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Reframe2019解題

■はじめに

●”We are Perfume”という構想

 PerfumeとMIKIKO先生(以下MIKIKO)が、そのライヴヒストリーの中で表現することを追求してきたテーマがいくつかあります。

 そのうち、ごく初期からメンバーによって言葉にもされてきた(「Perfumeは、(観客含めた)みーんなでPerfume」あ~ちゃんの言葉)し、ドキュメンタリー映画のタイトルにもされた、プリミティブでそれゆえに本質的なテーマ、それが、観客とPerfumeの一体性を目指す”We are Perfume”。

 もとより、Perfumeのライヴの類を見ない特徴のひとつでありおびただしい数のリピーターを生み出してきた理由のひとつに「Perfumeの3人とMIKIKOの演出によって生み出される、人間的な(暖かみのある)一体感」があります。「多幸感」(これ自体は用語・用法としては間違いですが)とよく称されるあれです。

 Perfumeのライヴは、特異で特別です。音楽自体はミニマルで機械的なもので、パフォーマンスも情報量が詰め込まれておりインテンシティが非常に高い。また、演出含めて先鋭的なクリエイティブを観ることができます。ともすればハイブロウでハイコンテクストで、ユニークであるが故に人を寄せ付けない、良い意味でも悪い意味でも孤高、カリスマ性につながりかねない内容で満たされていますが、にもかかわらず彼女たちのライヴでは極めて親密な、人間的な一体感が体験できます。それがPerfumeの「振り幅の大きさ」、そのダイナミズムの中で表現されるただごとでない肯定性が「多幸感」と評されてきました。

 Perfumeじしん、サンストリート亀戸や秋葉原で活動していた頃から、観客を巻き込むこと、親密さ、一体感をうみだすことに試行錯誤を重ねてきておりGAME~2009代々木~直覚二等辺三角形のブレイク期には既に、万単位の観客との一体性を自らのパフォーマンス、トークを通じて演出するステージングの達人に、若くしてなっていました。
 ”We are Perfume”のテーマ化や追求は、初期から示されていた3人の表現者としての長所、特質、願いを演出として汲むかたちではじまったのかもしれません。それとは別個の創意工夫からはじまったことが、いつしかそのテーマと結びついたのかもしれません。

 ともあれ、先日LINE CUBE SHIBUYAのこけら落としとして8公演にわたり行われたデジタルインスタレーションショウ、Reframe2019は”We are Perfume”をめぐるPerfumeとMIKIKOのこれまでの挑戦の中でも、最も力強く、最も成功した作品となりました。

本稿では、

解題01:Reframe2019本編

解題02:MIKIKOのPerfumeワークス回顧

以上2章立てで、Reframe2019の成果とそこに至るMIKIKOとPerfumeの、試行錯誤の歴史を振り返ることで、”We are Perfume”ににじり寄ってきた彼女たちの仕事を総括・立体化することを試みます。

2019/10/29現在ではまず解題01:Reframe2019本編をアップ。そののち、解題02を順次アップしていきます。本編映像の解禁、技術情報の更新など新たな情報が得られる毎に加筆修正していく予定です。

(前回Reframe2018の解題については、こちら)

■解題01:Reframe2019本編

●Scene 1:Recollect(Reframe2019 ver)

 Perfumeの3人それぞれの過去映像をマッシュアップし、はじまりと歴史のプレリュード的に総括を行うOPシークエンス。一部映像ブラッシュアップ、内容は基本的に2018年版を踏襲しています。

 広島でのインディーズデビュー前に収録された番組で、初々しい反省や希望を語る3人の311後の言葉を交えながら、JPNツアーの中核となったJPNスペシャルで決然と置かれた言葉「わたしたちにできること」が置かれていきます。

 舞台全体の性格を規定する、モニターフレームが提示されますが、前回(Reframe2018)とこの舞台装置とその構造レベルで既に志向が異なりまることが見て取れます。詳細は次項にて。

●M1:DISPLAY(Reframe2019 ver)

 ここでは、Reframe2018と異なる奥行きの表現が試みられています。前回(以下画像上)はプロジェクションBOXの組み合わせで作られた1枚の巨大なプロジェクションスクリーンに疑似3Dの映像を投影する形でしたが、
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 2019年版(下画像)では、緞帳+自走式LED+オブジェクトプロジェクション+舞台最奥の大LEDパネルを組み合わせ、消失点にむけて描写を分担。疑似3D映像としてのみ表現される疑似的な奥行きではなく、リアルの奥行きを援用しながら、立体性を強調するという形で、リアルと疑似をシームレスに融合させて、より現実味のある奥行き表現を獲得しています。奥へ奥へと視覚が誘い込まれるような演出、という意味では同じですが、クオリティ、リアリティは大きく向上。さらに、その奥行きを分解して視差効果や視覚を揺らそう、という意図がはじめからあり、それが行いやすい装置の構造を手に入れていることがこの後の展開で明らかになっていきます。観客の視覚を騙す、揺らす技法そのものが、MIKIKOが2008年から得意技としているものですが、この表現上の概念(疑似とリアル)や装置の組み合わせの提示、その分解と別の効果への展開が、このReframe2019のステージ構造、ストーリーメイク、演出意図を特徴付けることになります。

 またここでは2018年版と同じく、これら舞台装置との組み合わせで、モニターフレームの中のできごと、ディスプレイ(モニターフレーム)の中の少女達というモチーフ、そこへ入っていく観客(とPerfume)という複合的なステートメントが前置きされています。

●Scene 3: Record(Reframe2019 ver)
●Scene 4: Koe – Interlude

●M2: VOICE(冒頭アカペラ)

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 2018年版では、ヤスタカBOX(中田ヤスタカのスタジオにあった録音ブース。歌い手はそこに入って個別に録音する。今は違う形になっているらしい)のくだりから、アカペラを挟んだButterflyに展開していました。今回はVOICE。同曲は2010年の初東京ドーム直前にリリースされたシングルです(東京ドームでは、あの壮大なステートメント”Perfumeの掟”の直後に歌われています)。以下記すように、このチョイスには意味があり、その意味が2019版のストーリーメイクを文芸面で方向付けています。

 2018年版では、Perfumeは拘束具を含んだ衣装をまといステージに登場します(以下図参照)。

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 この拘束具は、アイドルとしてこうあるべき・こうありたいという先入見や自意識など、Perfumeの3人をそのキャリア初期において縛り付けてきた様々なものの象徴と思われますが、2018年版ではヤスタカBOXに閉じ込められた状況+拘束具から自由になる……メンタルセットの変換の象徴としてButterflyを歌い踊りました(Butterflyを踊る段階で、拘束具が取れる)。アカペラも、3人それぞれに歌割したものを歌っています。MIKIKO先生が「感謝するということの真の意味を知ってからブレイクできて良かった」と言って指していたのがおそらくこの時期、(GAME期)というインサイドストーリーを反映していたと思われます。

 対して、2019年版ははじめから拘束具無しの衣装で登場(2018年版では第二段階にあたる<装飾に守られたPerfume>)。ヤスタカBOX内での表現も、2018版で意図的に演じてられていた硬さ、混乱、やらされてる感を薄れさせたものになっています。3人の録音ブースのレイアウトも、それぞれが孤立し、不安感・孤独感を強調していた2018年版(以下:上図)とは異なり、Perfumeの観客にはなじみ深い、安定したトライアングルのフォーメーションを組んでいます(以下:下図)。

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 キャリア的にも経験的にも、既に自意識から解放され自分たちを正しく規定し、堂に入った存在、だが初の東京ドームにchallengeする時期のPerfume。という位置づけなのでしょう。

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 Butterflyと同じく、VOICEはアカペラから歌われ始めます。あ〜ちゃんリードのあと、かしゆか、のっちのユニゾンが続きます。 元々VOICEはフルユニゾン曲だということもありますが、歌詞を検討し、また”We are Perfume”の原型であろう「PerfumeはみんなでPerfume」という呼びかけが、あ~ちゃんの口から発せられていたことを考えると、このあ〜ちゃんリードからのユニゾンにも意味があるようです。

★”VOICE”歌詞(アカペラ部分)

点と点をつなげてこ
Everyhingを合わせてこ

線と線をつなげてこ
Everyhingを合わせてこ

 何よりこの歌詞こそが、Reframe全体のみならず今回のテーマも直接的に表しているといえるでしょう。点と点、それをつなぐ線と線とは何か?
 2018年版でもほのめかされていた、三角形=トライアングル(西脇、樫野、大本)ではなく四角形=スクエアへのReframe(フレームのやり直し)。4つ目の頂点(点)=あなた(観客)、をPerfumeとつなげる形象こそが四角形(スクエア)であり、Reframeというステージのコンセプトには、<Perfume>をシンボリックに表象してきた三角形(トライアングル)の再定義であるという主張も含まれてきましたし、そのことが改めて強調されているといえます。

 表現者としての自由を逆に奪ってしまう先入見や自意識から解放され、自分(Perfume)とあなた(観客)という点をつなげ、そこで描かれる線をもっともっとつなげていこう……これは「Perfumeは、”We are Perfume”のテーゼを語りうる境地にいま立っているという、2018年Reframeから一歩進んだ段階から今回のストーリーを語り起こそう」という宣言でもあります。

●Scene 5: Pose – Analysis
●Scene 6: Pose – Perspective

 ”We are Perfume”テーゼの提示、VOICEの歌詞による強調から、VOICEの振りを観客有志が演じたものをマッシュアップするシークエンスに移行していきます。それら無数の観客のポーズが細分化されていき、データ化し散らばった宇宙の中で、シティから各時期ごとに代表的なシングルタイトルを読み上げつつそれら楽曲のコレオグラフィにおける特徴的なポージングを3人が決めていくという、Reframe2019屈指のインパクトあるシークエンスが展開します。
 このシークエンスでは、Photogrammetryと呼ばれる、ゲーム開発でも使われている技術が援用されています。Photogrammetryは、現実に存在するオブジェクトを撮影した複数の写真を素材に、高品質な3Dモデリングを自動的に行う技術で、代表的なゲーム開発ツールであるUnityにも実装されているものです(簡単にいうと2D素材である写真が十分な枚数あれば、見えていない部分をプログラムが生成して、ゲーム内でぐりぐり使える品質の3Dモデルを自動的に作ってくれる)。

 ここではおそらく、リアルタイムにそれぞれのポーズのデータ(2D)を取り、彼女たちのポージングを360度から観られる3Dモデルをリアルタイム生成しているのではと思われますが、その奇妙に生々しいPerfumeの名ポージングの数々がバックのLEDパネル全面使って、ぐるんぐるんと回転しながら映し出されていきます。

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 このバックの360度モデリングされた映像は(Perfumeなのだから当たり前ですが)非常に惹きつけられるできばえで、観ているだけでも観客は視覚の疑似的な回転を覚えます(そのように演出されています)が、舞台中央の位置を動かず、精密にフォーメーション、ポーズを変えていくリアルPerfumeとの関係で観客の視野はさらに幻惑されていきます。リアルPerfumeがほぼ中央にピン止めされていることで、視野の位相のぐらつきが強調されるようになっているのです。この「視覚の動揺、位相の幻惑」は、この時点ではそういう視覚演出の一環でしかありませんが、Reframe2019のステージ全体を通し、その効果の蓄積が伏線として重要になっていきます。文芸的には、観客のVOICEポーズ学習連打とPerfumeのポーズ連打の並置が、”We are Perfume”テーゼを打ち出す伏線のひとつになっています。

 2019年版で極めて印象的なパフォーマンスである、このPose-Perspectiveからはまた別の、重要な興趣を生み出していました(最初の2曲から予告されていたこのステージの「エモさ」を観客が本格的に感じ始めるのは、概ねここからではないかと思われます)。

 「各楽曲の記憶」「各楽曲におけるMIKIKOの強力な創意」「身体操作の基礎を高いレベルで修めたPerfumeの美しい、確固とした身体性」それらが重ね合わされた結晶としての「Perfumeのポーズ」。
 それがモンタージュのようにつなげられていくことで、観客の心の中にクレショフ効果に似たものが生まれているのです。

*クレショフ効果

 無表情で無機的なPerfumeのイメージが、上記した要素の重ね合わせを伴いながらつなげられていくことで、観客それぞれがそれぞれの楽曲に感じる
Perfumeへの思い入れまでもがモンタージュされ、それぞれ異なりながらも方向性を一つにする感情が引き出され、掻き立てられていくようになっているのです。

 2018では比較的抽象化されていた「Perfumeの身体性」を具体的に、量的にも質的にも強調し、観客に強く実感させ感情的な反応すら引き出すこのシークエンスによって、VOICEの時点でほのめかされていた、2019年版は2018年版と全く異なるストーリーメイクが展開する、というのが強調されてもいます。

 2018年版はストーリー全体、身体性が巧妙に抽象化されていたことにより、モニターの中に入っていった少女達(アイドル)の物語=Perfumeの物語も抽象化可能な枠組みに移行可能(Re:frame)になっており、彼女たちがうみだしたロールモデルを引き継いでいく少女達の物語が連なっていくのかも……という再帰性を演出できるようになっていました。

 ですが、今回はPerfumeの唯一無二の身体性を強調する(まさにこのシークエンスがそうであるように、視覚が揺れる中心に、身じろがぬ確固たるものとして置くことで)ことで、「これはPerfumeの物語です」ということが決定的に強調されるようになっています。

 勿論、この強調の狙いはPerfumeそれ自体のアイデンティティー、エゴイズムの表象にあるのではありません。Pose-Perspectiveより前に「観客達の身体」が置かれていることからもわかるように、ここでいう「Perfumeの物語」はPerfumeというグループの物語ではなく、Perfumeというグループと、彼女たちと共にある観客を含んだ物語なのだということがほのめかされています。そして実際に、ポージングをモンタージュするこのシークエンス自体が、Perfumeに対する観客個々の記憶や思い入れを引き出す=Perfumeのやってきたこと(「私たちにできること」)と観客個人個人とのつながりを思い起こさせるものになっているわけです。三角形→四角形へのReframe、VOICEが示していた主題が、明確な表現を伴って展開していきます。

 今回は個々に効果や意味性が異なるTECHを編集・構成してストーリーメイクしていくのではなく、MIKIKOが本来得意としているこのような、一種古典的な視差効果や錯視、視線誘導を演目通じ全面的に用いており、この効果の蓄積自体が、終盤の演出を特別なものにするストーリーメイクの役割を果たしています。

●Scene 7: Body – Analysis

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 観客のポーズデータとPerfumeのポーズデータを並置するというフェイズから、ELEVENPLAYの公演"Discreet figures"でも使われていたリアルタイムに撮影されたデータから、リアルタイムモデリングを行い画面に出力し撮影されている画像とリアルタイムに重ね合わせていく、という演出に展開していきます。対象となるのっちだけでなく観客席も同時にモデリング(これはリアルタイムではなく用意されているものでしょうが)し、あ~ちゃんとかしゆかが手に持つカメラを観客席に向けることでこれらをワンショットに収める(重ね合わせる)ことで、"We are Perfume"のテーマを具体的に(ベタに)視覚化するシークエンスにもなっています。

●M3: FUSION
●M4: edge

 そこから、舞台は文字通りのFUSION(わたし(Perfume)とFUSION)になだれこんでいきます。FUSIONシルエットと共に観客の視覚が物理的にぶん回されます。複数の自走式LEDパネルとバックLEDの組み合わせを最大限に用いて、手前から奥へ、奥から手前へ、変幻自在のシルエットPerfumeを基盤に視覚的な回転効果を追加していき、観客の視野、位相をさらに揺らしていくシークエンスになっています。続けて、新演出edge。開幕のdisplayからの視差効果モチーフ、奥→手前、手前→奥、回転をここで全て盛り込み観客の視覚的位相をFUSIONさせ、遠心分離するかのように周縁化していきます。

 こでは「ワタシ(Perfume)」と「あなた(観客)」は融合していくがそれがただちに”We are Perfume”の肯定性には至らない、混乱、不穏、突き放しを表現しているともいえます。新演出edgeラストで描かれる図形がReframeの文脈で描かれるべき「四角形」ではなく、従前通りの「三角形」であることからも、それが伺えます。FUSIONやedgeの楽曲そのものが元々もっている不穏さ、鋭さもうまく働いているといえるでしょう。

 結末を先取りして言えば、その「位相の混乱がもたらす不穏」が、最終的にChallengerで表現される確固たる位相、明るく前向きな感情に収斂していきます。「夜明け前が一番暗いが、そこを越えれば光が見える」的なダイナミズムをReframe2019全体に与え、その肯定性を最大限に際立たせる為に、このFUSION-edgeは極めて重要なシークエンスだと言えるでしょう。

●Scene 8: Kiseki – Visualization

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 過去ライブの総括マッシュアップ。ポージングではなく統一されたテンポで本来異なるテンポの各ライブ、ツアー時期の代表的パフォーマンスをつなげていきます。バックの楽曲マッシュアップにリアルPerfumeのパフォーマンスが同期する(楽曲の遷移に寸分違わずフォーメーション、パフォーマンスを併せていく)とくにハイテンポな楽曲が他の楽曲に淀みなく接続されるためスローになるところも、ふいにPerfumeの動きがそれにシンクロしてスローになる(だいじょばない)など、ここでもPerfumeの唯一無二の圧倒的な身体性が強調され、それを観客が否応なしに感じ取れるように構成・演出されています。
 そして、これら各時期のPerfumeモデルが、モデリングされた観客席を埋め尽くしていきます。

●M5:シークレットシークレット(Reframe2019 ver)
●Scene 9: Lylic Analysis

 シークレットシークレット→壊れ→2018年版にもあった歌詞機械学習抽出マッシュアップからの、エレクトロワールドではなく今度は無限未来。

 「未来は今」を高らかに歌い上げるアンセムであったエレワではなく、不可知の存在としてまだ見ぬ「未来」そのものに向かい合おう、洞察しようという無限未来にチェンジしていること自体が今回のストーリーに沿ったものだといえます。

●M6:無限未来

 ここでPerfumeは、純白の衣装(Perfumeの勝負色)に衣替えします。2018年版では、この色の衣装は選ばれていませんでした。その段階に到達するストーリーではなかったから、というのが主な理由でしょう。

 イントロが延伸されオリジナルのパフォーマンスが付け加えられる、というのは2018年版と同じですが、手にしたフレームの中に人々の思いを受け取っていくPerfume、からのそのエネルギーを背に未来へ、という流れだった前回と異なり、今回のPerfumeは、オリジナルのダンスを自由に、華麗に踊ります。その晴れやかさ、美しさは、2018年版と異なる趣のエネルギーが……背中を押すのではなく、まるでPerfumeと共にそこに漂っているような印象を観る者に与えます。彼女たちと共に踊るリアルタイム追従レーザーライトも、これまでのものより透過性が強く、そのPerfumeの美しさ、喜びを的確に描写しています。

●M7:Dream Land

 サイドから送風を受ける半透明の緞帳が2列中空に下りてきて、オーロラを表現します。その下に現われたPerfumeが、夢の世界(歴史=過去)のひとまずの終わり(区切り)を歌う幻想的な光景。

 夢の世界から誰かの手を取り外に出る、という同曲のモチーフをこのステージの文脈……夢の世界のひとまずの終わり(区切り)……に置き換えています。ゆらゆらとゆらめくアナログのオーロラ、観客が感じる寄る辺なき浮遊感。この場合の夢の世界って?外に出るが、どう出るのか、誰と出るのか?という謎かけしつつ、本編は一旦ここで幕を閉じます。

 2013年のLEVEL3ドーム公演では、この歌を歌ったPerfumeは観客に背を向け、LEVEL3スフィアの中に消えていきました。それは端的に「ショウの終わり」の表現であり、その方向性で歌詞を解釈していました。Reframe2019では、この曲の後、全編の最後にくる次の曲と演出によって、2013年のものとは全く違う意味が生じるようになっています。また、ここにきて驚くほどアナログでベーシックな表現が突然現われますが、この「技法の位相変換」もまた、次の曲の演出とその意味内容を先触れする役割を果たしています。

●M8: Challenger(Reframe2019 ver)

 Dream Landでいったんおりた幕の向こう側から、Challengerの前奏がきこえてきます。前奏が終わり、すぐに歌がはじまるのではなく、一瞬全てが沈黙する間が置かれます。

 そしてあの最初のコーラス……”We are Challenger”が歌われるタイミングで、ステージ両脇に設置された巨大ミラーボールが輝きだし、Perfumeと共に客席の「あなたたち(わたしたち)」をダイレクトに照らし出します。揺らされ続けてきた観客の視覚、浮遊感がここでふいに、そして完全に「Perfumeと共にある自分たち」「自分たちと共にあるPerfume」に凝集化され、固定化されます。一般的なライヴ演出効果の意味でも、Reframe2019のストーリー、視覚的ストーリーメイクに合致した意味でも、「Perfumeとあなたたち」「PerfumeはみんなでPerfume」のテーゼが、これ以上なく現実的に、明確に描写されます。

 2018年では、舞台全体を覆う具体的な枠として設置されていた「モニターフレーム」は、展開に応じて外れていくという差配を通して、「フレームの中の美少女がフレームの外のリアルに接続していく、踏み出していく」ことを表現していました。2019年版では、「モニターフレーム」は最後まで動かず、取り外されることはありません。それは「過去、歴史を客観視可能にするインタラクション装置」としてのフレーム、「Perfume(とあなた)の歴史」をDISPLAYする<額縁>だからです。

 ”We are Challenger”が鳴り響く瞬間まで、完全に未使用だった2つのミラーボールは、舞台の開幕から一貫して「モニターフレーム」の「外側」にあり、それが私たち観客にも見えていました(あえて隠していない)。この「外部」としてのミラーボールが、それが放つ具体的な、否定しようのない光が、輝きが「歴史と現在、未来をつなぐリアル」を表現する装置として使われ、過去・歴史のフレームを抱えたまま「We are Perfume、We are Challenger」のテーゼを現実化する、という仕掛けになっているのです。

 Reframe2019では、視覚的な動揺、浮遊がステージを通じて演出されてきました。それを観客の側も直感的に感じ文字通り幻惑されてきたからこそ、コントラスト効果によって、このシンプルな凝集の明快さが、まるでぼやけていた視野が一瞬にして焦点を結び、全てがはっきりと見えるようになるがごとく、圧倒的な説得力をもって胸に迫るようになっています。同時に、幻惑の感覚の中でほのめかされ感じられてきたPerfumeの歴史と観客の関係性という観念がここで明瞭に、物理的に視覚化されもするのです。そういった全てを動員した合わせ技で、共に歩んできた歴史=過去を共に抱え、そこに拘泥するのではなくそこから飛び出そう、共に未来へ向かおう!!
という強烈な、肯定的なメッセージが一挙に、あふれかえるように表現される、すさまじいエモーションがうまれるシークエンスになっています。

 そして最後に、”We are challenger”が改めて連呼されます。ここでいうWeとは”We are Perfume”のテーゼで彼女たちが表現してきたもの。その意味を踏まえてChallengerを歌うPerfumeとMIKIKOが、ぼくたちに切実に伝えたいものです。沈黙していたミラーボールが輝き、この歌の最初のラインを歌うPerfumeの声が聞こえた瞬間に、それは既に明らかでした。だからあの時、ぼくたちは、激しく肯定的な感情の奔流を自らの内に感じたし、涙したし、(立ち上がれなかったけれど、心の中で笑)立ち上がったんです。

 このReframe2019、このラストのChallengerによって、PerfumeとMIKIKOは彼女たちが積み重ねてきた、いかに”We are Perfume”を説得的に、実感的に描くか、伝えるか?という問いに、決定的な解答を創り上げることができたのではないでしょうか。

■解題02:MIKIKOのPerfumeワークス回顧

*以下執筆中

・2008年:OPのシティ(視線誘導壊れ)→edge(これは冒頭シークエンスにインパクトを与える位置づけ)

・遂にブレイクしたPerfumeの初武道館、という、観客側がこれ以上暖まれないくらいの期待感で暖まった中というシチュエーションを最大限に活用。
満を持して舞台奥に登場したPerfume(実はマネキン)に視線集中→そこから出島に視線誘導して、そこから本物のPerfume登場→コンピューターシティ
「Perfumeを観たい」という感情をガシッと掴み、ただ「騙す」のではなく、よりインパクトがあり客席に近い(観客にとって嬉しい)ところから
 本物のPerfumeが登場するという、ヒッチのいう感情の引き延ばしと爆発をわずかな要素を使って視覚的に設計。
 これはまた、Perfumeというユニットのデジタルなコンセプトにも合致している。(デジタル/ヴァーチャルな存在なのか、リアルな存在なのか)
 そのどちらでもあるという

「虚実皮膜」>レジーさんとこで書いたことを色々再録させてもらう

→2009代々木:代々木ディスコmix(フォーマットベース作られる)
→2009:直角edge(フォーマット完成)
→2010東京ドーム:Perfumeの掟
→2012JPN:JPNスペシャル~GLITTER
→2012WT1:edge
→2013カンヌライオン:Spending All My Time(動的プロジェクション)
→2013WT2:同上(OP)
→2013LEVEL3ドーム:Sleeping Beauty(観客3Dモデルとの共演)~PartyMaker(巨大機構+観客・ステージ3Dモデル)~Spending All My Time(動的プロジェクション)
→2014ぐるんぐるん:EPISODE0~エレクトロワールド~DISPLAY
→2014WT3:Spending all my time (DV & LM remix)
→2015:SXSW:STORY
→2015:3569:すごろく、STORY:舞台設計とライヴの構成全体
→2016:CE:すごろく:舞台設計とライヴの構成全体
→2016:CEドーム:Perfumeの掟2016
→2018:Reframe2018
→2018:FPツアー:FUSION、Reframeパート、ステージ構造と演出全体
→2019:Reframe2019


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