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ヒューマンズ・ライ

  人もどき、あるいは人。  

 ふらふらとぐにゃぐにゃと定型のない人もどきが、時々呪詛のようなものを吐いたり、あったりなくなったりして、そしてある瞬間人 になる。「大丈夫だよ」「ビョーキには見えないよ」という励ましの言葉は、人になった私に向けられている。

 常態

  ただこの前、支離滅裂な言葉を吐く人もどき のわたしの話を聞いて、友達が泣いてくれた  現状は変わらないけれど、少し救われた気がした。
  こんな雨の日には、赤いマグカップに熱々のスープを入れてゆっくりとかき混ぜ、微かにさざ波を立てる表面を見ながらぼんやりとしたい。  偽物の愛    水溜まり   
 豊かな精神世界を持ち、そこに誰も立ち入らせない人 に憧れる。

 人間もどき
 にんげん
 ヒト
 溶けて

   夜?

  カーテンの隙間から朝日が射し込んで、眩しさの中で目を閉じる。もう憂鬱を感じない。後ろめたさや罪悪感も感じない。かすかな安堵感。
やっとねむれるんだね

 黒い傘で視線を遮って、雨中を歩く

  人間のありかた   友達の境目   性欲
  思想家や詩人はかくして発狂したのだ、という浅い軌跡を辿って、朝も夜も分からなくなった。ただ雨の音を聞きながら、布団で横になる。

境目で 思い出すのは、マサカリカントの修道女
という言葉     行き止まりの看板がある崖のふち 震える手で、真っ暗な崖下の動画を撮っていた。

  最寄りの役所支部に行ったら、もうここでは住民票を取れないと言われた。海抜4.2m。大津波区域。  途方に暮れて自販機で500mlの三ツ矢サイダーを買い、ぼんやりと佇む   炭酸の痺れ     脳も段々麻痺してきて、視界が白かった
  プラトニックが良い、全部

、ときどき雨
偏食家

 住宅街   美味しそうな懐かしいにおい

「あ、ああああああああああ」「わたしもうにんげんじゃいられない」「口の中で灰が燃えるような息苦しさ、乾き、乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き乾き」「なんだこれ糖質か?」「ハンガーにかかった服が首吊ってるみたい」
  優しい幼なじみの鍵垢が、PTSDで荒れていた。でも話してみたらいつも通りで、狂気の片鱗なんて1mmも見えなかった。そうか、私のために人になってくれたのか
  彼女の健気さが、優しさがたまらない思いだった。あなたの憂鬱を抱き締められなくて、ごめんなさい、ありがとう。ごめんなさい。 やっぱりなんだか、この世界は間違っているらしい。狂っているらしい。 優しい人ほど、おかしくなっていく

 人間になるための、嘘

  最近はっきりと分かったが、私はどう足掻いても普通にはなれない。みんなが住んでいる世界で生きられない。人の上辺をうっすらと怖々となぞっている人もどきだ。普通が、できない。   だから、支離滅裂で破れかぶれで、ぼろぼろに退廃した自分の精神世界に閉じこもっている。みんなの吸っている酸素は、私にとって猛毒だった。肺から腐り落ちていく   息が 上手くできない

  前に進めないから、1歩ずつ後退して拾ってみる 過去を、過去を、過去を、過去を、過去を、過去を、過去を、過去を、過去を過去を過去を 拾ってみる         その先には  、  ?

「すべては悲惨な思い出の陽だまりだった」と過去を回想した人がいた。鬱々しい思い出をそんな風に拾えるあの人は、本当にやさしいひとなのだろう

 怪物になる  真っ黒い怪物に

  鬱屈としたコンクリートジャングルに、秋がきた。寒くなると、毎晩窓を開けて寝る。冴えざえと底冷えした空気の中、きっとこんな温度がふさわしいのだと思いながら寝る。

  ふと思い立って、深夜映画を観た。「世界には愛という猛毒が溢れている。愛という気体が地球に蔓延している。」 見知らぬ誰かはそう言ったが、まさにそんな言葉がぴったりと当てはまる映画だった。 溢れるほどの愛情、独占欲、純情。作中にはスウィート・ペインという単語が出てきた。 
 なにより、映像美だった。街と人。廃墟と人。町内会館と人。実家と人。校舎と人。列車と人。無機物と人のコントラストが美しく、画面の向こうにある"未知の街の澄んだ空気"を私も嗅いだ気がした。 しかし「座って映画を観る」たったこれだけの事なのに息苦しくて具合が悪くなり、泣きながら帰った。 難しい。普通は、こんなにも難しい。

「まずまず元気だよ」
「大丈夫だよ」
 人間になるための嘘。偽りの自分。本当に普通の人っぽく見えていますか。変なところはありませんでしたか。 よかったです。あ、 春。廃魚みたいに伽藍堂で地球に近い。寒くてぬるくて、心地良い感覚。

  唯一、私の死で泣いてほしい人がいる。  けれど彼女は強くて自由だし、私はその人生の1要素でしかないから、路傍の友人だから、泣くことはないだろうと思う。切ないなあ    私はあの人が死んだら、きっと傷心して泣く。彼女との思い出を抱き締めながら泣いて、ふたりでブロマンス小説を読んだ修学旅行の夜を、思い出す。多分。 永遠に届かないわたしのプラトニック・ラブの行先は冷たい墓場だろう。

「今幸せかも。寒い部屋で全然酔えないストゼロを飲んでる。孤独だけど傷つけられない。 たまごの殻」
「もし精神崩壊して退職したら、低賃金で楽でよどんだ空気の職場に転職して、毎月少ない給料で数冊の本を買って、花を愛でて、死ぬまでひっそりと絵を描いて暮らそう」
「ずっと頭の中にいる   幽霊なの?」
「……さんになったら世界は何色に見えるんだろう   林檎は?夜の寒さは?食器が溜まったシンクは?朝の1杯の牛乳は?」
「廃墟に少年と一緒に水平に浮かんで、夜で、そこだけが真実で  そこでおしまいになりたい その場面が全てになりたい」
「神様を盲信したい。で、全部諦めたい。帰りたい。疲れた。もう何もできません」

  コンドームの中の精液みたいに無意味な、精神自傷。せっかく神様からいただいた貴い言葉を、こんなふうに扱っては、いつか天罰が下ってしまうだろう…

  なぜか枕元で干上がってるケチャップ、飲みかけで放置されたサプリメント、ティッシュが積まれた空のどん兵衛、使い切った歯磨き粉、部屋中に同じ櫛が6本、満杯になったゴミ袋が何個か、本の塚、飲みかけのチューハイ缶、捨てられずに取ってある賞味期限切れのクッキー。
   汚くなった部屋の、メモ。

でも、やっぱり、幸せになりたい。精一杯頑張って幸せになりたい。喜劇的に、ハッピーエンドに。
  これも嘘、かもしれない    わからない

 野良猫が捨てられた段ボールの上に、雨が降っていた。小学校の前。新月だった。

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