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【書評】『ゴールデンカムイ公式ファンブック 探究者たちの記録』

トップ画像はサハリン州、製紙工場跡。

 これはファンならば買っておいた方がよい。のみならず、北海道史やアイヌ文化や言語解説もあるため、大変興味深い内容となっております。

登場人物のあれやこれや

 補足など。

◆杉元佐一
土方との因縁、出身地、黒猫、結核家系。沖田総司に似ていると思えます。

『ゴールデンカムイ』主要キャラ9名の出自やルーツ 史実からマトメました https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/01/15/115694 #武将ジャパン @bushoojapanより
沖田総司は新選組の最強剣士か? 享年27で夭折した一番隊組長の生涯 https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/06/27/50917 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆谷垣源次郎
あれでもセクシーさを抑制しているんだ……。マタギの山の女神に捧げる行事は調べていて驚いた記憶が。

マタギが凄ぇ! 熊も鹿も仕留める山の猟師たち~ゴールデンカムイでも大活躍 https://bushoojapan.com/jphistory/food-jp/2020/10/29/114358 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆尾形百之助
尾形の祖父:尾形の狙撃は母方の祖父から習ったそうです。戊辰戦争時の銃でもあったのでしょう。やはり、水戸藩士のようです。となると、幕末は壊滅的な悲劇を見ています。
なまじ奥羽越列藩同盟ならば、負け組と一致団結しているものですが。水戸藩は勢力に分かれて分裂、同じ藩士同士で殺し合ったため、猜疑心があふれ、地獄絵図でした。悲惨すぎて、観光にも使えそうにない。水戸藩の地獄は山田風太郎『魔群の通過―天狗党叙事詩』でもどうぞ。読後感が地獄としか言いようがない。
尾形の母:トメという名前。この名前って、「これ以上子ができないように」という願望込みでもつけることがあったはず。これ以上産まれるなと思われていた末娘が芸者になり、家族を養っていたのだとしたら? 明かされれば明かされるほど地獄みを帯びる尾形の家庭事情。ここまでどす黒い奴は、『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー・ボルトンくらいしか思いつかない……。

尾形百之助のルーツと因縁を考察~薩摩と水戸の関係は『ゴールデンカムイ』 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/01/16/115704 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆インカラマッ
彼女の身につけているタマサイは、交易で得たガラス玉や金属をあしらったネックレス。儀式等でしか身につけないものを、設定的にいつでも身につけているということなんだとか。
彼女と谷垣は子ができるわけですが、これもすごく配慮がなされています。アイヌの女性は、強引に性的関係を持たされて、梅毒に罹患する女性も多かったもの。インカラマッ側の明瞭な同意や好意がないと、この関係は搾取的に思えます。彼女の側から誘って、そういうところをうまく配慮したと思えます。
そうそう、彼女のような霊能力者は、この時代ブームでして。貞子の元ネタも当時のもの。明智光秀天海説も、当時のオカルトが背景にあると最近知って、腑に落ちたものです。

◆チカパシ
彼がこれから飲まれる歴史的な波とは、第二次世界大戦のこと。樺太にいたアイヌは日本国籍とされたため、ソ連領になったかれらの住まいを移さねばならなかったのです。

◆土方歳三
下手くそな俳句をよむ土方はかっこ悪い。そう身も蓋もないことを言われてしまう……。誤解されがちですが、あくまで町人時代のサークルでの趣味であって、上洛以降は縁遠くなっています。辞世も和歌だし、彼はがんばった。とはいえ、辞世が漢詩の近藤勇と比べると、教養面では見劣りがすることは否めませんが。

土方歳三35年の生涯まとめ! 生き急いだ多摩のバラガキは五稜郭に散る https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/06/07/112246 #武将ジャパン @bushoojapanより
鬼の副長・歳三も可愛くオシャレに俳句を楽しむ♪今ならインスタ派? https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/03/13/102897 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆永倉新八
斎藤一と比較すると、明治以降新聞取材で新選組時代について語ったり、慰霊をしたり。思い入れが強いという印象を受けます。

永倉新八77年の生涯まとめ! 新選組の最強剣士は激動の幕末を駆ける https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/05/10/112639 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆家永カノ
土方らと同世代、かつ親宣という名からは、かなり格上の医師だったのだとは思えます。これも誤解されがちですが、幕府の医者でも西洋医術を蘭方と称して習得したものです。そういう知識が彼にはあります。

◆門倉利運
陸奥国出身は、予想が当たってホッとしています。仙台藩にせよ、会津藩にせよ、その他の藩にせよ、この年代の陸奥国生まれは不幸の星のもとに生まれている。でも名前はラッキーそのものなんだな。

『ゴールデンカムイ』の門倉は会津藩士か仙台藩士か? ルーツを徹底考察! https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/11/19/126552 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆鶴見篤四郎
鶴見が新潟人でありながら下戸というのはおもしろい。新潟行くと、本当に酒屋ばっかりで。ギフトに酒を贈る文化が根付いていると思えますもんね。とはいえこれも体質はある。
新潟県でもどのルーツかはっきりしませんが、長岡藩は賢くて合理的なイメージが強いもの。そこがルーツじゃないかと思いたい! 個人的な願望もありますけど。

◆月島基
白米が好きな月島にとって、樺太の旅は辛かったことでしょう。稲作できないので、輸入頼りでしたので。これも当時の裕福でない男性らしい好みです。

南樺太の歴史~戦前の日本経済に貢献した過去をゴールデンカムイと共に知る https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/07/08/116084 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆鯉登音之進
薩摩ジゲン流でも、示現流ではなく自顕流は家格がやや劣る藩士のもの。鯉登家はトップエリートではなく、幕末時に精忠組あたりについて躍進した階層と思われます。鯉登の性格的に、バシバシ叩く修行はストレス解消にも便利。花沢勇作は多分あんまり向いていないんでしょうね。当時の薩摩閥はお金を稼ぐ手段がいくらでもあるので、金持ちなのも納得。手鏡持って身だしなみには気遣っているけれど、当時陸軍士官でこの長髪は舐めてます。気遣う方向性がずれているとは思う。
旗手を意識ということは、遊郭は行かないタイプでしょうか。そういう男性の貞操を気にしているのは、彼らのようなボンボンならではの話です。どこまで真面目かよくわかりませんけど。

薩摩示現流&薬丸自顕流の恐ろしさ! 新選組も警戒した「一の太刀」とは https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/05/13/109219 #武将ジャパン @bushoojapanより
日本軍と遊郭、童貞神話 ゴールデンカムイ尾形百之助と花沢勇作の悲劇を考察 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/03/19/122141 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆有古力松/イポプテ
八甲田山捜索にも加わったあたりが流石。でも日本軍は、そういう経験からちゃんと学んだのかと考えると悲しくなる。北に向かった兵士の、装備にまつわる悲しい話を聞いたもので。

戦場に立ったアイヌたち、その知られざる活躍 日露~太平洋戦争にて https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/08/08/114247 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆江渡貝弥作
モデルにエド・ゲイン入ってますよね。野田先生は『羊たちの沈黙』あたりで火がついた、FBIが調べた猟奇殺人犯なんか好きだからさ。彼の母親の性格は、当時の明治時代人のものというより、ゲインの母由来でしょうね。当時の人はそこまで男の貞操に潔癖でもないと思うのです。

◆中沢達弥
改めて名前がギリギリだ……。

◆熊岸長庵
モデルの熊坂長庵偽札事件を調べていくと、なんだか頭痛がしてくるというか、すごく嫌な気分になる。

◆坂本慶一郎・蝮のお銀
この本に元ネタが説明されてます。当時は女性犯罪者にニックネームをつけるのが大好き。夜嵐お絹とか。

舞姫ボコボコ!明治時代の小説はかなりヤヴァ~イというお話を7千字ぐらいかけて紹介する記事 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/06/08/126613 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆姉畑支遁
いいのかよ、ここでムツゴロウさんの名前を出して……。

◆岩息舞治
彼とスヴェトラーナは「大陸浪人」というやつになるわけですな。このあたりは『グッド・バッド・ウィアード』がおすすめ。

◆土井新蔵
やはり岡田以蔵がモデルでした。個人的にすごくいいと思う設定です。赤毛の剣客は、幕末にヘイトクライムしておいて、明治に幸せになろうなんてちょっと甘いんじゃないかと思う。漫画としては好きですが。

岡田以蔵の人斬り以蔵っぷりが狂気! 幕末の四大人斬りで最もガチな生涯28年 https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/08/16/114412 #武将ジャパン @bushoojapanより
『るろうに剣心』主人公・緋村剣心が背負った「人斬りの業」にモヤモヤ https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/08/09/150026 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆津山睦雄
津山事件と犯人名・都井睦雄の合成ですね。

◆ソフィア・ゴールデンハンド
革命の子ですねえ。

帝政ロシア・ロマノフ朝が滅亡しロシア革命が起きるまで https://bushoojapan.com/world/russian/2020/02/01/113730 #武将ジャパン @bushoojapanより

◆鯉登平ニ
育児の悩みをつけこまれた印象が。めんどくさい次男坊で……。別に父として冷たいわけでもなく、息子さんがこじらせていて、愛を理解できなかったのでしょう。

◆有坂成蔵
モデルとなった有坂成章が作っていた兵器は性能がよかったのですが。それが続かなかったのが……。

◆エディー・ダン
北海道史に残るエドウィン・ダンになんて罰当たりな! だがそれがいい。

◆石川啄木
北海道史と日本文学史に残る人物になんて罰当たりな! だがそれがいい。当時のブン屋は割と無茶苦茶ですし。

◆春見ちよ
名前がかわいらしい。

◆鯉登平之丞
“平”をつけているあたり、後継にしたかったことはわかる。当時の基準では色白が大事だし、そんな兄と比べてめんどくさい弟が自分の美貌に無頓着な可能性もあるような。弟が桜島大根が嫌いな原因。めんどくさい弟は、むしろ愛着がある対象をからかってしまう模様。

杉元一行レシピにアイヌの暮らし、言葉について、そして動物!

 ハルコロ監修のメニューも掲載。ここは私も行きました。サイン色紙等もあるし、行くしかないお店です。
 北海道のグルメは独特だと思います。道産子の方が自分たちが考えたと思っていたレシピも、アイヌの知恵由来ということが結構あるとか。
本州では臭いからと避けられた羊がジンギスカンとして定着していたり、食に歴史ありです。

北海道は「食の歴史」も過酷そのもの~米豆の育たぬ地域で何を食う? https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/03/20/121469 #武将ジャパン @bushoojapanより

 アイヌの暮らしをこうして残すのも意義があると思いました。失われる文化をこうして残すという意義が大事。樺太アイヌは、もうそこで暮らせなくなってしまったわけです。
 アイヌの文化や言語は、世界的に見ても消滅が危惧されているもの。漫画で残すことがどれほど大切か!


 そうそう、ロシア語講座もある。ロシア語は、「発音をそのまま書き記すから覚えると簡単、結構楽」らしい。祖父の言葉です。私自身はロシア語はサッパリですので、わかりません。


 姉畑の動物解説も役立ちます。特にヒグマ。道産子に「ヒグマを殺処分しないで!」と言うのは喧嘩を売っているようなものだからやめましょう。
生きるか死ぬかなんです!

ヒグマと遭遇したらどうする? 危険な羆と共生してきたアイヌと開拓民 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/06/19/148683 #武将ジャパン @bushoojapanより

質問に野田先生のインタビュー、杉元や鶴見のこと

 これはすごく価値がある!
 樺太旅行で野良犬が多いというのは、私もそう感じたことでした。飼い犬でも放し飼いというか、特に繋ぐ必要がない認識のようで、近づいてくるのです。最初は驚きましたが、日本もかつては「里犬」といってこういう飼育をしていたそうですね。
 杉元や鶴見のこともおもしろかった!

 日露の歴史は、調べれば調べるほどドツボにはまっていくところがある。日本人は、ロシアとの関係性に無頓着じゃないかということは、幕末以降の歴史やこの作品を読んで、意識するようになっていきました。
 東北諸藩はロシアの脅威を江戸時代半ばくらいから感じている。ナポレオン戦争でちょっと落ち着いたりするけれども、蝦夷地警備なんかしていて、ずっとその圧迫を感じてはいた。でも、明治維新を成し遂げたのは西日本の勢力だから、おざなりにされたんじゃないかということです。そのへんを消化しないと、日本の歴史は何か不健全じゃないかという気持ちがある。そこにこの作品はぴたりとはまる。

幕末の蝦夷地警備は「五」だけじゃなく三、四、七稜郭も配置されていた https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/01/05/116089 #武将ジャパン @bushoojapanより

 ウロコ彫りについての漫画も必読。本書の書き下ろしはともかくおもしろいけれども、問題提起として優れているのです。和人が勝手にアイヌの伝統をジャッジして、悪い噂を広める現状はどうなのか? そういう問題提起になっていて興味深いと思いました。
 アイヌの歴史は、ロシアや中国大陸までたどらないとわからないこともあるし、難しいと思えるのです。

 そんなわけで、買うしかない貴重な一冊でした。

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