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最近読んだアレやコレ(2021.03.28)

 最近小説を書くのが楽しくてインプット方面がおろそかになっていたのですが、読んだら読んだでそちらも大変楽しく、1週間で小説を2本も消化してしまうなど、まあ、あれやこれやじゃんじゃんばりばり忙しくも愉快なことですね。やってる時の幸福濃度で言うならば、アウトプットの方がやや高い気がしなくもないんですが、やり始めるとプライベートのリソースが全てそれに集中してしまい本当にそれ以外何もできなくなってしまうので、そりゃあ当然幸福の「濃さ」は高かろうが、比較としてはフェアじゃないという感じです。楽しいからそれしかやらなくなるのではなく、それしかやらざるをえない状態に陥るから、それが楽しさに結びつくと言うか。ちなみに、私は読書の際は、集中力が続かずちらちらネットとかをわき見したりしてしまうタイプです。喫茶店とかに行っても、10分に1回はスマホをのぞいちゃう。

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ブルーローズは眠らない/市川憂人

 ミステリ長編。〈マリア&漣〉シリーズ2作目。1作目の感想で同作者の作品はガンガン読んでいきたいと書いた癖に1年以上間が空いたのはどういうことなのか。青い薔薇の開発に成功した学者と牧師の対立を巡り殺人劇が進行してゆく「ブルーローズ」と、青い薔薇を開発した学者の家で「俺」が体験した恐怖の1夜を描く「プロトタイプ」……2視点の物語が交互に語られる作りは前作を踏襲したものではあるのですが、本作の大きな特徴はその2つのストーリーがどういう形で関わり合っているのかがはっきりと理解できないもどかしさにあるでしょう。ガジェットやキャラクターの面で、明らかな一致を見せながらも、要所要所に挟まれる2つのお話の「ずれ」は、強烈な誘引力を持って読者をこの小説に引きずり込んでゆきます。読書体験上に発生するその謎は、もちろん、解決編で非常に高精度な本格推理小説として昇華されることになるのですが……個人的にはそちらよりも、「わからなさ」に引きずり回される、問題編のサスペンスの方が好みだったかも。また、最早煎じても手垢の味しかしないであろう「青い薔薇」というガジェットが、時にお約束通りに、時に予想外に、ストーリーに噛み合ってゆく様も見事で、読んでて5回くらい「ビューティフォー……」と呟きました。お話を読む楽しさに溢れた素晴らしい小説でした。3作目も絶対読む。


ニセ札つかいの手記 武田泰淳異色短編集/武田泰淳

 知人に薦められた『ひかりごけ』がおもしろかったので、同作者から何かしらもう1つ……という経緯で手に取った本。短編集。感想としては1言でして、「エ、エンタメになってる~!!」です。いやほんとびっくりしました。手つきとしては同じなのに、カメラのコントラストに調整をかけるだけで、ここまで違った形で小説が立ち上がるのか。キャラに憑依しながらも、どこか主観になり切らない観察眼のドライさは据え置きであり、しかし、そのカメラの切り取りの輪郭がより明確になったことで、いずれの短編も「これがどういう話なのか」がラストセンテンスで強烈にぶつかってくる。書かれているお話はどれも極めて主観的な、もやもやとした霞をすくうようなものであり、「で、何が言いたいの?」と言いたくなるようなもので……そして、最後の最後でその靄が一気に凝縮されて形を作り、「何が言いたいのか」が明らかになる。その強烈な過程と結末のギャップは、まぎれもなくエンタメのそれでした。個人的な好みとしては、靄が靄のままで形を作らず、しかし、これがどういうお話なのかがじわりと染みだす『ひかりごけ』の方が上なのですが……読み物としての痛快さでは本作に軍配が上がると思います。個人的なベストは「めがね」と「空間の犯罪」。


鏡陥穽/飛鳥部勝則

 長編小説。殺したはずの男との再会。日常を侵食する自分と同じを顔をした誰か。猟奇的な騒動の背景に見え隠れするのは、異国から持ち込まれた魔性の鏡……。「映した人間を増やしてしまう鏡」というアイデア自体はテンプレートなはずなのに、そこから展開されてゆくお話の異形ぶりの凄まじいこと凄まじいこと。「人体を映す」という行為をどこまでも倒錯的に突き詰め、眩暈を起こすほどに艶やかな猟奇と淫猥に高めてみせかと思いきや、それをやりすぎてスラップスティックを通り越し、なんかもうただのアホバカ小説みたいになってしまったりもする。ホラーなんだかミステリなんだから、真面目なんだかふざけてるんだかさっぱりわからないジェットコースターぶりがとにかくめちゃくちゃにおもしろく、「なんだかわからんけど、辛抱たまらん」という説明不能な魅力に繋がっています。明らかに本作とマッチした稲垣考二の巻頭画が後付けだってのも意味がわからなくて凄い。飛鳥部小説は、刊行順に探偵小説談義としての文脈を重ねてゆく「シリーズもの」のような作品群なのですが……本作はその文脈から外れたものであり、ゆえに、より普遍的で本質的な「飛鳥部勝則」という作家の異形性を直で顔面に塗りたくられた気分です。暴れ馬のような怪作でありながら、エピローグがどこまでも、静かで、美しく、そして悲しいのも憎らしい。傑作でした。単体で見るなら同作者で1番好きかもしれない。


バトゥーキ(6巻~10巻)/迫稔雄

 カポエイラ漫画。現行連載分もヤンジャンアプリで追っているんですが、鉄馬戦の決着がはちゃめちゃによくて、つい悪軍鉄馬編をまとめて読んでしまいました。バトゥーキは初期のなんかよくわからん感じだった頃がとても好きで、カポエイラ漫画という指針が明確になって以降は「なんかはっきりしちゃったな……」という感じで読んでいたのですが……そのはっきりしたおもしろさは話数を重ねるごとに指数関数的にブチ上がり、今ではなんかもうとんでもないことになってしまっています。しかし、1シリーズでありながら、学園祭、格闘トーナメント、最終決戦と3つも大トロがねじ込まれてる悪軍鉄馬編、とんでもないですね。おもしろさが過剰すぎる。読む麻薬ですよ。飛んで跳ねて殴り合う格闘技者たちの人体は、漫画としてとことん過剰に美しく描かれており、それだけでもよだれが落ちるほどの満足度。造形としての美と、その機能が果たせる動きの美。そしてそれらをどこまでも高めてゆくのは、ビリンバウの音色、そしてカポエイラを学んでゆくイッチたちの精神であり、それが本作を格闘漫画ではなくカポエイラ漫画として強く定義づけています。マツダのCMを口ずさみながら鉄馬のところにイッチが飛んでくるシーンは本当に鳥肌が立つ。かっこよすぎる。何度読んでもガッツポーズしてしまう。


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