見出し画像

(仮)仮想村社会物語

「隣のおばちゃんが来たよ〜!」
小学6年生になる娘美々が台所に入る。
「いないって言ってよ」
「母ちゃんいるって言っちゃった」
「もう〜使えない子だね〜」
夕飯を作っていた手を止めて葉子は玄関に向かった。
「多良々さんこんばんは~」
「どうしたの?」
「うん、上がっていい?」と言いながらカナイ里子は靴を脱いで居間に向かった。
(あちゃ〜長くなるで?)と葉子は舌打ちをした。
 居間にいる美々の姿を見ると里子は
「美々ちゃんあのなぁ〜日曜日に御堂で集会があるんだけど、来ない?お饅頭もあるで〜」
とニコニコしながら声をかけた。
「うん、いい」
美々は急いで2階に上がった。
「あのなぁ里子さん。あの子は興味がないからね…」
「え〜うそ〜前に置いてあげた教本読んだって言ってたで?あの子」
「そうかい?」
「葉子さんは読んだ?あの中でちょうど葉子さんに良い事が書いてあってな。あのな」
「そういえば、旦那さん落ち着いた?」

葉子は話題を変えようとしたが、里子の顔つきが変わったので葉子は(しまった)と思った。
「もう大丈夫だ。あの女狐は退散したからな。ああ〜危ないところだったわ。うちの亭主もきい狂うところだった」

「そういえばカナイさんの旦那さん、シロのセガレに襲撃されたな。いつだっけ?真理さんがいなくなってすぐか?おたくの庭でシロがバットを持って「真里をどこやった!」と叫んどったな」
「あん時はなぁ〜シロのセガレに魔が取り憑いたんだよ〜私が退散させた。何も怪我が無いから警察は呼ばんかったけどな」
「怖かったね〜」
「女狐のせいでシロさんのセガレはきい狂いやがったけどな。もう大丈夫だ」
「あのな〜聞きたい事があるんだけどなんで?」
「女狐のせいだ!」
「ああ〜そう…で、真理さんは結局どうして…」
「わしが追い出したが」
「里子さんが?」
「女狐に会うたびに清い心で説教してあげました。
小汚い人間はこの村から去れ!とな。村が汚れるからな。」
「へぇ…真理さんってふもとのカラオケ屋で店員をしてたんだよね。そこにシロの息子が通い詰めて結婚したんだよね」
「女狐からこの村を守った」
(夕飯の支度が遅くなるからお前が去れよ)
と葉子は思いながらそばに置いていた林檎を里子に出した。
「これ甘いよ〜だけどあげるわ。幸太君にあげて」
「わあ〜っ!ありがとう!じゃあ貰ってくね。」
そう言うと里子は立ち上がった。
(何しに来たんだこの女は…いつもの事だけどな。
しかし、幸太はよく明るい子に育ったわ〜)
「えっ?!なんだい?」
里子が振り返り、葉子がびくっとした。
「何か?」
「里子さんって明るくて心が清い人だとか言わなかったかい」
満面の笑みで里子は言った。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?