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いい子にならなくちゃ

私は大事にされなかったなあ、と今さらながらに思う。

私が生まれたのは田舎の中堅どころの農家で、私は三姉妹の長女。
私の父は二男だが、長男夫婦は子どもに恵まれなかったので、父と母が養子として迎えられ、長男夫婦の子どもになった。

戸籍上の曽祖父母、祖父母、両親、三姉妹、の9人家族。
夜になると、私は祖父母、上の妹は曽祖父母、下の妹は両親と眠りにつく。

おまえが、この家の跡を継ぐのだとくり返し言われて育った。

農繁期には私だけが手伝わされる。

妹たちが泣くたびに怒られるのはいつも私。ケンカをしたわけでもなく、どんな時も理由を聞かれることなく、曽祖母は私の頭をたたく。

夕食の時には、私だけ父に怒られた。ごはんを残した。はしの持ち方が悪い。理由はいくらでもあった。よく外に出された。父が怒り出すと、他の大人たちは皆口を噤む。

曽祖母が土産物をもらうと、まず初めに食べさせるのは妹。そこにあるのに、指を咥えていた。

お盆になると、父の姉夫婦と年上のいとこが都会からやって来る。
祖父は、私たち三姉妹にわからないように、都会一家を観光に連れて行く。
墓参りには子ども提灯を持たされるが、数が足りない時は私だけ持たせてもらえない。
いつもは買ってもらったことなどない珍しいアイスを見るのもこの時だけだ。

それでも私は、おまえが、この家の跡を継ぐのだとくり返し言われて育つ。

子どもというのは不思議なもので、私は自分が悪い子だから、といつも思っていた。
いい子にならなければ、と思っていた。
世界少女全集のような本を読んでは、その言動を真似した。

家の中で母の存在はあまりに薄く、幼い私にはほとんど記憶がない。

時代、というものがあったとしても、なぜこうも妹と差別されたのかと思う。
跡取りの心構えを説きたかったのか。

現在。
実家に帰るときには、妹たちと日をずらす。
父とは当たり障りのないことだけ。

母とは。
私から毎晩電話をかける。何があろうと、どこにいようと必ず電話をかける。

色々思うことはあるけれど、縁を切ると、そのことがかえって自分を苦しめる気がするから。
誰にも、何も言わないつもりだ。

今日も電話をする。天気の話。

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