性)は全く高まっていない。なので効果的な攻撃もカウンターもできず、守備でもカウンターの起点をうまく規制できず、効果的なカウンターを受けている。磐田の現状はそうまとめることができるでしょう。

・特に中央展開時・サイド展開時双方の守備面での問題をみると、カウンター移行時に磐田の2CB+1DMFに対し数的同数を得れるチーム(例えば1トップ2シャドーやインサイドハーフを配しているチームなど)に苦杯を喫しているのは、偶然ではないことがわかります。そういった仕組みを持っている相手チームは概して、ここで分析したエリアでボールを奪い、トップ下+2DMFのトライアングルの守備面での機能不足で生まれるスペースを使ってスピードアップし、広大に広がるDFライン後方のスペースを活用しようとしてます。

・讃岐戦もそうでしたし、岡山戦も大宮戦もそうでした。惨敗といえる札幌戦などはまさにそのような戦況でした。まだ子細に検分していませんが、先日の群馬戦もそうだった可能性があります。徳島は4141でインサイドハーフのトランジション能力を最大限に活用するチームですし、名将小林監督は必ずやこの磐田の問題点を突いてくると思われます。

以上を踏まえつつ第8節ヴェルディ戦以降の試合を概観し今後の展望を考えてみたいと思います……が、力尽きましたので、そちらは後編で……

*ヴェルディ戦以前の状況検分は以下。ここで述べた、チームとしての全体の動きをふくめた被カウンターへの脆弱構造にもすでに言及していました。

https://note.mu/500zoo/n/n47085337116c

*徳島戦はSHを吉彰→松井にしてくるかも……と思っています。理由は、松井であればSHのタスクを行いつつ、手薄になりがちな中央エリアへのサポート(DMFと適切なトライアングルを形成して起点を作りやすく、プレスバックなどもしやすくする)を効果的にできるからです。しっかりとした状況判断ができるので。現状の問題点を、基本的なやり方を変えずに隠すことができる方法のひとつではないかと。問題は、90分走れない可能性が高いことですが……。

                                 以上

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